第三章 第31話 エルカレンガ
「ヘルマイア、聞いたか?」
「何をだ、エヴェリア」
ここはザハドのとある場所にある
レアルコスが、ザハドに置いている
そこにいるのは、二人の
ヘルマイア・オズワルコスと、デアシルカ・エヴェリアだ。
二人とも、レアルコスを
「ピケに派遣した
「ああ、その件か」
オズワルコスが昼間、
「
「だといいのだがな」
アロイジウスは、その実行部隊の「
「お前は最初に『
「分かっている。だからこそ、今度はアロイジウスを送ったのだ。確実に
「せいぜい私に
オズワルコスが何か答えようとしたその時、
「誰だ」
「
「通せ」
扉の向こうからの答えにオズワルコスが指示を出すと、二人の男が静かに入室してきた。
それまで無表情だったオズワルコスは、人が変わったような笑顔で来客を迎える。
「いらっしゃいません、カガミさん、ミィブさん」
「お邪魔しますよ、オズワルコスさん……おや?」
部屋に入ってきたのは、
鏡は、オズワルコスの他に見知らぬ人物がいるのに気付いた。
「そちらの女性はどちら様ですかな? ご紹介くださるんでしょうね?」
「もちろんです。こちらは」
オズワルコスは、エヴェリアを手で差して言った。
「デアシルカ・エヴェリアと言います。私と同じ、レアリウスの
エヴェリアは黙ったまま、軽く頭を下げた。
それに合わせて学校側の二人も会釈を返す。
「私は鏡龍之介、こちらは壬生魁人と言います。よろしく、エヴェリアさん」
鏡の自己紹介に、エヴェリアは一瞬きょとんとしたが、彼の言っていることを察したのか、小さく
オズワルコスはひと
「すみません、カガミさん。あなた方の話す言葉を理解できるのは、今のところ私だけなんです」
「おお、そうでした。我々がこちらの言葉を覚えればいいのだが、どうも私や壬生にはそちらの才能があまりないようでしてな。今日は
「気にしないでください。私がいれば話は出来るのですから。さあ、まずはお座りください」
勧められるままに、鏡と壬生は
小さな
エヴェリアは何を思うのか、オズワルコスの後方で立ったまま動かない。
「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます。
「ああ、あの遠距離通信の……。致し方ありませんよ。あいにく
「まだ苦労していますか? ガッコウは」
オズワルコスの問いに、鏡は小さく咳払いをして答える。
「学校の方は、ほぼ
「はね……っかえり、は、何ですか?」
「ああ、すまない。そうだな……反乱分子と言って分かるだろうか」
「反乱、は分かります。大切な言葉ですから。こちらの言葉では『マルキナード』と言います」
「マルキナード、ね。そのマルキナードをするおそれのある者が数人いる、ということですよ」
誰の顔を思い浮かべてのことなのか、鏡は若干顔をしかめながら言った。
横に座る壬生も、口をへの字に曲げている。
二人の表情を見たオズワルコスは、彼らに一つの案を提示した。
「もし、そのマルキナーデス――えー、反乱者たちに困っているのなら、こちらから人員を派遣することも出来ますよ」
「人員の派遣か……」
少し考えてから、鏡は続けた。
「いや、今のところそれには及ばない。それよりも『長屋計画』の方をより優先して進めてもらいたい。我々も今の暮らしに慣れてきたとは言え、もう少しましな住環境が整えば、こちらに対してより積極的に賛同、協力する者も増えるだろう。反乱者たちも抑え込みやすくなる」
「そうですか。分かりました」
鏡龍之介は、特に平易な日本語を意識せずに話しているが、オズワルコスはほぼ正確に相手の言うことを理解している。
それは彼の日本語能力が日々磨かれていることに加えて、「
「それよりも、しつこいようだがもう一度確認したい。我々が『電気』の知識や技術を提供していけば、本当に――えー、何でしたかな? あなた方が言う、その――」
「――『アヴァロア・レーヴ』、でしょうか?」
「そうです、そのアヴァロア・レーヴとやらが我々を日本に帰すことが出来るんでしょうな?」
「その可能性は、とても高い思いますよ」
オズワルコスは受け合った。
「わがレアリウスの『
「ふむ」
「これはとても大きな転機なのです。『デンキ』の研究でアヴァロア・レーヴを制御できるようになれば、あなた方を日本へ帰せることに間違いないでしょう。なぜなら――」
「――我々の転移が『
鏡龍之介は、彼を含む二十三人がエレディールに転移した原因について、ほぼ正確に把握していた。
それは、
ただし、その事実を彼は壬生魁人に一部しか伝えていない。
そのために、彼の台詞を聞いた壬生は驚いて鏡の顔を見た。
「鏡さん、それは私も初耳なんですが……」
「壬生さん、君にも伝えたじゃないか。
「それは、聞きましたが」
「『
「いや、そう言うことなら、分かりました」
納得したのか、壬生はそこで大人しく引き下がった。
壬生魁人が鏡龍之介のもとで力を合わせているのは、そもそものところ、八乙女涼介を排除したかったからである。
鏡は、
実際に事態は壬生の望んだように鏡によって進められており、さらに実際に日本へ帰るための具体的な手段についても、しっかり
それ故に、
「ところでもうひとつお聞きしたいのだが」
「はい。
「そうです。我々は『電気』について情報や技術を提供する条件のひとつとして、彼ら――まあ久我の娘はどちらでもいいのだが――を消すことを伝えました。そして、達成されたという報告をまだ受けていない。どうなっているのでしょうな?」
オズワルコスは申し訳なさそうな表情を浮かべて答える。
「正直に言います。今まで二回襲撃しました。しかし、どちらも失敗しています」
「失敗……? 素人に襲わせたわけでもないでしょうに」
「もちろんです。しかし、どうやらあちらにも協力者がいるようです」
「協力者、ですか。それは何者で?」
「見当はついています。そして、確実に任務を遂行できる者を送りましたので、近いうちによい報せを届けられると思っています」
「そうですか……分かりました。よろしく頼みますよ」
鏡は、転移の秘密を
壬生は、
目的は大きく違っていても、八乙女涼介を始末するという目的が一致している二人は、お互いに結んだ手を離すつもりは毛頭ないのである。
◇
鏡龍之介と壬生魁人が帰り、デアシルカ・エヴェリアも去った部屋の中で、オズワルコスは一人、椅子に座ったまま
しばらくすると彼は立ち上がり、
そして、彼が報告するために指定した通信相手は――――イングレイとは別の人物だった。
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