第一章 第27話 銀月真夜
そして彼は、
彰吾の妻――暁の母親の
暁の妹のくるみは、家事を回すために高校の部活を一時的に休むことにし、家の中のことが
暁の心にももちろん、今でも暗い影が落ちている。
父親の
お手伝いさんを雇うべきか……とまで考えていた。
ともあれ、暁はまずは自分に出来ること――朝霧家唯一の働き手として
◇
「はよござまーす!」
「おはようございます」
「おはようございますー」
ここは、N
正式には(株)銀河不動産N
管理業務の
と言っても、ここN
これだけ見れば、ごくごくこじんまりした会社である。
「おあよーございます~」
暁が自席に座り、
その声の
「
「おあよー、暁くん……」
「まさかと思いますけど、また二日酔いとかじゃないでしょうね」
「うち、そんな不良社員やないしー」
「先週の梅酒の件、忘れたんですか?」
「……」
「都合が悪くなるとすぐ黙るんだからなあもう……」
「暁くんもう冷たい! もっと優しくして~」
「まったく」
暁は立ち上がり
コップに中身を
「ほら真夜さん、
「あ、あ~、ありがと~」
真夜は身体を起こし、コップを両手で受け取ると、うぐうぐと一気に飲み干した。
「ぷは~……くるみちゃんにお礼言っといてね~」
「へいへい、飲んだら仕事しますよ」
「は~い」
暁たちのやりとりに、周囲は全く動じない。
いつもの景色なのだ。
☆
「
「はい、何でしょう」
昼休みが終わってから三十分ほど
彼の名は
(株)銀河不動産N
もうすぐ四十代に手が届きそうな年の頃なのだが、下手をしたら十代と間違われそうな
本人にとってそれは決して喜ぶべきところではないらしく、威厳を少しでも
「今日は『するが』の日だったね?」
「はい、そうです」
暁は素直に答える。
「今日ね、三十分くらい早めに行ってやってもらえる?」
「いいですけど、何かあったんですか?」
「いつも来ているボランティアの人が一人、都合で辞めちゃったらしいんだよ」
「ははあ、なるほど」
「新しい人が代わりに来るみたいだけどさ、念のためにね」
「分かりました」
この「
正式名称は「こども
週に二回ほど、こどもは無料、大人は一食百円という破格の値段で夕食を食べられるボランティアサービスである。
「
「うん、行くよ~。取材の
「了解です。じゃあ僕は先に
「は~い」
☆
――
京都府K
主な教義は三つだけ。
「
「弱者に
「奪ってはいけないこと」
その教えに
銀条会静岡東部支部で実施しているのが、
「こんにちはー」
「――はーい!」
暁が玄関の呼び
「あ、
「はい、瞳です。どうぞ入ってください、朝霧さん」
暁は玄関の引き戸を開けると、大き目の段ボール
銀条会は宗教団体であり、敷地内の建物は宗教施設ではあるが、外観としては普通の一軒家の住宅とあまり変わらない。
玄関がとても広いことと、三階建てでかなり大きい作りであることを除けば、
暁が靴を脱ぎ、
「いつもありがとうございます。これ、先に運んどきますね」
「結構重いよ? 気を付けてね」
「はーい」
今岡中学校に通う二年生。
普段は
食材やら何やらがぎっしり詰まった段ボール箱を、よいしょよいしょと奥へと運ぶ瞳。
彼女は、自宅で「こども
そして、両親やボランティアの仕事を手伝うのである。
暁は残ったもう
「今日から新しい人が来るんだって?」
「はい、もう来てますよ」
「そうなんだ」
玄関を入ってすぐ左側が、お寺の本堂に当たる広い部屋である。
六人掛けの
さらに進んで奥にあるのが、
瞳と暁は、そこに入っていった。
「お母さーん、朝霧さん来たよー」
「こんにちはー」
「あ、朝霧さん、いつもありがとうございます」
暁の声に、食事の
耳横のふんわりとしたおくれ毛が、母性と言うか優しさを感じさせる女性である。
「
「そうなのね。だから朝霧さん、来るのが少し早いのかしら」
「まあそんなとこです」
「本当にいつも助かるわ――あっ、そうそう。今日から新しいボランティアの
すると、その女性は
「紹介するわ。こちらが新しい
紫乃の言葉で玉ねぎの彼女は
「初めまして――
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