第三章 第16話 地上地点

 聖会イルヘレーラ琉智名るちながウルティナとして、もう幾度目か分からない目覚めを迎えた日、彼女は配下の者たちに禁足地テーロス・プロビラスについて調べるように指示を出していた。

 その目的はもちろん、転移した今岡小学校の存在を確認することであった。


 そして、もう一つ――――――


    ◇


「えーと、この辺りかな……」


 ひとりの若い女性フェムジューナフレッサのところでてのひらを水平にかざし、周囲をきょろきょろと見回している。

 彼女が立つのは、一面に広がる草原メーデの真っただ中。

 遥か南北セレータウータスの先には、青い峰々がかすんで見える。


 ここは、禁足地。

 エレディールの王家ル・ロアによって立ち入ることが禁じられている土地テーロであり、俟伯爵家ヴァジュラミーネであるイルエス家によってその管理の一切がまかされている場所である。


「もう少し南じゃないか?」


 女性の背後から、男性ノァスが落ち着いたヴォコで問い掛けた。


「そうかなあ……大体、こんなだだっ広いメタラーガ草っぱらの中からピードを探せとか、主様リス・ドミニアも結構ムチャ言うよね」

文句を言うなハートスケレル。何ならお前は帰ってもいいんだぞ? 子守りインファヴァルタードの手間がはぶけて助かるってもんだ」

「もう、子ども扱いしないでって言ってるでしょ!」

「それが嫌なら面倒くさがるんじゃない。手間カーマを惜しむな。任務メジオラには忠実にフィデラリー取り組め。何より、主様あるじさまへの不敬ノイファンは許さん」


 女性はプリオラをとがらせる。


「分かってるってば。ちょっと言ってみただけだよー。わたしだって、主様にはちゃーんと忠誠フィデルを誓ってるんだから」

「口先だけではないことを名もなき創世神様アノニィナ・ノイゼーナに祈るとしよう――お、それは何だ?」


 そう言いながら男性が地面を指さした。

 女性からセスメルス(三メートル)ほど離れたそこには、い茂る草むらのあいだに黒い円盤状のものが見え隠れしていた。

 その大きさ、半径ディウソーライシメルス(一メートル)ほど。


「あー、あった! すごいね、ラッド!」

「うかつに近づくな!」


 満面の笑みを浮かべて黒い円盤に駆け寄ろうとする女性を、ラッドと呼ばれた男性が鋭く制した。


「な、何よーもう」

「いつ、転移交換メル・ヴァルが始まってもおかしくない時間帯ノメレームなのだ。中途半端に巻き込まれたらどうなるか、お前も知っているだろう」

「う、そうだった」


 女性はあわてて後ろに一歩下がる。


「この『地上地点リーズ・エレオーヌ』とおぼしきものの有効エヴドゥ半径ディウソーラディヴ三メルス(三メートル)ほどらしい。念のためもう少し離れるんだ」

「分かった」

「素直なところはお前の美徳ビルトスだな、シクラリッサ・マリナレスよ」

「普通にクラリスって呼んでよね、アイドラッド・アズナヴィトン」


 男性――ラッド――は何も言わずにただ軽く口角を上げると、黒い円盤に視線を移した。

 女性の方――クラリス――も、ラッドにならい、じっと地面に置かれた物体を凝視し始めた。


 そしてそれから十分ディアナディスほどった時。


 黒い円盤の上イシメルス(一メートル)ほどのところに小さな光が現れたかと思うと、それはまたたく間に膨張し、大きなまばゆい光体となった。

 ラッドとクラリスは手をかざして目を細めながらも、これから起こる現象を決して見逃すまいと、薄く開けたまぶたの奥で白い光球を凝視していた。

 そして、十秒ディアセグト程度経つと光はだんだんと縮み始め、その代わりに五人の人影が黒い円盤の上に現れた。


 五人の人物は、いつもなら誰もいない、何もないはずの目の前に二人の男女が立っているのにすぐに気付く。

 そして各々おのおのが持つ武器ヴァーベンのようなものを構え、そく臨戦態勢に移った。


待ってくれメントバルテーム。我々はあなた方に危害リオサイドを加えるつもりはない!」


 ラッドは両手を挙げて敵意のないことを示しながら、五人に話しかけた。

 その横でクラリスも、うんうんとうなずきながらバンザイをしている。


お前たちは……誰だヴィーアユニタ?」


 五人のうち、リーダー格と思しき男が武器を構えたまま、低い声で言った。

 ラッドは両手を挙げたまま、真剣な顔で答えた。


「我々は聖会イルヘレーラの者だ」

「イルヘレーラ……?」

そうだヤァ。確認させてもらうが、ここは地下都市ヴーム第七十八区画スキュリス:エニディアビスガの地上への転移地点、『リーズ・エレオーヌ』で間違いないか?」


 リーダー格の表情がさっと強張こわばった。

 後ろの四人が散開し始めた。


「なぜそれをお前たちが知っている?」

「我々はこの情報を、こちらの住人マルカであるアルカサンドラ・ベーヴェルス・・・・・・・・・・・・・・殿から聞いたのだ」


「!!!」


 ラッドの台詞せりふに、五人は明らかに動揺を見せた。

 アルカサンドラの名をつぶやきながら、お互いに顔を見合わせている。

 ラッドは続けた。


「その上で頼みがある。あなた方のジェフェであるダルビナーツ、ダルビナーツ・カシミアレス殿にお取次ぎ願いたい。わがあるじがお会いしたいと」

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