第二章 第03話 疑惑
「やだーーーーっ!」
(……ん?)
遠くで誰かが叫ぶような声を、彼女は聞いた気がした。
ある
付近には少し小さ目な公園と、地域の公会堂のような建物がある。
住宅地ではあるが、今はあまり人通りがない。
「んんんんーーーーーっ!」
(確かに、聞こえた……!)
再び彼女の耳にうっすらと届いたその声は、どうやら公会堂の裏の方から響いてきたようだった。
彼女はバッグを肩にしっかりとかけ直すと、声のした
そして、そこで彼女が目にしたのは――――
※※※
「と、そんなわけだったんです」
女性の言葉に、
「そいつはうちが声を掛けた
「本当に何てお礼を申し上げてよいやら……ありがとうございます」
さくらは頭を下げて、何度目かの礼を女性に返す。
――
理世は左腕と左ひざに包帯を巻いた状態で、先ほどの女性と共に待合室で座っていたのだ。
「幸い、怪我の
女性の言葉に、さくらは肺の中の空気を
「それじゃ、うちは仕事がありますんで、これで失礼しますね~」
「あ、ちょっとあの、このままお帰しするわけには……」
「いいんですって。たまたま通りかかっただけですし」
「それじゃせめて、お名前でも……」
「そんな」
女性はさらりと、
「名乗るほどの者じゃないですから~」
そう言って、そのまま出て行ってしまったのだった。
◇
「マジか……」
さくらから連絡を受けて、会社を早退して帰ってきた
クリニックにいた時は、
迎えに出てきたアルカサンドラとエルヴァリウスは、
理世の泣き声はひときわ
・
・娘の叫び声を聞いて、たまたま近くにいた女性が駆けつけてくれたこと。
・犯人の男は、理世を放り出して逃げ去ったこと。
・その女性が理世を近くのクリニックに運んでくれたこと。
・女性は名乗りもせず、その場を立ち去ってしまったこと。
「うーむ……」
陸の
テーブルを
壁掛け時計の針の音だけが、ダイニングに響き渡っている。
時計が示すのは、午後四時四十五分。
――しばらくして、再び陸が口を開いた。
「理世、その男に見覚えはなかったんだな?」
「うん……知らない人」
理世がホットココアをちびちび
見れば、娘の
(無理もない……)
陸は小さく
「とりあえず、無事でよかったよ。大きな
「……
「そうか……そうだよな。それなら――」
と言う陸の目と、サンドラたちの視線が合った。
サンドラとリウスは黙って
そして、立ち上がると理世の手を取った。
「りせ、わたし、いく、よ。いっしょ」
「りせ、いく、いこう……りせ、の、へや」
「うん……」
理世は素直に答え、二人に連れられて二階へと
階段の少し
その音を確かめると、陸が言った。
「どう、思う?」
「どう……って?」
「うん……まあこのあと警察に連絡はするし、もしかしたら不審者情報とかもあるかも知れないんだけどさ」
「うん……」
「僕のさ」
陸は一度言葉を切り、ゆっくりと続けた。
「僕の頭の中にさ、どうしても思い浮かんじゃう人がいるんだよ」
「それって――
「……ああ、そうだ。君も?」
「ええ……」
さくらは視線を下げて言った。
「あんな風に謝罪してくれたし、念書にもちゃんと
「そう、タイミングが
「助けてくれた女性も、そう言ってたわ。どういうことかしらね」
「いや」
陸は立ち上がった。
「まだ、五味村さんの
「そうね。じゃあ私はちょっと早いけれど、夕飯の
「頼んだよ」
◇
その頃、
ベッドで布団に
その横では、アルカサンドラとエルヴァリウスが彼女の寝顔を見守っている。
部屋に戻ってからも何度か泣いたのか、理世の
「
サンドラはそう
「
言葉少なに
「
――サンドラの言葉に、リウスはもう一度頷いた。
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