第一章 第32話 ギオ
「サンドラー、リウスー、おやすみー」
――
午後十時近くなり、リビングでごろごろしていた
「おやすみなさい」
「おやすぅみなさい」
二人とも既に風呂に入り、パジャマに着替えている。
さくらと
二階で何かやっているようだが。
「リウス、『ふとんを
「うん」
彼らがさくらと理世に救出されてから丸二日間、朝昼晩と出される温かい食事をとる以外の時間を、二人はひたすら布団の中で眠って過ごした。
充分な栄養と休養をとったお
布団を敷き終わった二人は、そのまま中に
エアコンや照明を操作するリモコンの使い方も、すっかり覚えた。
「
「なに?」
「
「そうね……」
「母さん」
「なに?」
エルヴァリウス――リウスは、もう何度目になるのか覚えていないほど繰り返した疑問を、再び母親にぶつけてみる。
「ここって、一体どこなんだろうね」
「母さんが知りたいわ……」
アルカサンドラ――サンドラも、何度目かの同じ答えを返す。
「思うんだけど、まずここって、
「
「あんな……
「『くるま』のことね。
「まあ僕は、地上には
「
ごろりと身体を母親に向ける息子。
「地上の国じゃない地上かあ……」
「母さんはね、リウス」
「恐らくだけれど、ここは
「別の世界……」
さして驚いた風でもなく、エルヴァリウスは
「今の私たちにその
「でも今は、そんなことは出来ないんじゃないの?」
「そうね。それでも、地下都市に『
「まあ……そうだね」
「誰が何のためにやったのかは分からない。でもきっと、私たちはこの
「でもさ……」
「転移させるのに、一体どれほどの
「ええ……普通の人にはとてもじゃないけど、そこまでの
「方法だって、見当もつかないしさ」
「それでも……私たちが今置かれている現実からは、そうとしか考えられない。それにね、リウス」
「ん?」
「あなたも、気付いてるかも知れないけど……」
「え? 何に?」
サンドラは息子に顔を向けて言った。
「
「えっ?」
「……」
「……」
「……」
「……母さん、どうしたの? 急に黙って」
「今、あなたにずっと『
「え、
思わず
「念話だけじゃない。何も動かせないし、何も集められない」
「
「どうやら
「……」
「まあ、
「確かに――やけに魔法の
「それでも、私たちの
サンドラの掛け布団がもこもこと動く。
彼女もリウスと同じように、布団の中で胸を押さえているようだ。
「だから、きっと
「そうか、そういうことだったのか……僕にはあんまり分からないけどね」
「まあ、そりゃあね」
「さすが
かつて同じ
あの日々が帰ってくることが、あるのかどうなのか。
「ごく簡単な
「お」
アルカサンドラが
が、すぐに消えてしまう。
「これじゃ、使い物にならないわね」
「本当に
「それにしても……」
アルカサンドラは
「私たちは本当に
「うん」
「あなたもとっても頑張ってくれたと思うけど……さくらたちがいなければ、
「
「
「りせはあんなに小さいのにね」
「
「今日だって、すごいところに連れてってくれた。あんなに
「魔法は使えないけれど、別の
「行き帰りで見た
「……」
「……」
二人はしばらく目を
「あの優しい人たちに、どうやってこの
リウスがぽつりと言った。
「まずは、私たちのことについて
「……信じてもらえるかな」
「どうかな……。でも、
「そうだね。頑張ってここの
「それに、もしかしたら私たちをこの家に置くことに、何かの
「じゃあなおさらちゃんと説明しないと」
「そうね……ただ」
二呼吸ほどおいて、サンドラは続けた。
「いつまでここにお世話になっていいものなのか……」
「どういうこと?」
「
「……あ」
「私たちのいたところは、
「ここがそういう場所じゃないって
「それに……」
サンドラは、もう一度目を閉じる。
「このまま何も働かずに、ただ
「そうだね」
「だからまずは、この世界のことをよく知らないと」
「母さんはさ……」
「ん?」
「元の世界に帰りたくないの?」
息子の唐突な問いかけ。
母親は少し考える。
「僕は……別に帰れなくてもいい」
「そうなの?」
「仲のいい
「……」
「何だか……どう言ったらいいのかな。あそこは、今思うと
「狭い……」
「こんなこと、前は考えることもなかったのに……この世界を見ちゃったらもう、戻れないよ」
「そう……」
小さく
「だったら
「じゃあ、母さんも……」
「……どうなのかな。どちらにしても、私たちの意思だけじゃ帰るも帰らないもないしね。とにかく言葉を早く覚えて、りくたちに
「うん、そうだね」
「それじゃ、そろそろ寝ましょうか」
「うん、
「おやすみ、リウス」
ごろりと
聞こえるのは、エアコンが静かに吐き出す風の音と、遥か遠くで響く夏の虫たちの声だけとなった。
とは言っても、虫の鳴き声などというものを二人は知る
――いつしか
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