第三章 第26話 八乙女涼介は修行する
「いい? りょーすけ、るぅな。
「何でも……?」
「……」
マリスが大きく
「でも反面、
「なんか、いきなり矛盾してないか?」
「そうね。でもそれが
「ふーむ」
俺――
俺たち二人以外にいるのは、ここの調理担当をしているアリスマリスだ。
通称はマリスとのこと。
で、何をしているのかと言うと……「魔法の修行」だ。
何しろ、俺は弱い。
銃器については、今のところこちらで見たことがない。
「それにしても、
「やっぱりそうなんだな、こっちは」
日本にいたらそれまでなんだが、幸か不幸かここは
しかも俺には
ならばこれを何とか活かせないかと思って、コレットたちに魔法の使い方――具体的には身を守ったり……敵を攻撃したりする方法を教えて欲しいと頼み込んだのだ。
まあ魔法だって、付け
でも、可能性はある。
幸い、さっきまでの話し合いで、俺たちは次の定期船が来るまで、ここ「
まずは魔法についての知識から、しっかりと教え込んでもらえることになった。
先生は、この通りアリスマリスが務めてくれる。
何故かそうなのか分からないけれど、とにかく適任なんだそうだ。
「じゃあ
「よろしく頼みます」
こくこく。
で、教えてもらうのに当たって、敬称を外してもらった。
何となくこそばゆかったしね。
まあ、立場とか呼称にこだわるのは、俺の日本人的な側面なのかもだけど、マリスは笑って受け入れてくれた。
「
「仕組み、かどうか分からないけれど」
と言って、俺はかつてザハドの代官屋敷で、リッカ先生に教わったやり方を実演して見せた。
つまり「
指を額に当ててから、顔の真ん中を通して、胸のところで手を開く。
俺の仕草を見て、マリスは小さくため息をついた。
「本当に
「なるほど。でも一応だが、頭で考えただけでも発動できるようにはなってるぞ」
「
おお、それ。
俺も疑問だったんだ。
頭からそのまま念を飛ばす方が、よっぽどイメージしやすように思えるからね。
「いや、分からない」
「それはね」
と言って、マリスは自分の胸元に手を当てた。
「ここに、魔法を発動するための大事な
「タロス……」
マリスが示す位置に、
心臓の上部、専門的に言うなら
他にあるのは、まあ普通に
以前にも少し考察したことがあったけれど、俺たちの身体とエレディール人のそれに大きな違いはないってのが結論だ。
少なくとも、俺たちにない臓器が彼らにあるようなことはないはず。
何故なら、俺や瑠奈も
「ちょっと」
と言うことは、だ。
それは既知の臓器に隠れた働きがあるってことだよな。
「ちょっと、りょーすけ」
骨だったら身体中にあるわけだし、気管支という感じでもない。
つまり、心臓か胸腺。
「りょーすけってば!」
「はっ……あ、な、何?」
思わず日本語で返してしまった。
気が付くと、目の前のマリスが頬をぷぅと
心なしか顔が赤いような……?
「……あんまり胸元をじーっと見られると、恥ずかしいんだけど」
「う、ええっ!?」
隣の瑠奈が、俺の服の裾をくいくいと引っ張る。
気のせいだろうか、俺をジト目で見ている気がする。
「あ、いや、ちっ違う! そうじゃなくて
「中身!?」
「あ、いや」
落ち着け、俺。
どツボにハマってるから。
「中身ってあれだよ、
「ふーん?」
「さっき説明しただろ? 俺たちのいた
「ま、いいわよ。半分
半分は本気なのかよ……。
「具体的に言うと、
……胸腺じゃんか。
マジか……胸腺にそんな機能があったなんて。
でも実際に、俺でも
それにしても、
マリスが説明を続ける。
「この
「ギオ……」
出たな、
あれは星祭りの頃だったかな、その「魔法を行使する時に意識する何らかのもの」を俺は魔素と日本語に訳した。
「マリス。俺はそのギオってのは確かに聞いたことがある。でも、それが具体的に何なのか、周りの誰もが知らなかったんだ。何なんだ?
「
「はあ!?」
「魔素はね、見ることも触れることも出来ないの。
「それは、確かにそうだけど……」
どういうことだ?
彼女の言うことが正しいのなら、調べようがないのも当然のことではある。
でも、空気には触れられると思うんだが。
「それなら、魔素ってのはどこにあるんだ?」
「その答えは、みんなが知ってると思うわ。『どこにでもある』よ」
「?」
何だか禅問答をしているような気分だ。
不可触不可視なのに、この世界に
思い当たるのは、存在が確認されたわけじゃないけど、この宇宙に充満していると言われている
あれも光学的手段では感知できないらしいし、当然知覚も出来ないから、似てると言えば似てる。
「だって、
「確かに、それはそうかも」
「それで、さっきも言ったけど、そんな
えー。
それじゃ胸腺って、何かの生き物みたいじゃんか……。
いやまあ臓器のひとつだから生きてるっちゃ生きてるんだろうけれど、そう言う意味じゃなくて、うーん。
考え込む俺をよそにマリスは席を立つと、何やら四角い箱のようなものを持って戻ってきた。
目の前のテーブルの上にドンと置く。
「説明はいったんこのくらいにしましょう。もっと詳しい話や実技については、
それは、木箱だった。
一辺が大体、三十センチメートルくらいで、高さが二十センチくらいの木箱。
中には……土かな。
土のようなものが詰まっている。
瑠奈が、椅子の上に立って凝視している。
「これ、何?」
「あなたたち二人が持つ、
「中身のこれって?
「土よ? ただの土」
……考えるのはやめよう。
とにかく言われたままにやれば、きっと分かるだろ。
「分かった。それで、どうすればいいんだ?」
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