第二章 第36話 「ひ」
「いやあ、あの時は興奮したよ。だってさ、あの消失事件と
「
「うるさいわね。お
「私は別に引き離そうとかしてませんでしたけどね……」
「でも、あんな目立つ車で尾行なんて……気付かれるとか思わなかったんですか?」
「まあ……私は尾行って言うより追跡のつもりだったし、無我夢中で正直バレてもいいやって思ってたかな」
「あんな
「さすがに門の中にまで入っていけなかったから、ちょっと離れたところでしばらく様子をうかがってたんだけど、今度は真っ白な高級車が二台やってきたんだ」
「あー……そう言えばそうだった、かな」
讃羅良の
彼女自身は、
実際のところ、お嬢様に違いはないのだが。
「で、いろいろ調べてみたらさ、その白い高級車の持ち主が『白鳥さん』だと分かってびっくりしたんだよね。白鳥さんだから白い車なんだって」
「
「
「やっぱなー。あー、でも」
「檜山さんが運転してたのも、赤い高級車だろ? でも『檜山』って
「うーん、それはですねえ」
讃羅良は少し考える。
最初に慶太郎から「話してほしい」と言われて、全てを話せるわけではないと釘こそ刺したが、この三人の頑張りに免じて多少のことは明かしてもいいという気持ちになっていた。
「実は
「へー……親戚だとは思ってたけど、やっぱりそうなんだね。分かれたっていつぐらいの話なの?」
「私も詳しいことは分からないです。でも……百年や二百年どころじゃないと思いますよ」
「えっ、そうなの!?」
花恋が目を丸くする。
「はい。分かれた当初は『
「あー……なるほど」
ポンと手を打つ慶太郎。
「火の山なら、確かに赤に関係ある感じだね」
「んじゃ、次の『
「『
迅の疑問に花恋が答える。
「いや、知らんわ俺。そんな色あったっけ?」
「小田巻先輩、『
「あー、それなら知ってる。あの赤いフェルトみたいなやつか」
「そうですそうです」
「でも、それならちょっと疑問なんだけど、いい?」
挙手する慶太郎。
「檜山家の元がちゃんと赤に関係しているってのは分かったけど、それじゃあどうして最終的に、表向きは赤とは関係ない「
「うーん、それはですねえ……」
その理由を、
慶太郎たちに教えたところで、特段の問題があるわけでもない内容だ。
ただ、説明が面倒なのと、その説明の途中で話せないことに触れる必要があるかも知れないと言う
「ちょっとややこしい事情があったみたいで、説明が難しいと言うか
「いいじゃん。話せるところだけでいいから話してよ、檜山さん」
気軽に先を
「しょうがないですねー……じゃあ一応話しますけど、あんまりあれこれ突っ込まないでくださいよー? あとちょっと長くなるかも」
「分かった分かった」
「えーっと、まずですね……赤穂家――実を言うと、赤穂家の前は『
「へえ」
「赤穂家にはある役目があるんです」
「ある役目? どんな?」
慶太郎の疑問に、讃羅良は首を横に振った。
「それは言えません。で、ある時にある目的を持って分家を二つ作ったんです。あーっと、目的については言えませんよ。言えないから『ある』目的って言ってるんですから突っ込まないでください」
「むぅ……」
早速聞き返そうとした花恋が、機先を制されて黙り込む。
「その時に出来た二つの分家が『
「ほえー、じゃあ赤穂家は『
「東郷先輩、惜しい! そこはちょっと
「なるほど、確かに『
讃羅良は
「で、
「その役目って、話せることなのか?」
「はい。それは――――
「ん? 三家って……何だ? お、もしかして……」
「そうです!」
腕を組んで
「黒瀬家と白鳥家、そして赤穂家の三つの家を
「
「なかなか鋭いですねー、南雲先輩。でもその話はまた後です」
「そうなの?」
「はい、今話すと余計にややこしくなるので。で、護衛の任務を
「トラブった?」
「はい。あ、ちょっと飲み物を……」
話し続けて
「トラブルの内容は私も知りません。それで結局水神家は赤穂家の護衛をやめてしまって、黒瀬家を護衛するようになったらしいです」
「黒瀬家には元々の護衛はいなかったの?」
「いえ、いましたよ。水神家のこれまた分家の『
「とすると……もしかすると、その水神家の代わりに護衛の任に
「さすがですねー東郷先輩。そう! 元々の役目と護衛を引き継いだのが当時既にあった『
満足そうにうんうんと首を縦に振る讃羅良。
慶太郎はしかし、苦笑しながら指摘する。
「でも、それは『
「まあまずそういう
「そこは割と単純な理由なのね」
「あとは、
「ほーん……」
讃羅良の話を聞きながらポテトの山に手を伸ばした迅だが、いつの間にか皿が
「おいおい、もうポテトないじゃんかよ。追加しようぜ」
「飲み物も少なくなったし、そうしよっか。すいませーん!」
花恋が元気よく手を挙げた。
この店はまだ、タッチパネルを導入していないのだ。
「はいー! ただ今おうかがいしまーす!」
店員のこれまた元気な声が応えた。
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