第二章 第13話 導き
雨の降り続く午前中。
その男たちは、突然目の前に現れた。
「アルカサンドラ・ベーヴェルスさん、そして……エルヴァリウス・ベーヴェルスさんですね?」
サンドラとリウスは、目を
「すみませんが、我々とご
二人には、男たちの言葉の意味が分からない。
分からないが――その様子に何となく
黙ったままの
「Could you please join us?」
英語にも特に反応しない様子に、男たちは肩を
致し方ないと言った感じで一歩前に出る。
そして――エルヴァリウスの左腕を
もう一人も、サンドラの右腕を掴もうとして手を伸ばしてきた。
(
(
ここは
それでも、密着している二人なら
――ベーヴェルス
日本の社会の仕組みなど当然知らないが、さくらや理世たちとの学習の中で『びょいん』というものを習い、それが二人の知る「
そして、
天方家の近くにあったという情報だけで、二人は一か
もちろん、彼らはそのクリニックの正確な場所は知らない。
それに、怪しげな外国人が突然押しかければ、クリニック
二人も外部に助けを呼ぶことで何らかの危険を招き寄せかねないことは承知の上ではあったが、
それでも……目の前の男たちを、サンドラはどうしても
彼女は少しだけ目を
男たちは、両足首を突然太いゴムで
「お、おぉ?」
「うおおっ!」
同時にリウスが腕を振り払ったことで、男たちはバランスを崩し、
ベーヴェルス
どこをどう走っているのか分からないが、走った。
走って走って――息が切れるまで走った。
息が続く限り、走った。
息が切れても、走った。
そして――――サンドラが
続けてリウスも――――
◇
「大丈夫ですか!?」
(ぶつかっては
真夜は二人に駆け寄った。
「大丈夫ですか? どこか怪我しましたか?」
もう一度、声を掛ける。
そして、彼女ははっとした。
(外国人……?)
しかもこんな
二人とも呼吸がひどく荒い……どうして?
いろいろな疑問が立て続けに浮かんでくる。
が、真夜は頭を振ると、思い浮かんだそれらを全て
何しろ今この瞬間も、二人は強い雨に打たれたままなのだ。
もちろん、真夜自身も。
――このままでは、まずい……。
「とにかく、二人とも車に乗って! 立てますか!?」
「う……」
(言葉通じ
「Can you get up?」
「Pouvez-vous vous lever ?」
「Puoi alzarti?」
「Können Sie aufstehen?」
「Ты можешь встать?」
知る限りの言葉で「起きられるか?」と語り掛けるが、響く様子がない。
仕方がないので、真夜は助手席のドアを
助手席を前に倒し、びしょ濡れの女性を後部座席に押し込む。
すると男性の方が、息を
真夜はジェスチャーで女性に続くように
男性は小さく
背の高い二人に、チンクェチェ〇トの後部座席はいかにも
真夜は急いで運転席に戻り、助手席のバッグからハンカチを取り出す。
自身もずいぶん
「
男性はそれを受け取ると、小さな声で言った。
「あ、ありが、と」
そうして、女性の顔や髪、首
その様子を見て、真夜はハザードランプを消す前に考えた。
(ど
真夜はスマホを取り出すとまず、勤務先である(株)銀河不動産に連絡した。
事情を話し、
呼び出し音を聞きながら、彼女は心の中で苦笑した。
(何か最近、こんなんが多い気ぃするわ……)
☆
男たちがそこにようやく駆け付けた時には、真夜の車はすでに追い付けない程に離れていた。
「おい、今の車、分かるか?」
「多分だが、あの丸っこいのはフィ〇ットだろ。とりあえず報告だ」
「そうだな」
そう言って、片方の男が濡れねずみのようになりながらも、スマホを取り出した。
◇
――かれこれ、もう一時間半は歩き回っている。
もとより当てがあって探しているわけではない。
レインコートのフードに
これまでは、母親であるさくらと一緒に探していた。
しかし、今日は一人。
横殴りの雨と、激しく吹き荒れる風。
あまり役に立っていない
(うう……)
心細さが、幼い彼女の心をじわじわと
それでも理世は、まだ帰る気にはならなかった。
(お母さんたち、怒ってるかな……)
両親の顔が浮かぶ。
優しい顔で。
ぎゅっと目を
目元をごしごしと
遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。
理世はきょろきょろと
(サンドラとリウスを見つけたら……)
家に引っ張って連れ帰る。
あったかいお風呂に入れて、お母さんの美味しいご飯を食べさせる。
それから……それから――――
バシャッ。
「ぅわっ!」
横を通り過ぎた車が、水たまりを跳ね上げた。
理世の右半身を、
「もう!」
理世は目の前で信号待ちしている車に毒づいた。
真っ赤な車。
心細さが反転して、
いったい誰!?
理世はむしゃくしゃした気持ちのままその車に駆け寄り、ドライバーの顔を
「――――!!!!!」
何と言うことだろう。
車内には、何か
「サンドラ! リウス!」
後部座席には、
理世は傘を放り投げて、赤い車のサイドウィンドウを両手で
「サンドラ! リウス!」
◇
ドンドンドンドン!
「ひっ!」
一刻も早く到着したいのに、運悪く信号に
音の方向を見ると、レインコートを着た小さな子どもが、必死の
雨のせいか涙のせいか、顔はぐちゃぐちゃでよく分からない。
「何なん? 一体……ん?」
「――ドラ! ――ス!」
何か叫んでいるようだが、よく聞き取れない。
ファン!
後ろの車が軽くクラクションを鳴らした。
前を見ると、既に信号は青に変わっていた。
「もう……しゃあないなあ」
真夜はハザードスイッチを押した。
後続車のドライバーが
後部座席の二人は、眠っているのか動く様子がない。
真夜は車外の安全を確かめると、ドアを開けて外に出た。
それからぐるっと回りこむと、相変わらずサイドウィンドウを叩き続けている子どもに声を掛けた。
「あー……ちょいちょい、あんまり叩か
そして――手を止めてこちらを向いた子どもの顔を見て、
「もしかして
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