第一章 第26話 三家会議 その5
◇
「それで何を狙っていたのか、という話になります。普通に考えれば、消えたものが狙った対象なんでしょうね」
「二つありますわね。学校と――――
「しかし学校を狙ったと言うなら、どうも狙い方が中途半端と言うか、雑じゃないかねえ。西側の道路の
「玄一さんの言う通り、校舎の西側だけ狙う
「学校にあるようなものなら、別に今岡小学校じゃなくてよさそうなものですわね」
「となると」
「――ここか。えーと、学校ではないとすると、人と言うことになります。資料の六ページを見てください。ここから説明会とやらで公表された内容を含めて、現時点で判明していることをまとめてあるのですが……」
「――ははあ、なるほど。ここかね」
「この部分ですわ。『消失範囲は
「お二人はさすがですね。その通りですよ。つまりこの事件は――」
・地球上にはいない何者かが
・当時職員室にいた誰かを狙って
「起こしたもの、というわけです」
「……」
「……」
「おや、どうしました? お二人とも」
「いや、まあシンプルに結論を出せばそういうことになるんだろうがねえ……」
「地球上にはいない何者かって……どなたなのかしら」
「やー、まあそうですよねー」
あはは、と
「それでその何者かと、当時職員室にいた二十三人の内のどなたかがお知り合いということかしら?」
「まあ正直言うと、その辺については完全にお手上げです。ストーリーならいくらでも創作出来てしまいますが、多少でも根拠がなければただの妄想ですしね」
「ってことはあれかね、消去法で考えた末に出てきた結論ではあるが、白人さん自身もあり得ない話だと思っていると?」
「そうですね……半信半疑ってとこでしょうか」
白人は素直に認めた。
「でも、叩き台にはなる。それに……全く根拠がない
「ほう……そうなのかね」
「ええ」
「お聞かせいただいても?」
「もちろん」
摩子と玄一、麗の
「一つ目の根拠はさっき、
「なるほど」
「二つ目ですが……まだ議論していないおかしな点があるの、分かります?」
「……どれのことかしら。正直おかしなことばかりで絞り切れませんわ」
「私は、今回の事件は『消失』事件ではないと思ってるんです」
「……それはさっき例えた水の話の続きかね?」
「そこからさらに一歩進めた考えなんですが……資料の六ページの、消失範囲を説明した
「わたくしが読み上げた部分ですわね」
「そうですね。でもよく考えてみてください」
白人は右手を口元に当て、
玄一のポーズを意識しているのだろうか。
「消失したのなら、地面が
「……!」
「あ……」
「職員室の仮に
「……」
「……」
「これは要するに、半径十五メートルの球状空間がどこかとそっくり『入れ替わった』ということだと、私は考えました」
「それじゃあ、突然現れた
「
「そうなりますね。
「なるほど……」
「でも、正直なところそれほど突飛な考えじゃないと思いますよ。ネット上では
「だとしたら、地球以外に草原が広がっているような場所が存在する、と?」
摩子が
その横で、どういうわけか
「摩子さん、そこについては我々に伝わるものがあるじゃないかね」
「……『
「そうだよ。ま、私も信じ切っているわけじゃあない。正直言うが、八割は信じていないんだ」
「! いくら玄一さんでも、今の言葉は聞き捨てなりませんわ!」
「玄一さん、わたくしも娘に同意です」
突然、麗が色を
「たとえ三家だけの席――いいえ、三家だからこそ、越えてはいけない一線を
「いやいやすみません。私が信じ切れていないのは『彼の地』の存在であって、大昔にどんな
そう言って玄一は、卓に
「まあまあ、お
怒り
「玄一さんは『信じていない』とは言ってませんからね。それに、そう言い切れない二割の理由というのは、私たち
「そうだよ、白人さん。どれほど空想じみた話だと思っても、現に
「……謝罪を受け入れますわ」
摩子がそう言うと麗も静かに頭を下げ、再び
「それじゃ、話の続きといきますか。そんなわけで、私は今回の事件で行方不明になった
「とりあえず仮説としては承知いたしましたわ」
「まずはそんなところでいいんじゃないかね」
「と言うことで、今日の議題の二つ目です」
「三家の、今後の方針についてでしたかしら」
「そうです。『
「異議ありですわ」
すかさず摩子が答える。
白人は、ほら来たとばかりに肩を
「確かに遠い遠いご先祖様は、私たちがそうすることを望まれていたようですわ。ですがそれから
「私だって、無条件で
「でしたら、この議題は二度と
「相変わらず……
「そちらこそ、ですわ」
「はあ~~」
玄一が頭を
「この話をすると、どうして毎度こうなってしまうのかねえ……」
「まあ……麗さんの父君の頃からの
苦笑する白人。
黒家と白家が
もっとずっと過去に同様のことがなかったわけではないが、とにかくそれ以来、黒瀬家と白鳥家はあまり仲がよろしくないことになっている。
「摩子さん」
「何ですの?」
「覚えていますか? 『
「……ええ」
「だから私は
「問題ありませんわ。仮に
「以前も説明しましたけど、危険なんですよ。
「まあまあまあまあ」
再び
「問題の先送りみたいでちょっと気が引けるが、白人さんも今日の今ここでこの話の決着をつけようって気じゃないだろう?」
「まあ……そうですね」
「確かに重要な問題だし、いずれは結論を出さなきゃならないことだが、今日のところはこのくらいにしといたらどうかねえ」
「うーん……」
「それに巫女の託宣の話となると、あれだろ?
「
「そうそう、その京都の娘さんも出てくるわけで余計にややこしくなる。あとね――そろそろ私は腹が減ったよ」
「……分かりました」
ちらりと壁の時計を見て、白人は小さく
会議の始まりには午前十時を指していた時計も、既に正午を二十分ほど過ぎている。
「肝心の方針まで決められなかったのは心残りですが、確かにそろそろお腹が
そう言って、白人はマスクを外した。
「それでは食堂へご案内しましょう」
☆
「ふううう……やっと終わったみてえだぜ」
「あんたのお腹の虫、飼い主と一緒でまるで
ぐぐぅ~~。
「おっと、失礼。わははは」
「さすが、クソ
「ひどいな、讃羅良ちゃん」
くぅぅぅ……。
そこには、
「仕方ないわよ、美月」
姉の季白
「
――ようやく会議は、終わった。
そして……
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