第三章 第25話 八乙女涼介は理解する
(まずは俺の方からいろいろ確認させて欲しい。少し時間がかかるかも知れないけれど、いいだろうか?)
三人とも黙って
(最初に聞きたいのは、あなた方は何者かということ。そして、ここがどこかと言うことだが……)
(私たちに決まった
(青……。従業員と言うことは、やっぱりここは何かの
(そうです。『青』は、
コレットが黙ったまま元気に手を挙げた。
この会話の仕方、何だかおかしな気分になるな……。
(わたしはここの
(オレはここで
マリスとヴェンが続いて答えた。
へえ……一番年下っぽいコレットが店長なのか。
ちょっと意外だな。
調理担当は分かるけど、酒の給仕係って要するにバーテンダーってことか?
(それは分かった。じゃあ表向きの
(さっきも言いましたけど、
(マルグレーテさん……だよな?)
(
(じゃあそのマルグレーテさんは何者なんだ? どうして俺たちを助けるように命令を出したのかが知りたい。彼女は
コレットは少し考えるようにして腕を組んだ。
(お姉ちゃんは……ある方の
(ある方? 言えないってことか?)
(んー……別に隠せとは言われてませんから、言っちゃってもいいかな? お姉ちゃんはですね、アウレリィナ・アルヴェール・ヴァルクスという方にお仕えしてるんです。で、私たちはアウレリィナ様の意を受けて、このピケで活動する
アウレリィナ・アルヴェール・ヴァルクス……!
あの女性が、ここでも出てきたか。
(俺たちは、マルグレーテさんからそのヴァルクス家へ向かうように言われたんだ)
(はい、聞いてます。そのために
(そういうことらしいが……そもそもどうしてそのヴァルクス家の人が俺たちを助けてくれるんだ? 何の心当たりもないんだが)
(すみません、そこまでは聞いてません。ただ、
ふむ。
とりあえずコレットの説明で、彼女たちがアウレリィナさん――そう言えば、エリィナと呼べと言っていたっけ――の命令で俺たちを保護してくれていることは分かった。
この三人の素性も、大まかにだが判明した。
アウレリィナさんだが……会って話を聞くべきかも知れない。
ヴァルクス家にいるのだろうか。
まあいい、次だ。
(なるほど、ありがとう。それじゃあ、俺たちが追われていることについて教えてほしい。さっきコレットは、襲撃してきたのが、えーと、何だっけ。レ、レア……)
(レアリウスよ、
(そうそう、そのレアリウスって、一体何なんだ? どうして俺たちを追い、あまつさえ殺そうとするんだ? マリス)
(そうねえ……)
そう言って?、マリスはちょっと困ったような顔をした。
どういうことだろう。
(レアリウスが何なのかってことはさておいて、奴らがあなたたちを追う理由は分からないのよ)
(えっ、そうなのか?)
(ええ、少なくともわたしたちは聞いてないわ。逆に聞きたいのだけど、八乙女様たちには、その理由に心当たりはないのかしら?)
(正直、まったく分からないんだよ……)
(オレからもひとつ聞いていいか?
ここでヴェンが
(八乙女様と久我様はなぜ二人だけで行動している? あなたたち「異界の客人」は全部で
(……それは、だな)
――俺たちのリーダーだった
――その犯人として、俺自身に
――仲間たちに裁かれ、追放されたこと。
わずか三日前に起きたことを、俺は包み隠さず全てを話した。
……場に変な空気が流れた。
精神感応で会話しているのでもともと静かな室内なんだが、
疑問……憤り……悲しみ……憐憫……。
いろいろなものがないまぜになってはいるが、少なくとも、彼らは俺たちのために
それは、分かる。
(そうでしたか……。でも、るぅなちゃんが一緒にいるのはどうしてなんですか?)
(それは……彼女がついてきたんだ。自分の意志で)
隣に座る瑠奈の肩がぴくりと動くのが分かった。
やっぱり聞こえているんだな、これは。
(理由は分からないけど、きっとこの子にも何か思うところがあるんだろう)
(なるほど。でも確かに、それだけじゃ八乙女様たちが命を狙われる理由がよく分からないわね)
(それに、どうして校長先生が亡き者にされなければならなかったのか。あの人は、決して
――待てよ。
校長先生は、転移についての真実を知っていた。
それは
もしその話が
……口封じ、なのか?
そして、俺も真実を知っているがために狙われているとしたら、一応
俺が知っていることをどうやって突き止めたのかは、分からないけれど。
(何か心当たり、ありました?)
俺の思案顔を見てか、コレットが
俺の思い付きは、確実な裏が取れたわけではないにしても、この現状を納得させる唯一のものだ。
もう少し、根拠が欲しいところだな。
(ひとつ確かめたいことがあるんだけど、いいかな)
(何でしょうか?)
(さっき言ってた、えーっとその、レアリウスとか言う組織にオズワルコスって人物はいるのか?)
(いますよ。って言うか、その男こそがお二人を襲わせた張本人だってお姉ちゃんが言ってました!)
(やっぱりそうか……)
これで一応はつながった。
鏡先生とオズワルコスさんがどこで接触したのか、そもそもの切っ掛けが何だったのかは分からない。
それでも機会を作ろうと思えばいくらでも出来ただろう。
(それじゃ、とりあえず最後の質問なんだけど……レアリウスって何なんだ?
(レアリウスはね……)
今度はマリスが答える。
(正直なところ、はっきりしたことは分かってないのよ。
(宗教組織……何かの神様を
(そこが微妙なの。
(ふーむ……)
いわゆる「暗殺教団」のようなものじゃないのか。
まあ、政敵や異教徒を排除しようとする集団を飼ってるのは、宗教組織だけに限ったものじゃないだろうしな。
望星教会ってのは、あれか。
あの「
主神が「ミラド」だったか。
そんなに昔のことじゃないのに、何だかもう懐かしい……。
(あとね、これは今のところ確かめようがないんだけど、レアリウスは大昔に『
(聖会?)
(ええ。わたしたちが知る限り割とこじんまりとした集団で、やっぱり
(宗教組織ってことは、信仰対象がいるわけか)
(そうね。『
(そこもレアリウスのように、暗殺部門みたいなのがあったりするのかな)
(どうかしら。あってもおかしくないと思うけど、特に過激な
何だかいろんな宗教があるんだな。
まあ、日本でもそうだったけどさ。
誰が何を信仰しようとその人の自由だと思う。
(率直な印象なんだけど、この辺は宗教が多いような感じがするな)
(その感覚は自然だと思うわよ。そもそもエレディールの宗教はほぼ望星教が一強状態なの。古くからある
(そうなんだ。それならこの辺に他の宗教組織が多いことに、何か理由があるのかな?)
(そうね……)
コレットとマリス、そしてヴェンは互いに顔を見合わせた。
何だ?
(あのね、八乙女様。エレディールの西部はちょっと特別なところなんです)
(特別なところ?)
(八乙女様たち『異界の客人』
ああ……そう言えば、俺たちは
場所的な意味があったってことなのだろうか。
(私たちは組織の
(異常の監視……それなら俺たちの転移も?)
(
……何だかいろんなことが
恐らく俺たちは、転移当初から監視されていた。
まあその可能性なら、俺たちだって考えていたしな。
レアリウス、望星教会、聖会……いろいろ出てきた。
でも、俺たちが追われている理由は何となく分かってきた。
情報収集は、ひとまずこのくらいで十分だろう。
あとは……今後のことだ。
(いろいろ教えてもらえてとても助かった。ありがとう)
(お役に立てましたか?)
(そりゃもう。その上で、皆さんにお願いがあるんだ)
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