第一章 第31話 遭遇
最初に回転寿司で腹ごしらえをした
ゲームセンターを出てからは、書店に寄って日本語を覚えるための本を数冊買い、家の冷蔵庫に入れる食材を買うためにスーパーマーケットを
そして、散々歩いて疲れた身体を休めに、この二階にあるフードコートにやってきたのだ。
◇
「おいしー!」
片手でワッフルコーンを握り、もう片方でほっぺたを押さえながら、
――
理世が食べているのは、ワッフルコーンの中にレギュラーサイズの丸いアイスがどんどんと乗っかっているものだ。
味はストロベリーチーズケーキとチョコミント。
母親のさくらはトリプ○ポップという、ちょっと小さめのサイズのフレイバーを三種類選べるというもので、彼女はチョコレートとモカコーヒーと大納言
父親の
……割と甘さで胸が悪くなる組み合わせである。
「おいしい! おいしい!」
とスプーンを
……彼女が食べているのは、ナッツアイスの周りを生クリームホイップとカラースプレーチョコが飾っているサンデーである。
息子のエルヴァリウス――リウスはアイスクリーム頭痛が起きそうな勢いで、母親と同じサンデーを無言で
ちなみに、今食べているのは二つ目である。
彼らが日本語を
一心不乱にアイスと戦う二人を見て、さくらは思った。
☆
――そして今、彼ら五人は
太陽は
国道一号線の両脇に広がる緑色の田園と
しかし、
助手席のさくらは「そんなに珍しい景色なの?」と問い掛けたかったが、何と言えばいいのか見当がつかなかった。
はしゃぎ疲れた
「ねえあなた、今日の晩ごはんはどうする?」
「そうだなあ……正直それほど減ってないんだよなあ」
「一応、たこ焼きを人数分買ってあるけど……」
「お、いいねえ。あとおにぎりが一つか二つあれば、僕はいいかな」
「わたしはおうどんの方がいいから……どっちか選んでもらおう」
さくらは後ろを振り向いて言った。
「サンドラ、リウス」
「ヤ……はい?」
「今日の晩ごはん、おにぎりとおうどん、どっちがいい?」
「おにぎり……おうどん……」
リウスがさくらの言葉を
「わたし、たべる、おうどん」
「ぼく……おにぎり」
迷いなく答えたサンドラに続いて、リウスもおずおずと希望を述べる。
(この二人、多分ものすごく頭がいい)
何度も感じていることではあるが、改めてさくらはそう思った。
少なくとも天方家の三人は、理解度において現時点ではサンドラたちには到底及ばない。
「あたし、どっちも食べる!」
突然、車両の
いつのまにか理世は目を覚ましていたらしい。
……娘の言葉に、さくらの心はあたたかな
(あんなに食欲がなかったのに……)
理世だけではなく、さくらも陸も、心労で食欲が減退するという経験を初めてしたばかりだった。
特に兄を
――もちろん、その原因となる
それでもたとえ
――いつもの交差点に差し掛かり、車は左折。
駐車場に車がするりと収まったところで、五人は降車した。
「あらあ、お帰りですか? 天方さん」
(ひぅっ!)
どきりとしたさくらたちが声のする方を見ると、そこには一人の中年女性が立っていた。
手には買い物袋と懐中電灯を持っている。
「え、ええ、ちょっとお買い物に」
「まあ。じゃあ親戚のお二人もご一緒に?」
「ええ、そうですね……」
(早く中に入って!)
さくらの
「それにしても、
「あ、ありがとうございます。
「ええ」
と、五味村は買い物袋を
彼女は、天方家から三十メートルほど離れた家に住んでいる。
夫婦二人で暮らしているということくらいしか、さくらは知らない。
「夕飯の材料をね」
「そうですか。わたしも食事の
「ええ、それじゃ」
軽く頭を下げると、さくらはくるりと
背中に何となく視線を感じる。
さくらは家の中に入った後、玄関モニターをつけて――
(ひっ!)
再び、悲鳴が口をついて出そうになった。
モニターには、買い物袋をぶら下げたままじっとこちらを見つめる五味村の姿が
――それから二分ほどして、ようやく外の人影がなくなったことを確認して、さくらは大きくため息をついたのだった。
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