第三章 第07話 In a Piquetan Market 1
彼を慕う
間一髪のところを、エリィナことアウレリィナ・アルヴェール・ヴァルクス――ヴァルクス家の女性――の部下であるマルグレーテ・マリナレスに救われた二人。
彼女の言葉に従い、用意された馬車に乗って
そこはザハドの領主でもあるディアブラント・アドラス・リューグラム――リューグラム
◇◇◇
馬車は夜通し駆け続けた。
途中で三回、馬を替えたのは知っている。
「うーん……いててて」
伸びをすると、背中や腰がバキバキと音を立てた(ような気がする)。
何しろ一晩中馬車に揺られていたのだ。
ところどころ記憶がないから少しは寝ていたんだろうけど、まったく眠った気がしない。
隣に立つ
カーン……キン……キン…………
「大きな
「せんせー」
瑠奈が俺の左手をくいくいと引きながら言った。
「お腹すいた……」
「そうだな。どっか
瑠奈は小学三年――いや、一応年度が替わったから四年生になるのか?
そう言えばもう九ヶ月近く、この子はいわゆる学校教育を受けてないんだ。
今さらと言えば今さらだけどね。
辺りを見回す。
何となくだけれどどうやらここは、日本で言うタクシー乗り場とかバスターミナルみたいな感じがする。
俺たちの他にも馬車から降りたり、別の馬車に乗って出発したりするような人たちもいるしで、割と朝早いと思うのに結構
通勤客……と言うのもちょっと違う気がするけれど、これならこの
実際、少し歩くと
「瑠奈、あそこで何か食べようか」
指さしながら俺が言うと、彼女はこくりと
この子――
彼女の場合、自宅以外の場所ではまったくと言っていいほど話をすることが出来なかったらしい。
それなのに何が気に入ったのか分からないが、どうやら俺には心を
と言っても、まだ必要最低限って感じが
「
「ヤァ。リポヴァススタルソヌールコトラス、プリムスーラ」
「
どうやらザハド以外でもちゃんと言葉が通じるみたいで、ほっとした。
俺が話したのは
ちなみに、目の前の人の
コトラスが何かは分からないけど、今作ってる
◇
そんなわけで、俺――
これ……タコスだな。
ちょっとスパイシー目な肉と野菜を、クレープのようなピタパンのような丸いもので折って
飲み物は隣の屋台で買った、何かの
「結構
瑠奈は黙って
この子にはちょっと
とりあえずはよかった。
正直言うと、ひとつじゃちょっともの足りない。
それでも、腹にものが入ってくると、ぼーっとした頭も少しずつ動き始めてくる気がする。
(ピケに着いたら、お疲れでしょうがなるべく早く、
(グラーシュ
あの
彼女は、俺たちがすべきことを
(こちらを持って、オーゼリアの「ヴァルクス」という家を
彼女に手渡された短剣は、背中のリュックサックの中に入っている。
この世界に日本のような銃刀法があるとは思わないけれど、Tシャツにショーパンという恰好じゃあ吊り下げる場所もない。
そもそも俺は、短剣の使い方なんて分からないしね。
「……」
「ん? どうした?」
瑠奈が突然、俺の方に身体を寄せてきた。
ふと顔を上げると――おっと……見られてるな。
道行く人たちからの視線が、明らかに俺たちに集まっている。
わざわざ近寄ってくる人はいないが、足を止めてまでこちらを
――ちょっとヤバいかもな、こりゃ。
俺たちにはごく当たり前のこの
理由こそよく分からないが、今の俺たちは一応追われる立場なのだ。
この状況がよろしくないことぐらい、素人でも理解できる。
それに……この服装も物珍しさを助長してるんだろうな。
早いところ、何とかしないとまずい。
「瑠奈、もう少ししたら服屋を探そう。まずは着てるものを何とかしないとな」
◇
「おお、こりゃすごい」
簡単な朝食を済ませた後、俺たちはまず着替えを売っている店を探した。
道行く人三人ほどに聞いたところで、割と近いところで大きな
俺たちの目当てはもちろん、周りから浮かない程度に風景に馴染んだ服と、
だけど、目の前に広がっているのはそう言った衣料品は勿論、野菜や肉、穀物なんかの各種食料品から鍋や皿のような調理器具や食器、
そして、
いろんな料理を食べさせている店もあちこちでいい匂いをさせている。
俺たちがさっき食べたコトラスはもちろん、サモサのような三角形の揚げ物や、シシカバブみたいな何かの肉の串焼きらしきものとか……服を見つけたらちょっと
とにかく俺と瑠奈は、その熱気と
瑠奈の、俺の左手を握る力がいっそう強まったのが感じられる。
「
「えっ!?」
そんな俺たちの後ろから、突然声が飛んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます