第三章 第40話 侵入
「さて、と」
日もとうに暮れて、家々の
ユーリコレットは今、ピケ中心部のある大きな
その建物はぐるりと高い
しかし
そこは領都ピケの治安維持部隊(第三大隊=三番隊)が本拠地とする「
普通「
当然のことながら、門に限らず厳しい
しかし――――
「
コレットが一度、自分の上下左右前後をぐるりと見回してから「
この
(それじゃ、行きますか)
コレットは、門に向かって静かに歩き始めた。
彼女がこんな物騒なところに出向いてきたのは、当然、中で
ちなみに彼女の「メルオイア」は、簡単に言えば保護色を利用した魔法である。
一般的なそれと比べて優れているのは、彼女の身体の全方向に対して効果を発揮するところである。
(静かに……静かに……)
そして、気を付けなければならないのは、本当に姿が消えてしまったわけではなく、背景の風景を体表に映し出しているだけである、ということだ。
視覚的に感知できなくしているだけであり、それ以外の
「……ん?」
(ひー……)
おまけに、勘の鋭い者にはちょっとした違和感を
現に今、衛士の一人の注意を引いてしまっていたりする。
幸いなことに、彼は視線を向けた方向に何も確認できないことから、気のせいだと判断したようだが、コレットはいつものことながら気が気ではない。
(ふー……危ない危ない)
文字通り第一関門を無事通り過ぎ、コレットは
足音をさせないようにするのは当然として、現実的に気を配らなければならないのは「ぶつからないようにする」ことなのだ。
何しろ周りから見れば何もない空間なのだから、時々通行人が真っ直ぐコレットに向かってくるのである。
前方であれば目視できるが、左右から、特には後方から高速で移動してくるようなものに対しては、より
建物の入り口が近付いてきた。
コレットは扉ぎりぎりに近づき、上着の中から
「んっ?」
「む?」
カツン、という音に衛士が気を取られて視線を外しているごくわずかな
(よし、侵入成功……と)
中から出てくる人にぶつかることもなく、コレットは建物の中に入った。
建物の中ではなおさら、他者とぶつからないようにしながら、目的地である牢を目指す。
内部構造については、
(
地下牢の手前にある、当直の衛士たちが詰めている部屋の前で、協力者は待っているはず。
これもコレットにとって幸いなことなのだが、その協力者が本日の当直を務めることになっていたのだ。
こうしたちょっとした運の良さ、彼女が関わった事態は決して最悪の展開となったことがないことから、コレットは姉であるマルグレーテに「持っている」と評されているのである。
目的の人物を見つけて、コレットは
突然、目の前に現れた彼女に協力者は驚いた表情を浮かべたが、当然彼もコレットの魔法については知っているので、思わず怪しげな声を上げてしまうようなことはなかった。
(ついてこい)
と身振りで伝える協力者の後を、コレットは静かについていく。
しかし今日のところは、どの牢も
コレットはこのことにも「ついている」と思った。
目撃者は少ないほど、いい。
通路の一番奥からひとつ手前の牢の前で、協力者は止まる。
薄暗い中、確かに人の気配をコレットは感じ取った。
「
コレットは
ごそごそという音とともに、八乙女涼介が顔を見せる。
「コレット、来てくれたのか」
「うん、何かこんなことになっちゃって、ごめんね?」
安堵に満ちた表情の涼介に、コレットは片目をつぶって答えた。
「……」
「……」
「……どうしたの? 八乙女様」
「いや」
涼介は首を
「あまりしゃべらない方がいいだろうと思ってさ、
「ああ……それはね、牢屋の中とこの通路のところでは、
「そうだったのか……どうりで」
涼介とコレットが静かに会話している中、協力者は黙って
「とりあえず急いでくれ。他の衛士の目につかないうちに」
涼介はうなずくと、奥で膝を抱えて座っていた瑠奈の手を引いて立ち上がり、牢の外へと出た。
協力者は牢に錠を再びかけ、三人の先頭に立って歩き始めた。
◇
通路を通り、衛士部屋の前を過ぎ、上へあがる階段を一行はゆっくりと
予定では、裏口から三人を密かに逃がすことになっている。
――しかし。
階段を上りきり、一階にたどり着いた彼らを迎えたのは、交差された二本の
後ろで、別の衛士が彼らの行く手を
その男の顔に、涼介は見覚えがあった。
彼こそ、途中から尋問を代わり、傍若無人かつ傲慢な態度で涼介に
「貴様、どういうことだ?」
ハンスオーロフが、先頭の協力者を
「その二人と……知らない女だな? なぜそいつらが牢を出ているんだ?」
「あ、いえ。その、これは――」
「おい、こいつらを
協力者の言葉が終わるのを待たず、ハンスオーロフは短槍を持つ二人に命じた。
騒ぎを聞きつけて、他の衛士たちが集まって来る。
「それと、その衛士もだ。
ハンスオーロフの言葉で、周囲の衛士たちが武器を構えて近づいてきた。
思わず身構える涼介と、彼の後ろで服の裾をつかみながら隠れようとする瑠奈。
(……やるしか、ないのかな?)
コレットが周囲の状況を把握し、最終的かつ物騒な手段を取ろうとしたその時――
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