第三章 第46話 四者会談 ―4―

「なっ…………!」


 合一ミラン・イース阻止マリハーヴする、もの?

 阻止、する? ……って、どうして?


 いや、落ち着け……俺。

 いちいち言葉尻だけで、脊髄反射するのはよくない。

 皆の前だけど、俺は敢えて深呼吸をした。

 そんな俺を、リューグラムさんとコレットは心配そうに見ているし、カルヴァレストさんは微妙に視線をずらして、こっちを見ているようで見ていない感じだ。


「イングレイよ。率直な物言いは私も好むところではあるが、事が事だけにもう少し説明アザルファが必要なのではないか? 特に八乙女さんノス・ヤオトメたちにとっては、彼らの行く末を左右すると言っていい大事な情報フィルロスなのだ」


「仰せの通りにございます、御屋形様ノスト・ユーレジア。そして、申し訳ございません、八乙女様ノスト・ヤオトメ。まずはわたくしの話をお聞き願えますでしょうか?」


「も、もちろんです。お願いします」


 どうやら、話には続きがあるらしい。

 俺はどうも、こっちの一番大事な柱である「元の世界に帰る」ことを全否定されたような気がして、情けなくも動揺してしまったようだ。

 カルヴァレストさんの意図がどんなことであったとしても、まずは話を全部聞いてから判断して、対策すればいいだけのこと。

 落ち着けっての、俺。


「まず結論から申し上げますと、合一によって世界ソリスこうむ影響エラギア計算ユートレークできないからです。八乙女様は、二つの世界が一つになったとして、一体どのような事態が起こるとお思いになりますか? 土地テーロスオーゼ空気ウィリアなど、自然デューリアがどのような形になってしまうとご想像されますか?」


「……分かりません。でも、大変なことになるかもしれない、とぼんやり思います」


わたくしもそのように危惧しております。そして、そのような事態を招かないためにレアリウスは設立されたのです」


「イングレイよ、敢えて反論させてもらおうが、合一などという未曽有の現象センプレシーディカ、実際になってみなければ分からないのではないか? もしかしたら何も起きない可能性エヴレコスだって考えられるであろう?」


 リューグラムさんの指摘に、カルヴァレストさんはうなずきながら冷静に答える。


「確かに、その可能性もありましょう。しかし、起きてしまってからでは遅いとレアリウスでは考えております。御屋形様は為政者レグナートとして、生きとし生けるものオラルドーラ運命フェルディスを、どちらに傾くか分からない天秤エクヴィーブルに乗せるべきだと仰るのでしょうか?」


「ぐ……それは……」

「それに、結果を全く予想出来ないというわけでもないのでございます」

「何?」

「……星祭りアステロマでございます」

「星祭り? 毎年チウヤーニュ行う、あの星祭りのことか?」

「いかにも」


 星祭り、か。

 エレディールの一年の終わりに五日間かけて大々的に開かれる、あのお祭り。

 何だか懐かしくも、複雑な気持ちを思い出させる言葉だ。


 腹ペコで過ごした最初の三日間。

 そう言えば四日目、上野原さんと一緒に演劇をたっけな。

 最終日にはみんなで不思議な団子を作って、それが夜空に舞い上がって描いた美しい星空を、一人で眺めた。

 そんでもって――――山吹やまぶき先生を泣かせて、壬生みぶ先生に殴られて……。


「星祭りにおいて、開催されるどの市町グラドハッドでも第四日目タスガディーナには演劇テアトロスが催されます」

「それはもちろん、知っている」

演目プルガルモも、ほとんどの場所では決まっております」

「そうだな、確か望星教会エクリーゼの……」


 そう。

 そもそも星祭りってのは、エレディールの神話に伝わっているある出来事を、五日間かけて追体験するという意図があったはず。

 その神話は、望星教会ぼうせいきょうかい聖典アスキュラータとやらに書かれているんだったかな?

 まあ俺たちが元いた世界にも、ぼう一神教とかに聖書とかクルアーンとかあったから、そういう類のものなんだろう。


「その通りでございます。あの愚かなゲルトゥス望星教会による、偽りイズーラに満ちた書――聖典アスキュラータでございます」


 ゲルトゥスって……カルヴァレストさんの目が怖いんだが。


 そう言えばさっき、リューグラムさんが言ってたな。

 あの時のカルヴァレストさんの話と合わせて考えると、レアリウスと望星教会が十年前に大規模な抗争を引き起こしたってことか?

 それならまあ、今のカルヴァレストさんの表情にも納得はいく。


「もちろん、あの書に書かれている全てがウーラだと申し上げるつもりはございません。それに、意図的に事実を捻じ曲げたと言うよりは、長く長く伝わるあいだに少しずつずれてしまった結果だと考えております。しかしそれで、現在の望星教会上層部エスカレーラ・スープラの罪深さが多少でも薄れるわけではございませんが」


「ふむ……望星教会の何がまことで何がいつわりなのか、その罪深さ・・・とやらが何なのか、いちいち聞いてみたく思うが、とりあえず話の本筋ほんすじを外すわけにはいくまい。合一の影響と望星教会の聖典が、どう関わっているのだ?」


「はい、『創世の章カピトロ・アノニス』にございます。『旧き神々の闘争ヴァルカ・ノヴィナ・ステーラ』から、『新しき神々と世界イナエスキム・エナリウス』に至る一連の神話ミオタソイル部分。ここに描写されている場面ラハークこそが、予想タナディロの足掛かりとなるのでございます」


 星祭りの時に、リィナたちから聞かされた物語。

 確か……神様たちがたくさんいて、結構大物の一人が反乱を起こした。

 結局、反乱を起こした方は地の底だかに落ちていったけれど、起こされた方の神様たちも大怪我をしたりした上に、その影響で地上がめちゃくちゃになった、と。

 で、生き残った神様たちが力を合わせて復興に尽くした……みたいな内容だった。


おおむね、その認識グニティで間違っておりません、八乙女様」

「はあ……どうも」


「問題は、その内容が偽りであることにあるのですが、ここはその真偽ヴェロスィズーラを明らかにする場ではございませんゆえ、それは置いておきましょう。端的に申し上げまして、『世界が闇に覆われたソリスナユーノ・ナエスタキア・アラベラドゥロス』というくだりの辺りの描写が、合一の際に起こると推定される部分なのでございます」


「世界が、闇に……。その描写をもし覚えているのなら、ここでそらんんじてみてくれないか? イングレイ」

かしこまりましたセビュート


 カルヴァレストさんが、語り出す。


 ――神々が何処いずこかへお隠れになった後、世界は闇におおわれました。

 ――建物は廃墟はいきょとなり、田畑でんばたは荒れ地と化しました。

 ――海原うなばらを行きう船も、市都しと村邑そんゆうつなみちえ果てました。


 ……あー、言われてみればそんな感じだった。

 ただ、確かに地上の人たちにとっては天災とも言える過酷な出来事だったんだろうけれど、それが合一の結果として起こること同じだって言う根拠は何だ?


 リューグラムさんも同じ気持ちだったようで、その辺のことをカルヴァレストさんに問いただしている。


「当然の疑問でございましょう。それは、『すれ違いエルカレンガ』がその時をもって生じた・・・・・・・・・・とレアリウスは考えているからでございます」

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