第二章 第10話 艱難
「あー? 誰だ? こいつら」
その男は朝、農作業のために自分の畑を
道具を出すために
男の声に、何の反応もない……が、衣服が
「ホームレスが宿
それでも目を覚まさない様子に
身体を揺らされて、
「はっ……!」
そして、エルヴァリウス――リウスを
そんな彼女に、男の
「出てけ。ここはホテルじゃねえんだよ」
「ごめ……ごめなさい……」
「まったく……何かいたずらされてねえだろうな……」
二人の背中に、男の言葉が追い打つように
言葉の意味こそよく分からないものの、
サンドラとリウスは、
しばらくして振り返り、男が追ってくるような様子がないことを確かめて、やっと足を止めた。
そして、またどこかに向けてゆっくりと歩き始めた。
◇
サンドラとリウスは、国道一号線
道沿いには桜の木が
更にその南側には、側道に
「
「なに?」
「なかなかないね」
「……そうね」
夕焼けが二人の姿を
「そろそろ……暗くなりそうだね」
「仕方ないわね……リウス」
「ん?」
「これ以上この
「そうかもね」
「だから、この
そう言って、彼女は
「え……どこ?」
「そこよ」
サンドラが
彼らがそれを知ったのは、
「『はぁし』……だよね」
「そう。
「……危なくないかな?」
サンドラは、少し考えてから言った。
「気を付けるしかないわね。他に
「そうか……分かった」
二人は側道を
リウスは周辺を見て回り、ちょうどよさそうな段ボールを見つけてくると、
見上げると、橋の裏側には泥がびっしりとこびりつき、
橋の上を車が通るたび、振動で
「それじゃ、
サンドラはポケットからおにぎりを一つ取り出した。
二人は手にしたそれを、少しずつ大事に口にする。
あの時は開け方も分からなかったが、中から出てきた黒い物体が果たして食べ物なのかと、
(泣いたりしてないかしら……あの子)
――いつしか二人は、肩を寄せ合って眠りについていた。
◇
その翌日、サンドラとリウスは橋の下を出た。
そして、より身体を休めやすい場所を探すために
このままでは、いずれ健康を害し、自分たちの命すら
それでも盗んだり奪ったりすることをせず、ただひたすら歩いていた。
彼らを支えていたのは、ただひとつ。
――こうして離れていれば、
その思いだけだった。
☆
雨が降り始めていた。
寝床になりそうな場所は、見つからなかった。
サンドラとリウスは仕方なく、昨日
――
目的の川と、
「
もう何日も満足な食事を取っていない彼らは、疲れ果てていた。
特にサンドラは、明らかに調子を
ふらつく母親の肩を
――と、サンドラの
そのまま道路に倒れ込んでしまう。
「あっ!」
そこに車が走り込んでくる。
……
「
リウスが助け起こそうとしているところに、停車した車から運転手と
ヘッドライトが、雨の中の
「だ、大丈夫ですか!?」
若い男が
「怪我はありませんか?」
ゆっくりと立ち上がったアルカサンドラは、
「
「え、リユナ……何?」
男が首を
これはまずい、とリウスは思った。
もし
「イ……だ、だいじょぶ。ありがと。ごめなさい」
――急いで去らねばならない。
リウスは母親の肩を
幸い、男が追いかけてくるような様子はなかった。
☆
ようやく昨日の場所――橋の下――に到着した二人。
リウスは母親を横に寝かせると、リュックサックからタオルを取り出し、
(本当は、
とりあえず彼は、母親の濡れた上着を脱がせた。
Tシャツ一枚になった彼女の首や腕の
「
「そんなのいいから」
(とは言っても)
リウスは、母親の隣りに疲れ切った身体を横たえた。
(これから……どうしたらいいんだろうか)
また一段と
希望は――――ない。
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