第三章 第39話 三者三景
「う……うぅ……」
「も、もう……少し、だ」
アーチーは、建物と建物の
彼は壁を利用して、無事な方の腕を壁につけ、コレットに外された肩の方の腕をだらりと垂れ下がらせている。
彼がなぜ、そんな方法を知っているのかは定かではない。
しかし、怪我の応急手当てにある程度精通している
ヌルン、という何とも言えない感覚と共に、上腕
軽く肩を回してみる。
つきり、とわずかに痛むので、
アーチーは安堵のため息を
しかしそれは、今後の彼の行く末に対しての、不安のため息でもあった。
(
恐らく、「
あのアロイジウスとか言う、
(セラのことは気になるが……くそっ)
あの二人――ヤオトメとクガ――を追おうにも、
おまけに、ただ単純に任務を失敗したというだけでもマズ過ぎるのに、あろうことか彼は味方側であるはずの実行部隊の一人に、
その男のとどめを刺したのは、あの
(どうして俺は、あんなことを……)
正直なところを言えば、アーチーにヤオトメを助けようと言う気はなかった。
それなのに、気付けば地面に伏せたまま、彼は短刀を放っていた。
そしてそれは、今まさにヤオトメを害さんと銀色の
(て、手元が狂っただけだ……そうに違いねえさ)
いくら体勢が悪かったとしても、あの距離で俺が外すわけがねえ、という心の声に
目的も、目的地も明確に定まらないまま、アーチーはふらふらと歩き出した。
◇◇◇
「はあ……
パタン、と閉まった
ここはピケにある、
言わずと知れた、コレットたちの拠点である。
たった今出て行ったのは、衛士として
協力者は、重大な
コレットは頭を抱えながらも店の奥へ続く扉をくぐり、別の一室へと入った。
そこには「酒場」という名にまったく似つかわしくない、医療器具や薬品などに囲まれて、アリスマリスとヴェンデレイオがいた。
ヴェンは
「ヴェンはどう? マリス」
「うん。一応つながったと思うわ。ちゃんと動かせるようになるには、まだしばらくかかると思うけれどね」
「そう、よかった……」
彼女は
エレディール――少なくともピケにおける
しかし、
今回ヴェンが負った傷についても、切断された腕を外科的に縫合した後、魔法によって治癒力を促進することで再結合させている。
「それで、
「うん……
マリスの問いに答えるコレットは浮かない顔だ。
何となくいい
「
「ええ? どうして?」
「はっきりとは言わなかったけど、
「そんな! どういうことなの!?」
コレットは瞳を伏せながら続けた。
「途中から、
「
「思ったより深く、レアリウスの手が回っているみたい」
領都ピケでは、
領都は
「まさかとは思うけど、ヒエロリウス(三番隊隊長兼、第四中隊隊長)が関与してるのかしら?」
「どうだろね。あの人なら、仮にそうでもおかしくない気がする。
コレットはきっぱりと告げた。
「これから、八乙女様たちを助けに行ってくる」
「一人で大丈夫なの?」
「正直
「そうだけど……」
「一応さ、さっき帰った衛士にも
「分かった」
マリスは余計なことは言わず、ただ一言で了承した。
「マルグレーテ様には、さっき
「げっ……何て言ってた?
「牢に入れられたことは、今聞いたから言ってないけれど、
「ま、そうだよね」
コレットは、両のほっぺたを軽く二回ほど叩いて言った。
「じゃ、行ってくるね」
「気をつけてね」
◇◇◇
「な、何だと……?」
ドルガリスは、「
「信じられん……あの
「『耳』によれば、
「魔法……」
ドルガリスに報告しているのは、ここ「
もちろん、レアリウスの一員でもある。
考え込むドルガリスに、彼は続ける。
「
「それならなぜ、失敗したのだ?」
「ほどなく
「むう……」
「
「そこまでは、何とも。そして、もうひとつ」
「まだ何かあるのか?」
ドルガリスは従業員に
彼はそれを流し、淡々と報告を続ける。
「
「アーチーがどうした?」
途端に
「アーチークレール殿が、
「……何だと?」
「アーチークレール殿が投げた
ダンッ!!
ドルガリスが机に両手を叩きつけた音にも、従業員は眉一つ動かさない。
彼の
「……それは本当のことなのか?」
「『耳』によれば、確かだそうです」
「あンの
ドルガリスのこめかみに、ビシリと青筋が立った。
「役に立たねえどころか、裏切りやがっただと……?」
ドルガリスは大きく息を吸い、吐き出した。
それをもう一度繰り返すと、彼は従業員に冷たい声で告げた。
「……セラを呼んでこい」
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