第三章 第17話 突然の訪問2
エレディール西部に広がる
今岡小学校の職員室を含めた一部がおよそ九ヶ月ほど前に転移してきたのは、その禁足地とザハドの間に横たわる巨大な森林地帯――ザハドで呼ばれる
転移してきた二十三人は水や食料を求めて周辺の探索を
それから森の探索を続け、ザハドに住む少女――サブリナ・サリエールたちと出会い、交流を始めるに至った。
それ以来、学校側はザハドとのやり取りに集中することになり、学校周辺の探索はほとんど行われなくなっていった。
そもそも、彼らが転移した場所は広大無辺な禁足地の東端であり、探索によって明らかにされた場所はほんの
そして……彼らの探索対象から外れていた、学校から北東へ一キロメートルほどの場所に、それはあった。
――リーズ・エレオーヌ。
それは、
地下都市には、物質を
しかし、『
そして、交換機は使うことこそ出来るものの、新たに作り出したり壊れたものを修理したりすることはかなわない。
何故なら、それは遥か遠い遠い昔に製造されたものであり、その技術は
◇
そんなリーズ・エレオーヌに向かって、ある
そして先日、リーズ・エレオーヌを発見したアイドラッド・アズナヴィトンとシクラリッサ・マリナレスの二人が先頭に立って歩いている。
さらにその後ろには、数台の
西の森からそれなりに離れている場所のはずなのに、どのように移動してきたのか彼ら一行に疲れている様子はまったく見られない。
「あーここですここです。ほら、
「どれでしょうか」
「これですよ、これですってば!」
数メルス(メートル)先の地面を指さしながら、シクラリッサことクラリスがはしゃいで声を上げた。
そんな彼女に静かに歩み寄っていくウルティナを見ながら、
「相変わらずなのだな、クラリスは」
「申し訳ありません、アルメリーナ様。本人に悪気はないのですが、こやつはどうにも距離感と言うか何と言うか……」
「いいじゃないか。
恐縮するラッドに、エミリアージェス――エミが気安く言う。
ちなみに、
「お前が
「俺だっていいんだよ。主様がいいって言ってくださってるんだ。いちいち絡むな」
「何だと!?」
「おやめなさい、二人とも」
もう何十度め、何百度めになるかと言うやり取りを背中に受けて、ウルティナが振り返りながらため息をつく。
「それよりラッド、例のものを」
「ははっ!」
ウルティナの言葉に、ラッドは
その手には、長さ
「それが『
「はい。これを手に持って、リーズ・エレオーヌの近くで数回
「そうですか。では」
そう言って、ウルティナが右手をラッドに差し出した。
アルが飛び上がって叫ぶ。
「まさか、主様ご自身がされるのですか!? いけません!」
「? 何故ですか?」
「一体どんなことが起こるのか分かりません。危険すぎます!」
「わたくしなら、
「いえ、念のために他の者が――」
「じゃあわたし、やりまーす!」
元気な声でそう言ったのは、クラリスだった。
彼女はあっと言う間にラッドの手から黒い棒を取り上げると左手に持ち、右手の人差し指で二度三度と、その先端を
「あっおい、クラリス!」
ラッドが止める暇もなかった。
アルとエミは素早く、黒い円盤――リーズ・エレオーヌと主の
ウルティナと言えば好奇心に満ちた瞳で、アルとエミの
すぐには、何も起こらない。
それでも一行は臨戦態勢を解かず、何が起きても対処できるようにリーズ・エレオーヌとその周辺に気を配り続けた。
そして――――――
それは
光が収縮していくと、そこには四人の人物が姿を現していた。
そのうちの一人に、ラッドとクラリスは見覚えがあった。
彼は先日この場で対面し、
ブレクサンドは一歩前に進み出て言った。
「
「
ウルティナが、アルとエミの
それを合図に二人の騎士は構えを解き、ウルティナの左右に立った。
「わたくしが
ウルティナの声に答えるように、一番後方にいた
「私です。
ダルビナーツと名乗った
敵対心こそ露わにしていないが、その
「あなた方が、
「わたくしたちはまず、あなた方にアルカサンドラとエルヴァリウスの
「おい」
ウルティナとダルビナーツの会話に、突然割って入る者がいた。
ブレクサンドである。
「こちらの長がきちんと名乗ったと言うのに、そちらの
「何だと!?」
アルが腰の
ウルティナはすぐに彼女を制した。
「およしなさい、アル。彼の言うことは筋が通っています」
「しかし」
「よいのです。確か……ブレクサンド殿でしたか。あなたの仰る通り、わたくしの方が礼を欠いておりました。
そう言って頭を下げるウルティナ。
ダルビナーツが困った顔でブレクサンドを
「お前もそのような物言い、改めるがよいぞ、ブレク。言っていることが正しくても、伝え方がまずければ無用な
「……すみませんでした」
そう言って、ブレクサンドも素直に頭を下げた。
「とは言え、私も巫女殿のお名前をおうかがい出来るに越したことはない。最初に名乗られなかったことに何か理由があるのかも知れんが、お聞かせ願えればありがたいのですがの」
「お気遣いありがとうございます」
「主様!」
「アル、よいのです。ダルビナーツ殿、わたくしの名は――ウルティナと申します」
「ウルティナ、殿……?」
ダルビナーツは何か引っかかるものがあったようで、少し
そして次の瞬間――――
「ウ、ウルティナとは……まさか……」
ダルビナーツの顔を、ウルティナは静かに微笑んで見つめるだけだった。
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