第二章 第06話 犬養宗久
一体この苛立ちを、どこにぶつけたらいいものか。
――
とにかく
自分に恥をかかせたあいつら。
自分の言うことを聞かないあいつら。
自分を――仲間に入れようとしないあいつら。
あの
あの
あの
――そして、あの外国人の
あんな……あんな
特に、あの息子の
あいつこそ、あいつこそが自分の息子になるべきなのに……。
それなのに、あんな態度をとりやがって!
――許せない。
しかし、この憎しみをぶつけるべき
娘の
捕まるような危険はさすがに
それでも、天方夫妻の大事なものを
――ああそうかい。
出てこないってんなら、
五味村はスマホを取り出し、三
「――もしもし、あ、あの……不審な外国人を近所で見かけたんですけれど……」
◇
ベーヴェルス母子が
あの夜から、
「ここは……この前見た……」
国道一号線バイパス近くを流れる川の、橋の下を
町内にあるいくつかの公園はもちろん、神社や寺の
「いない……」
天方宅から南へ十数分歩くと、駿河湾に出る。
その海岸線に
千本と言いながらその
その表情は真剣そのものであり、顔色も心なしか青白く見える。
――ベーヴェルス母子がいなくなったことで、天方家の三人のうち、特に理世の
兄である
サンドラとリウスのお
「理世、もう暗くなってきたわ。今日はそろそろ戻りましょう」
「うん……」
(無理もないわ……)
意気
――守ってあげられなかった……
その後悔は、サンドラたちが消え去って以来、彼女の胸を
結局あの二人が何者だったのか、正確なところはほとんど分からないままだ。
サンドラの口からきちんと確かめられたのは、彼らが地下に住んでいたこと――ただそれだけである。
(でもそれだけじゃ、結局何も知らないのと変わらないのよね……)
「やっぱり海岸の方には来てないのかな……」
理世が肩を大きく落として
「まあ野良猫はいるけど……人間じゃあ住むにはちょっと不向きかもね」
「うん……食べるものだってなさそう……」
さくらは手持ちの懐中電灯を
「さ、また明日にしましょう」
「うん……」
家の
さくらは娘の右手を取った。
「明日は、また家の西を探しましょうか」
「うん……ねえ、お母さん」
「ん?」
「サンドラたち……お腹
「うーん……どうだろうね」
さくらは左手に持っているレジ袋に目を落とした。
中には、もうすっかり冷めてしまった中華まんやペットボトルの紅茶、サンドイッチなどが入っている。
「だって、サンドラもリウスも、あたしたち以外に知り合いいないんだよ? お金だって持ってないし……」
「一応、少しだけどお金なら持たせてあったのよ」
「え……そうなの?」
「ええ、旅行に行った時に、何かの時のためにってお財布をね」
「いくら?」
「んー……二、三千円くらいだったと思うわ」
「それなら!」
理世の顔がぱっと明るくなった。
「コンビニとかで、買い物してるかも!」
「そうねえ……お母さんもそれは思ったけど」
「ダメなの……?」
「お買い物していたとしても、いつまでもその近くにいるとは限らないんじゃないかしら」
「……そっかあ」
たちまち
「でも、どっちの
「……うん」
「じゃ、明日は西の方にあるコンビニから聞いてみよっか」
「うん」
◇
その翌日。
消失事件の現場である
一時期の熱気こそ
そんな
現場とその付近には警備にあたる警察官が多数配置され、
そんな中、ある二人の警官が現場の草むらを歩いていた。
例の、突然現れたというあの草っぱらである。
「おわっ!」
彼らのうちの一人が、突然体勢を
「おいおい、どうしたよ」
もう片方の警察官が
「いや……何か穴が
左足を
とりあえず穴から出ようと、右足で
「うわ――――――――――!」
と言う声を残して、姿を消してしまった。
「お、おいっ!」
残された警察官は慌てて、片割れが消えていった穴を
穴の中は真っ暗で、何も見えない。
「何だこれ……おーいっ、大丈夫かーっ!」
突然起きた異変に、周囲で警備に当たっていた他の警察官たちが集まってきた。
◇
その日、現場からの報告を
所轄内で起きた意味不明の事件――「今岡小学校一部消失事件」については
捜査本部は縮小され、日常と言っては
――そこにこの報告である。
「署長! 穴が! 若い巡査が一名落ちました!」
大
彼は顔を
落ち着いて順を追って話すよう
・今岡小に突然現れた例の
・警備に当たっていた巡査の一人がそうと知らず足を突っ込んでしまい、出ようと踏ん張った際にもう片方の足も土を踏み抜いてしまい、穴の中に落ちていった。
・落ちた者の安否は現在不明。
・穴は地表に対して斜めに通っているが相当に深いと思われる。
・現状では底が分からず、大至急救助が必要な状況である。
とのこと。
(校舎に大穴が
しかし、署員が落ちたと言うのであれば、一刻も早く対応しなければならない。
現状を認識した署長は、十秒ほど考えてから必要な指示をてきぱきと出した
「――――――もしもし――はい、
◇
「ふーむ……」
受話器を置いた男は、小さな声で
彼の名は、
S県警察本部
彼は
(現場に、穴、か……)
いくつかの可能性が考えられるが……
犬養はとりあえず現場や関係者には
穴が一体どんなものなのか、現時点では分からない。
もしその先に犯罪集団のアジトでもあれば、
(それに……)
時をほぼ同じくして、現場周辺に不審な外国人が出没したという情報も上がってきており、犬養は何か引っかかるものを感じていた。
おまけに、
――犬養は数分で考えをまとめると、彼もまた受話器を取り、ある番号へと通話を
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