第三章 第30話 うるせえ
「この
ドルガリス・ローザントが思い切り振るった
無防備にそれを受けたアーチーは、声を上げる
「う、ぐ……」
「何度も念を押しただろうが! 油断すんじゃねえと!」
床に丸まるアーチーの
アーチーの身体は「くの字」に折れ曲がり、床から
「ぐほぁっ!」
「よりによって、一番肝心なところでヘタァこきゃあがって!」
いろいろな液体に
「あ……ふぁ……」
「おい、いいか? アーチー」
ドルガリスは、半目になっているアーチーを覗き込んで
光を失いかけている彼の
「お前はこれから、あの二人を見つけてくるまで戻って来るんじゃねえ」
「う……」
「分かったか、コラ」
「
ドルガリスの横に立っていた
「この男の話を聞くに、二人を連れだしたのはそれなりに訓練を受けた者たち。こやつの手には余る相手でしょう」
「そ、そうか……」
ドルガリスはアーチーの髪から手を離した。
ゴズン、という音と共にアーチーの頭が床に転がる。
その時、扉を叩く音が聞こえた。
「誰だ?」
ドルガリスが
「『
「どうやら私の
「ああ」
「
男の呼びかけで扉が
入ってきた男は直立し、左手の親指を右手で握り込み、左手の他の指を右手に
「先ほど『
「ほう……場所は?」
「ここから
「
「
入ってきた男は短く答えると、再び静かに部屋を出て行った。
男が言う。
「それなりの
「
「
「すまんが、よろしく頼む、
「あなたに言われるまでもないですよ。それと」
アロイジウスと呼ばれた男は、ドルガリスの眼を見て言った。
「ここでは、『
そう言い捨てると、彼は「
扉が閉まると、ドルガリスは床に倒れ込んだまま動かないアーチーを再び
「ったく、しょーがねー
「……」
「大人しく
氷のような視線をアーチーに向けて、ドルガリスは続けた。
「いよいよ
「そ、それはっ!」
アーチーが
「フォ、
「うるせえ、触んじゃねえよ」
「あがっ!」
ドルガリスは、
底冷えのする
「ぐうぅぅ……」
「それが嫌なら、使いもんになるところを見せろ。言っとくが次はねえ。心しておくんだな」
手を押さえて
◇
セラピアーラは、言いようのない不安に襲われていた。
さっき、ドルガリスが恐ろしいほど不機嫌な空気をまき散らしながら、上から下りてきたのだ。
彼はすれ違いざま、セラに
(さっき、変な人たちが出入りしてたし……何があったんだろう)
実際のところ、この
そもそも、
それなのに、今日は嫌な予感が止まらない。
セラは、店の様子が落ち着いていることを確かめると階段を
そして――
「ブ、
セラが到着したのと同時に、偶然部屋の中から出てきたのは、背を丸めたままよろよろと足元の
セラはすぐに兄の元へ駆け寄ると、正面から彼の身体を支えながら続けた。
「一体どうしたのよ!? ……まさか、ドルさんにやられたの?」
「……せえよ」
「え……?」
「うるせえって、言ってん、だ……どけ」
「ちょっと! 手当てしないと――」
「おい、セラ……」
顔を上げたアーチーの瞳が、セラを捉える。
血と涙と汗に
思わず
「な、なに……?」
「あの二人は、どうした……」
「え?」
「あの、
「……りょーすけと、るぅなの、こと?」
「そうだ……」
「あの人たちなら、
「くそっ……」
毒づきながら、アーチーは身体をゆっくりと起こした。
そのまま歩き去ろうとする。
「ちょ、お兄ちゃん! 手当てを――」
「セラ」
「え?」
「もし、
「え?」
「……まあ、その前にぶっ殺されてるだろうが、万が一……だ」
「え、ぶ……ぶっ殺って、え?」
アーチーはセラの言葉に答えず、振り向きもしないままよろよろと去って行った。
この
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