第三章 第45話 四者会談 ―3―
「もとより、自らの
こう前置きして、カルヴァレストさんはレアリウスについて話し始めた。
「レアリウスについて語るにあたり、どうしても外せないものがございます。皆さまは、『
エルカレンガ? ミラン・イース?
初めて聞く言葉だが……エレディール共通語初心者の俺には、そんなものはまだまだたくさんあるはずだ。
コレットは首を傾げている、ということは彼女も知らない言葉。
何かの専門用語か、あまり一般的なものじゃない可能性がある。
しかし、リューグラムさんはと言うと、カルヴァレストさんの言葉を聞いて一瞬だけはっとしたような表情をしたのを、俺は見逃さなかった。
とは言え立場上、普通じゃ知り得ないことを心得ていたとして、何もおかしいことはないだろう。
「私は……知っているよ、イングレイ」
「さすがは
「知らなければ話が始まらないのなら、当然するべきだろうな。それに……」
そう言って、リューグラムさんは俺たちを見た。
「ある意味
「
俺と
「話の前提として、『
その通りだ。
信じるとか信じないとかの前に、俺たち二十三人は明らかに別の世界から来た。
だけど……。
「え、あ、はい。ですが、正直なところ、私は
「……それはどういうことでございましょうか?」
「理由はいくつかあります。ただ、ここで私が説明を始めてしまうと、せっかく始まったカルヴァレストさんの話の腰を折るような気がします。今は二つの世界が存在しているということにして、先に進んだ方がいいように思うんですが」
「いや待ってくれ。その話、私も大いに興味をそそられている。なるべく簡潔に説明してもらえないだろうか?」
答えたのは、リューグラムさんだった。
仕方ない、説明しよう。
「分かりました。それでは……決定的なものをひとつだけ、それは――夜空に
「
「ええ、正確に言えば夜だけではありませんが。空に輝く星々が、本当は昼間も夜と同じように存在していることは知ってますか?」
「えっ」
「えっ」
「!」
「!」
コレット、リューグラムさん、カルヴァレストさん、ラーシュリウスさんの順での反応だが……そうか、この世界ではこうなのか。
「どういうことなのだ? それは」
ラーシュリウスさんが、何だか困った顔で問い返してきた。
お前は何を言ってるんだ? とでも言いたげな表情だ。
「
「……」
四人とも言葉を失っている……のか?
そう言えばエレディールの天文学とか、どうなってるのか全然知らないな。
まあいい。
とにかく結論を言わなきゃ。
「夜空の星の姿が同じということは、私がいた世界とこちらの世界は、
「チキュウ……」
「もしかしたら、地球の隣りにある火星や金星からなら、割と近い星空になるのかも知れません。行ったことがないので分かりませんけれど」
「隣りの星、なんてものがあるのかね?」
「はい、例えるなら太陽を親とした兄弟星というところでしょうか。ですが、それらの星の空気は地球とは全く違いますので、私たち人間は
こんなところで、理科の授業をすることになるとは思わなかったな。
まあ俺、理科主任だけどさ。
……
「一方で、同じ世界ではないというこの上ない理由もあるんです。それが『
「あ、ああ。確かにそうだったな」
「私のいた世界では、魔法とは物語の中だけに存在する、架空のものです。こちらの人たちのように、息をするように自然に行使できるようなことはありません。つまり、エレディールは魔法と言う別の物理的な法則を持つ、別世界という結論に落ち着きます」
「矛盾する二つの事実がある、ということか……」
「その通りです。だから私は、地球にあった世界とエレディールがどういう関係にあるのか、答えを出せずにいるんです」
「しかし、だな」
思い出したように、リューグラムさんが口を開いた。
「君たちニホンジン全員ではないが、八乙女さんを含めた数人は
「それもまた、答えが出ない原因でもあるんですよね……」
俺はぽりぽりと頭を掻きながら答える。
魔法については、俺の方こそ真実を知りたいと思っているんだ。
「日本人は使えなくてあなた方エレディールの方たちは使えると、明確に分けられたのなら、二つは別々の世界だと結論付けられたかも知れません。でも、違ってしまった。つまりこれは、私とあなた方が同じ種類の人間であることを示していると考えられます」
「なるほど……
肩を竦めるリューグラムさんの言葉を、カルヴァレストさんは引き取って続けた。
「では、そのように。先ほど申し上げた『
「ええっ!!?」
今度は俺が驚く番だった。
コレットを見ると、彼女も目をぱちくりしている。
そもそも世界が二つあるかも知れないなんてこと、当事者の俺だって知って一年も
それが一つになるとか言われたところで、ピンと来なくて当然だ。
それにしても、日本のある世界とエレディールが一つになるって……一体どういうことなのか、俺にもさっぱりイメージが浮かんでこない。
「なぜ二つの世界があるのか、どうしてそれらが繰り返しすれ違い、最後にひとつになるのかということについては、残念ながら今では伝えられておりません。かつてはレアリウスにも残っていたそうですが、残っていたという事実以外、気が遠くなるような時間の中で失われてしまったようでございます」
結局のところ、そのミラン・イースとやらが起こるという事実を裏付けるものは何もないってことか。
「イングレイよ。その二つの
「御屋形様。そのお方のお名前は……?」
「今はまだ言えん。で、どうなのだ? それだけなのか?」
「御屋形様。
「それはつまり、
「仰せの通りでございます。御屋形様」
正直、何を言っているのかあまりよく分からない。
と言うか、世界が一つになるという言葉のインパクトが強すぎて、とりあえずこいつを何とかしないと話を続けられない……!
何故なら、何故ならば……!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺の必死の声に、一同の目が俺に集中する。
駄目だ、声が
「そ、その、私のいた世界とこのエレディールのある世界が、一つになるというのは本当のことなんですか!?」
もし、それが本当なら――――――
「はい、
「そ、それは、つまり……え? 残念ながら……?」
どういうことだ?
だって、世界が一つになるってことは、要するに、俺たちが
それが、残念?
残念って何だ?
何で残念なんだ!?
「八乙女様のお気持ち、お察しいたします。さしずめ、元の世界にお戻りになれるとお思いになったのでしょう。合一が成れば、その事実に間違いはございません」
「な、なら……」
「何故なら
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