第三章 第20話 油断すんじゃねえぞ?
「何だい、
「来たか、アーチー」
アーチークレール・モレノアは、
呼び出したのはもちろん、この部屋の
彼はこの
さらに言えば、この風見鶏亭は例の「レアリウス」の
「例の二人はどうなってる」
彼は
いつものことなので、アーチーは特段気を悪くしたりしない。
「ああ、
「そうか」
「セラに頼んどいたから、もう届けてるんじゃねえかな」
「それならいいが」
思わず
「そろそろザハドの
「分かってるって。話は、そんだけかい?」
「まあそんなとこだ。とにかく、今のお前の仕事は二人を逃がさないでおくことだからな。店のことなんかは他の奴らに任せておけ」
「
「ちょっと待て」
「? まだ何かあんのかい?」
アーチーが
少し
「それで、あいつはちゃんと
「え? あいつって」
「……セラだ」
「セラ? さっきも言ったけど、あの二人に食事を届けてるだろうし、普段の仕事ぶりだったらしっかりしたもんだぜ?」
何となく首を
「そうか、そんならいい。行っていいぞ」
「……ああ」
今度こそ、アーチーは執務室の
彼の
と言うのも、ドルガリスがセラについてこんな風に尋ねるのは、実は今日に始まったことではないのだ。
その
――十年前、
元々はローザント商会もこの風見鶏亭も、二人の
ドルガリスは
しかし十年前、このピケの街においてレアリウスと
アーチーとセラ――モレノア兄妹の両親は、その
と言うのも、ドルガリスだけではなく父親であるメドロアース自身もレアリウスの一員だったからだ。
当時アーチーは
望星教会側には、「
ドルガリスが事件後に新会頭として商会を引き継ぎ、両親を失った幼い兄妹を引き取ったことはごく自然な流れであった。
引き取られて数年経ち、まずアーチーが風見鶏亭を手伝うようになると、ドルガリスは自らが所属するレアリウスについて彼に少しずつ明かしていき、末端の仕事を任せるようになった。
最初はよく分からず、言われるがままに動いていたアーチーだが、次第にどこか後ろ暗いことに手を貸している事実に気付き始めた。
とは言っても、自分たちを引き取ってくれた叔父には
だから彼は、セラが風見鶏亭を手伝うようになり、ドルガリスが妹をもレアリウスに関わらせようと考えていることを知った時、必死で懇願した。
レアリウスとして自分が妹の分まで働くから、彼女を巻き込まないでくれと。
ドルガリスは少し考えたあと、それを了承したのだった。
(それ以来、時々だけどああやってセラのことを聞いてくるようになったんだよな。自分の目で確かめりゃいいじゃねえかといつも思うんだが)
商会と風見鶏亭を行き来して忙しくしているドルガリスでも、店でセラと言葉を交わすくらいの時間はあるはずなのに、とアーチーは不思議に思っている。
セラの姿を探すと、彼女もこれまたいつものように
「セラ」
「あっ、
「あの二人に食事は運んだか?」
「うん。とっくに持ってったけど?」
「そっか。そんならいい」
「セラちゃーん、こっち、注文頼むわー!」
「あ、はーい!」
「セラ」
足を止めて振り返るセラ。
「何? 呼ばれてるんだけど?」
こいつは、あの二人にこれから訪れる
知ったら……きっと悲しむだろう。
「――いや、何でもねえ」
「はあ?」
セラは
「忙しいんだから、用もないのに呼び止めないでよ、もう!」
そう言い捨てると、セラはドスドスと客の方へ歩いていった。
呼び出した客も目を丸くしている。
(さて、そんじゃあ俺は
小さく
◇
そしてアーチーは、
今のところ部屋を出てくる
(それにしても、静かだな)
一体、あの二人は何をしでかして、レアリウスから追われるような恐ろしい破目になったのだろう。
そもそもあの
(ちょっと世間話みたいな感じで聞いてみるか)
特に急いでいるような様子でもなかったし、少しくらい暇つぶしに付き合ってもらってもいいだろう。
これから彼らを待ち受けている事態を考えると、正直あまり顔を合わせたくないと考えていたが、どうにも
「……」
二人して眠っているのだろうか。
まだ朝早いのに、よく眠れなかったとかか?
もう一度たたいてみるが、部屋の中からは何の物音も聞こえてこない。
何となく嫌な予感がして、アーチーはそっと扉を開けてみた。
そこに彼が見たのは――荷物も含めてもぬけの
残っているのは、食事の後の
アーチーの
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