第二章 第32話 彼我
「そこに気付かれますか……」
「一つ言えるのは、
「それは理解できます。断絶する危険性が高いということですね?」
「ええ。病気や不慮の事故、いろいろ考えられますが、出来る限りそうした事態を招かないためのリスクマネジメントを
「分かりました」
宗久は、あっさりと引き下がった。
空気を読んだとも言えるが、彼なりに事実を推測することが出来たからだ。
――恐らく
そこには危機管理以外にも何らかの意図が隠されているように思えるが、これ以上の詮索は多分
彼はとりあえず、まだきちんと説明を聞いていない事柄について、先を
「では、もう一つの疑問に答えていただきましょう。魔法――ぎいむと仰いましたか、そもそも一体どういうものなのでしょうか」
「そうですねえ……」
「あまり専門的な説明は無粋なように思えますし、意味もないように思えますし――要するに『
「ぎお……それは見ることが出来るのですか?」
「いえ、不可視ですわね。見えないどころか、恐らくこの世のありとあらゆるものは、
「それならどうやって?」
「これです」
そう言って、
「ここには『
「胸腺……」
宗久も思わず自分の胸に手を当てる。
「一般的には
「……は?」
「例えば、先ほどわたくしは少司さんのタバコに火を
「……」
「もちろん、胸腺はあくまでわたくしの臓器。実際のところは別の生命体などではありませんけれども、わたくしはそんな風に考えながら
胸腺に「お願い」?
比喩にしてもどんなものか、と宗久は思った。
しかしこれより少し未来、エレディールの地で
「もう少し詳しく説明するのなら――胸腺は、
「認識力と支配力、ですか」
「ええ」
そう言うと、
「犬養さん、このくらいの大きさの空間に、気体の分子がいくつあるかお分かりになります?」
「……は?」
「
「はあ……」
「そして、
突然化学の授業のような話が始まり多少面食らった宗久だが、どうやらきちんと関係のある話と分かって
「ただし同じ空間を対象にしても、能力が高い胸腺には例えば一億の
分子量が出てきたり、モニター画面の話のような言葉が出てきたりと、今ひとつ、
しかし、麗と同じ人間であるはずの彼には、もっと気になることがあった。
「なるほど、胸腺が『ぎいむ』を操るのに必要だと言うことは分かりました。念のためにお聞きしますが、それは――私にも胸腺があるわけで、つまり私も『ぎいむ』を行使することが出来るということでしょうか?」
「残念ながら、ノーと言わざるを得ませんわね」
「しかし先ほど九条さんは、
「そこは
「ははは、すみません」
豹牙がポリポリと頭を
「申し上げましたように、
そう言って、
「わたくしの胸の中、胸腺の中だけですわ。それが理由の一つ目」
「なるほど」
「二つ目。わたくしたち三家にはいくつか分家があります。そのひとつの
「それは残念ですね」
「逆に、三家直系ではなくとも『枝』同士が婚姻することで素質のある子が生まれる可能性が高いことはある程度証明されていますの。それでも」
首を小さく横に振る
「それはあくまで素質の話に過ぎません。
「と言うことは」
宗久は軽く腕を組んで言った。
「その異世界には、
「
豹牙が嬉しそうな顔で言葉を
しかし宗久は腕を組んだまま、難しい顔で答えた。
「しかしそれは、『
「気が付いたかね、
宗久の言葉に、今度は
「とんでもない世の中になるのだよ。この
「新たな格差社会――いや、分断社会の到来でしょうか。考えるのも恐ろしい気がしますね」
「そうだろう。それにこのことを諸外国が知れば、彼らはどうすると思うかね。三家の成り立ちからして、魔法を使えるのは今のところ日本人だけらしい。その状況で、彼らが過激な手段に出ないとどうして言える?
「それは確かに……」
「だと言うのに、今の与党の政治家たちはこの事実に対して
「え? と言うことは」
「そうだよ。十年前に再び巫女は託宣に現れたと言ったろう? 銀条会のお膳立てによって、当時の
「九条さんの……お父君とは」
「九条
その議員の名を、宗久は聞いたことがあった。
前所長ということか。
それは当然、信じたことだろう。
何しろ、彼らの研究内容がある意味裏付けられたようなものなのだから。
「そして、
「……それが何かまずいのでしょうか?」
瞬間的にではあるが、彼には黒家と赤家のしようとすることがごく真っ当なものだと思えたのだ。
「当たり前ですわ。これまで三家がどれほどのものを積み上げてきたとお思いですの? 三家の事情に直接関わりはなくても、今では多くの従業員を
「なるほど……言われてみればそうかも知れないですね」
そして、重々しい表情で少司が口を
「
「どちら側、とは?」
「もちろん」
少司は大きく
「こちら側か――それ以外、だ」
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