第三章 第32話 いたぜ……
「いない……」
何があったのか分からないけれど、きっとドルさんと揉めたんだ。
あの
どうしよう。
何だかすごくイヤな予感がする……。
◇
「いたぜ……」
アーチークレール・モレノアは、ピケの
彼の視線の先には、探し求めていた者たちの姿があった。
あの背格好……ヴィーザランを
二人の後ろには見知らぬ、ただ明らかに
(いやがった……が)
そう考えるアーチーの顔は、前日にドルガリスから受けた暴行の傷もまだ生々しく、右頬には簡素な麻の
口元の血こそ
彼の両手はそれぞれ
不安な気持ちを少しでも
彼としては、狙われていると分かったはずの彼らが、たとえ護衛をつけているとは言え、堂々と街を歩いて姿を
だから、夜通し街を歩き回り、そろそろ陽も高くなり始めた頃、偶然二人の姿を見つけた時にまず思ったのは「
それでも、もし慎重になり過ぎてどこかの建物に入られてしまえば、それで機会は永遠に失われてしまうかも知れない。
アーチーは短刀の
――彼の唯一の
そして、短刀の先には
獲物は視認済み。
しかも、まだ向こうには気付かれていない。
準備は万端である。
しかし今回の場合、
二人とも確実に仕留めるには、どうしても直接体内に
そして何よりの問題は――アーチーがまだ、生身の人間に対して
しかしそもそも、他人を殺傷するのが目的で修めた
(いや……やれる。
アーチーは自分を鼓舞する。
その時、何故か分からないが、彼の脳裡を
自分が役目をまっとう出来なければ、そのツケがセラに回ってしまう。
そうならないためにこそ、自分はレアリウスの下っ端として頑張ってきたし、その胡散臭い存在を彼女の目から隠し、遠ざけてきたのだ。
(……よし)
自分の行動原理を再確認したことで、少しだけ勇気が湧いてきた気がした。
アーチーは相手に気取られないよう、慎重に
彼は今、八乙女涼介たち一団の後方
――彼我の距離が
雑踏の中だが、集中すれば彼らの会話も耳に届いてくるようになった。
どうやら
この辺にある店だと……アーチーの知る限り、何軒もある。
入店する前に実行するか、店を出るまで待つか――アーチーは悩む。
――距離を
既にアーチーと八乙女たちを
思い切り駆け出せば、すぐに手が届くところに
しかし……後ろを固める二人の護衛が、彼らの背後にも十分気を配っていることは明らかに分かる。
ぐるりと回りこむうちに、
(もう少し……せめてあと
右前方を歩く男の方の視線が、肩越しに自分へと投げかけられた気がする。
……気付かれたか?
アーチーは少し考え、左側から一団を追い越しざまに
ゆっくりと歩みを速めながら、彼はじりじりと近付いていく。
一歩進むごとに、
女性の護衛と、横並びになる。
次の一歩を出すと同時に、アーチーは右手の短刀を
(!!)
その時アーチーの瞳に映ったものは、驚愕の表情を浮かべる少女の顔だった!
そして、次の瞬間。
「ぐはっ!!」
アーチーの視界は反転し、凄まじい衝撃と共に彼の身体は路上に叩きつけられた。
同時にアーチーの右腕はコレットによって固く
「うぐぐぐ……」
彼女は地面に落ちた短刀を素早く拾い、先端が濡れていることを確かめると慎重に自分の
もう一人の護衛、ヴェンデレイオ・オーブリール――ヴェンが、涼介と瑠奈を
「
「
彼女が台詞を続けようとした瞬間、三つの黒い影が三方向から、突如として彼らに襲いかかった!
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