第二章 第46話 歳末小景3 ―花恋と慶太郎―
大学四年生にとって
つまりかなり順調な状態と言えるのだが、二人の顔色があまりぱっとしないのは夜中の神社だからという理由だけではない。
「突然来られないって――どうしたんだろね、迅のやつ」
「ホントよね……」
いつもなら、四人で二年参りするのが恒例だった。
ところが今年は
二人は
「連絡がFINEってのはまあいいとしてさ、
「東郷君もそう思う?」
「うん、何て言うかな……よそよそしいってわけじゃないんだけど、うーん、何か上手く言えないけど、ちょっと距離が
「うん……」
迅の様子が何となく違ってきている――花恋がそう思い始めたのは、秋口に例の
あの日、玲の消息を確かめるために追っていた三家の調査は一旦終了すると言うことになっていた。
なのに、迅がO市を訪れる頻度は減るどころか、微増しているように花恋には感じられたのだ。
(卒論のためって言ってるけど……)
ちなみに迅がどんな卒論に取り組んでいるのか、花恋も慶太郎もよく知らない。
何やらSTEAM教育とか何とか言っていたような……その程度である。
それがO市とどう関係があるのかも、全く把握していないのだ。
大学四年の時期も時期である。
三人が揃って顔を合わせる機会もそれなりに減っている中での突然の欠席ということもあって、花恋は寂しい気持ちを
一方、慶太郎にとって花恋と二人きりで神社に参拝するというシチュエーションそのものは、正直願ったりかなったりと言うところではある。
……あるのだが、彼には横を歩く花恋の気持ちが手に取るように分かるので、とてもじゃないが
それに、親友である迅のここ最近の行動の不審さには、花恋のような寂しさではないにしても
(確かに、僕や南雲さんに迅の行動をあれこれ束縛する権利なんてそもそもないんだけどさ……)
数ヶ月前、檜山讃羅良と直接話をしたことによって、調査を始めるきっかけとなった上野原玲の生存の可能性については、ある程度納得のいく答えを得ることが出来た。
よって、もう彼らに出来ることは正直ないのだ。
生きているのかも知れないというのなら、無事の帰りをひたすら待つしかない。
そんな中を花恋と慶太郎は、亀のような歩みで特設されている
「三十! 二十九! 二十八!」
少し気の早いカウントダウンの声が聞こえてきた。
「南雲さん、ちょっと急ごう。参拝している時にちょうど年越しが来るようにしたいからね」
「そうね」
「十! 九! 八! 七!」
花恋と慶太郎は賽銭を投げ入れると、作法に
「六! 五! 四! 三!」
(どうか玲が生きていますように。家族や友達がみんな幸せでありますように。そして……
(上野原さんが無事でいますように。友達や家族が無病息災でありますように。そして……
「二! 一! うおおおーー!」
おめでとー!
あけおめー!
声にならない歓声と共に、新年を祝う挨拶があちこちから上がる。
慶太郎の心は、花恋に。
花恋の心は、迅に。
迅の心は
玲の心は、遠くエレディールの地で
芸術的なまでに噛み合わない四人の想いがたどり着く先を知る者は、この時点では誰もいない。
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