第三章 第05話 ピケへ――1

 某日ぼうじつ某所ぼうしょにて。

 ヘルマイア・オズワルコスは、部下バルトランからの報告ポルタートを聞いていた。


「……すまないが、もう一度言ってくれるか?」

「はっ」


 部下はオズワルコスのアローラを見ず、敢えて視線を落としたまま続けた。


ご指示イストルースの通り、山風亭プル・ファグナピュロスに滞在中だった『ヤオトメ・リョウスケ』並びに『クガ・ルナ』両名を殺害目的グル・ヒリス襲撃エルザートしましたが、失敗フィアスコ。実行者たちは全員オーラ無力化された上で、衛士ガルドゥラ捕縛ハラカートされました」

「……ぬう」

「捕縛された者たちは、既に自身で始末メーム・モーザをつけております」


 部下がちらりと視線を上げると、オズワルコスは眉根を寄せ、こめかみカールムをゆっくりと揉んでいた。

 その表情イレームは、昼間アウリス、もう一つの顔である教師セルカスタとして子どもたちに見せているそれとはまったく異なり、けんに満ちた酷烈こくれつなものだった。

 部下はそれが、上司オズワルコスが自身を落ち着けるための仕草であることを理解しているので、そのまま黙って次の言葉ヴェルディスを待っている。


 そうして少しピク・バトス経って、オズワルコスは再びヴァレアを開いた。


「その二人は確かに魔法ギームに目覚めていたようだが、訓練トレナードを積んだ戦士ポロタフというわけではないはずだ。少なくとも配下の者たちが後れを取るとは思えん。何があった?」

「はっ。どうやら邪魔エステンスが入ったようで」

「邪魔?」

「『マータス』によりますと、山風亭に宿泊していたクリエの一人で――」

「ああ分かった、なるほど……」


 オズワルコスは部下に最後まで発言させず、得心したように言葉を挟んだ。


「確か、ヴァルクス家の令嬢アルナレーア従者エルファおぼしき者と共に泊まっていたな。いったい何の酔狂かとは思っていたが、まさか我々レアリウスあだなすとは……」

「単純に異邦人アルニエーロどもを守っただけかも知れませんが」

「いや、偶然タファリエアとするにはあまりに時宜じぎかないすぎている。それに……いや、そう考えると……」

「何か、お心当たりが?」


 そのまま思考の海に沈んでいきそうな様子を見て、部下は問い掛けた。

 オズワルコスはうなずいた。


「君はレアリウス祖の地よとこしえにの一員として、ヴァルクス家についてきちんとした知識は持っているかね?」

もちろんですビ・ネーブレ。ヴァルクス家はそもそも、イルエス家が西方の抑えとしておこした家で――――ああ、そう言うことですか」

「そうだ。の家は禁足地テーロス・プロビラスを含めた西方の地の監視ステイブを長らく続けており、その対象には当然、我々レアリウスも含まれている。それ故、異邦人たちが現れたことについても早い時期からつかんでいた可能性が高い」

「つまり、我々が『カガミ・リュウノスケ』とつながっていることも……」

「同様に把握済みと考えていいだろう。私の素性デニテイトについてもある程度は割れているに違いないな」


 こめかみを再び揉みだすオズワルコス。

 そのままうろうろと三十秒プセ・ナディスほど部屋ルマの中をうろうろした後、突然足を止めた。


「カガミとの約束フォラーガで、ヤオトメとクガの二人は消さねばならん。ヴァルクス家の保護下に入られては面倒だ」

「はい」

「――ピケだ。ヴァルクス家の本拠地であるオーゼリアに到着する前に、ピケで二人を何としても始末せよ。我があるじには私の方からお伝えしておく。すぐに手配するのだ」

「お任せください」

「もうひとつ。聖会イルヘレーラについてだが、どうやらまた『巫女ヴィルグリィナ』が現れたらしい」

「存じております。星祭りアステロマで姿を見たとの報告が『マータス』より入っております」

彼奴きゃつらの動向にも注意をおこたらぬようにな。花冠ネッカーリントに万が一のことがあっては一大事ゆえ」

「かしこまりました」


 ――配下が出て行ったヴラットながめながら、オズワルコスはつぶやいた。

 

「何とも面倒なことガイカリーアだ……」


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