第一章 第25話 三家会議 その4

 赤穂あかほ玄一げんいちのサブマシンガントークに、モニター越しで水神みずかみ拳心けんしん


 詠従えいじゅうでの三家さんけ会議は続く。


    ◇


「いやあ……久しぶりに玄一げんいちさんの本気モードを見せてもらって、圧倒されちゃいましたよ」

「半分趣味みたいなものでねえ、お恥ずかしい」

「絶対に恥ずかしいと思っていませんわね……」


 赤穂あかほ玄一の、何やらすっきりしたような顔を見て、思わず苦笑にがわら黒瀬くろせ白人はくと白鳥しらとり摩子まこ

 二人の横に座る黒瀬白帆しらほと白鳥うららは、何も言わずに目をつぶっている。


「いや、でもさすがは玄一げんいちさんですね」

「そうかい?」


「ええ。非常に示唆しさんだ考察でした。さらに、摩子まこさんにもお考えを聞かせてもらいたいところですね」


「わたくしですか?」

「はい。玄一さんもお望みのようですし」

「……そうですわね」


 小さくせき払いをすると、摩子は話し出した。


「超常現象、と玄一さんはおっしゃいましたが、その言葉とわたくしたちを結び付ける白人さんの感覚は妥当だとうなものだと思いますわ」


「ふむふむ」


「ですが、今は状況証拠しかありません。白人さんの考える通りだとするには、どうしても必要な情報が足りていませんわ」


「それは?」


WHOだれがWHYなぜHOWどうやっての三つですわね。これについてどうお考えなのかしら」


「なるほど」


 摩子の疑問に、当然だとばかりにうなずく白人。


「先に言っておきます。誰が何のためにってところは、正直分かりません。誰が答えを持っているのかさえ、全く思い当たるところがないんですよ」


「その二つこそが大事だと、わたくしは思うのですが」

「摩子さんの言う通りです。ですが、考えが全くないわけでもない」

「ほう……聞かせてもらおうじゃないか」


 白人は、手元のノートパソコンの画面をぱたりと閉じた。

 映像信号の入力が途絶とだえ、資料が表示されていたスクリーンが暗転する。


「ここからは三家さんけの秘密に直結するかも知れません。とらの人たちにくちびるを読める人はいないとは思いますが、念のため、皆さんマスクを着用してください」


    ☆


「おいおい、白人さんたちマスクをつけ始めたぜ」

読唇どくしんさせられないくらいマジばなしってことよ、クソ拳心けんしん


 当主たちが久しぶりにマスクを着用したことで、隣室は少しだけざわついていた。


「さすがに臨時会議というだけはあると言うことか……」

「詮索無用ではあるが、毎度のことながら気になりますなあ、虎徹こてつさん」


    ☆


 詠従えいじゅうの五人は、それぞれ用意してあったマスクで口元をおおった。


「たかがマスク、されどマスク。白鳥さんのところは相変わらず風雅ふうがなデザインだねえ」

「ありがとうございます。玄一さんのマスクもいつもながら洒落しゃれていますわね」


 摩子まこうららのマスクは、純白ではないが生地きじはシルバー系の西陣織にしじんおりでシルク百パーセントのもの。

 一隅いちぐうに高品質のクリスタルが一粒あしらわれている。


蜘蛛くもの巣のようにも見えますが、何かモチーフが?」

「さすが摩子さん。こいつはね、とあるアメコミのキャラクターをしているんだよ」


 玄一のマスクには、真っ赤なにひび割れたような黒い線が何本も走っており、すみに赤穂家の家紋がデザインされている。


 一方いっぽう――白人はくとが着用しているのは何の変哲もない、実用一辺倒の黒マスクである。


 しかもウレタン製。


「私にはこれで十分じゅうぶんなんですよ……」

「別に何も言ってませんわ」

「シンプルイズベストだねえ」


 二人の優しさらしきものをかえって針のむしろのように感じつつ、白人は気を取り直して話を本題に進める。


「それではさっさと私の推測をお話ししますね。何しろまだ、今日の議題の一つ目である現状の確認と情報交換なんですから」


「そう言えばもう一つあるんでしたわね」

「そう言うことです」


 白人は手元の資料をぺらぺらめくり、該当の箇所かしょを見つけた。


「資料の十一ページですね。まあ後に残ってもいいようにぼんやりとしか書いてありません。まずは摩子さんの言った『WHOだれが』からいきましょう」


「お願いしますわ」


「まず前提として、あれほどの規模で何かを消失させることが出来る――その可能性をわずかでも持つ者は、私たち以外にあり得ないと思われます」


 ここで白人は、確かめるように摩子と玄一の顔を見る。

 二人とも分かっていると言いたげにうなずいている。


「とは言っても、あくまで可能性があるというだけで、仮に数値で表すとすれば限りなくゼロパーセントに近い。実質的には不可能です。少なくとも私には出来ませんし、そもそもどうやればいいのか見当すらつきません。お二人はどうです?」


「右に同じですわ」

「そもそも私のとこはそういう家・・・・・じゃないからねえ。無理だな」


 白人は首をゆっくりたてに振る。


「私たちに出来ないということは、すなわちこの地球上でそれが可能な人間は我々の知る限りいないということになります。ここから導き出される結論は、二つ」


「二つ……」

「ふむ……」


「一つは、この現象が人為じんい的なものではなく自然現象であるということ。そしてもう一つが――この地球以外の何者かによるものであるということです」


 白人の発言に、考え込む様子の摩子と玄一。

 白帆しらほうららの表情は、マスクのせいもあってさらに読めない。


「次に「WHYなぜ」にいきましょう。何のためにこんなことが起きたのかということですが、まず自然現象に意思はありませんから、この話をするのなら必然的に誰かがやったということが前提になる」


「まあ、そうなるねえ」

意図いと的なものであれば、ねらいがあるはずですよね」

「そうでしょうね」

「そこで、もう一度現場の写真を見てください」


 ぺらぺらと資料をめくる白人。

 残りの四人もページをる。


「ここですね、四ページです。皆さんここで何か疑問に思いませんか?」

「ここで、かね?」

潜在せんざい的に当初から感じていたことならありますけれど」

「摩子さん、お願いしますよ」

「それは……『何故なぜ消失事件はここ・・で起きたのか』ということですわ」

「素晴らしい!」


 白人が思わず拍手をする。

 むすっとする摩子。


「あまり馬鹿にしないでいただきたいですわね」

「馬鹿にするなんてとんでもない! 同じような疑問を持っている人がいて嬉しいんですよ」

「なるほどね」


 玄一が口ひげをいじり出す。


「自然現象ならたまたまそこが、と言うこともあるが、人為的なものならここを狙った・・・・・・わけだ」

「その通りです、玄一さん!」


    ☆


「何か……めっちゃ手ぇ叩いてんな……」

「白人さんってば、目がきらきらしてる……」


 半ばあきれた様子で拳心けんしん讃羅良さららつぶやく。

 水神みずかみ大拳たいけん白華しらはな虎徹こてつうなる。


「気になりますなあ、虎徹こてつさん」

「全くです」


 ――会議はもう少しだけ、続く。

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