第二章 第04話 アディアウーラ
怪我こそ
――そして、その夜遅く。
◇
天方家
こちらの世界に来て覚えた
シーリングライトの
「
「うん、
それぞれのリュックには、キーホルダーがぶら下がっていた。
それは――あの富士五湖方面一泊旅行で、五人で買いそろえたものだった。
「これ以上ここにいては、あの人たちの
「そうだよね……」
「まだあの
アルカサンドラ――サンドラは一度言葉を切って、
彼女の視線の
「りせがあんな目に
「うん……でも」
少しだけ、リウスの
「
「ええ……」
「僕たちが出て行ったら……りくたちはどう思うかな?」
「そうね……」
サンドラは目を閉じた。
彼女の
――
いつの間にか、地中に閉じ込められて絶望していた時のこと。
息子と協力して、
さくらと
初めて乗った
初めて見た、美しい地上の世界。
自分の
嬉しそうに自分たちの名を呼ぶ、彼女の声……。
――そして……今日
「きっと」
サンドラは、静かに流れる涙を
「あの人たちは、悲しむと思う。とても優しい人たちだから」
「……」
「だからこそ」
そして、眼を開くと決然と言い切った。
「これ以上、あの人たちに甘えてはいけない。……そうでしょう? リウス」
「うん。僕もそう思うよ、母さん」
「だから……行きましょう」
「うん」
二人はリュックサックを
一泊旅行の時のために、陸たちが買い求めてくれたものだ。
リビングに通じる
サムターンをゆっくりと回し、ドアを開ける。
二人を真夜中の空気が
サンドラは振り返ると、天方の家を見上げて小さく
「
――そのまま
◇
――
夕方からずっと眠っていたからだろうか。
こんな中途半端な時間に目覚めてしまった。
枕元の時計を見ると、午前一時を少し回ったところである。
冷蔵庫には、彼女と彼女の兄が好きな乳酸菌飲料が冷えているはずだ。
暗い家の中を、慣れた足取りで危なげなく理世は歩く。
キッチンにたどり着いた彼女は、手
「う……」
思わず
うぐうぐと一気に飲み干し、
その奥では、
――アルカサンドラとエルヴァリウス。
自分でもよく分からないのだが、理世はこの二人に、おかしいくらいに心を許すことが出来ていた。
兄――天方
親戚の
両親とも実家が飛行機の距離にあるので、そうした
(……?)
ふと、理世は違和感を
二人が寝ているはずの、場所。
どうしてなのか、そこから寒々とした空気が流れてきているような気がしたのだ。
理世は
音を立てないようにそっと
――客間の中は……真っ暗だった。
キッチンから
理世は思わず、襖を大きく
――彼女が暗がりの中に
「え……?」
彼女は、恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
「サンドラ……?」
照明をつけようと壁に手を伸ばす理世。
「……リウス?」
ようやく探し当てたスイッチを押す。
そして、天井の
サンドラたちが去ってまだ三十分も
「どう、して……?」
手にしていたグラスが、
その先に、一枚の紙とボールペンが置かれているのを、理世は見つけた。
――――――――――
りく
さくら
りせ
わたし と りうす いきます ほか
ありかとお
ちよなら
――――――――――
そこには、たどたどしい文字で、アルカサンドラとエルヴァリウスからの別れの言葉が
F市のショッピングセンターで買った、ひらがなの練習帳。
サンドラとリウスは、一生懸命勉強していた。
――みるみるうちに、理世の瞳に涙が
「どうしてっ!」
理世は手紙を
玄関で靴をつっかけ、
時ならぬ物音と娘の声に、二階では陸とさくらが起き出す気配がした。
「サンドラっ!」
理世は通りに出ると、左右を見渡した。
人影は――ない。
「リウスっ!」
正面には、黄色と黒のバリケードの向こうに今岡小学校が不気味に
――もしかしたら、前にいた穴の中に戻ったのかも知れない……――
理世は、かつてサンドラとリウスを助け出した、あの
果たしてその穴は、もうほとんど周りの草むらと区別がつかないようになってしまっていた。
理世とさくらはサンドラたちを助け出した
「違う……ここには、来てない……」
カムフラージュした時そのままの地面の状態に、絶望に
それなら、と通りに戻って町内を探し始めようとした理世の前に、
「理世!」
「どうしたの!? こんな時間に!」
二人は
「サンドラが……リウスが……」
再び目に涙をいっぱいに
「いなくなっちゃったーーー!!」
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