第一章 第21話 発見
真夏の静岡。
そして、彼らがここを通る時にはほぼ必ず寄ると言う、グルメ?スポットに到着した。
◇
「やー、何か久しぶりだなあ、ここ」
車を降りた
ここは
立ち食いスペースの
駐車スペースは
しかも、店内の座席からガラス越しのほんの数メートル先を、上り線の車がガンガン通ると言う、文字通りのロードサイド店舗なのだ。
「相変わらずスリルあるわねー」
ひっきりなしに目の前を通り過ぎていく車の群れを見て、
国道一号のさらに向こう側は、すぐに東名高速道路が海沿いに走っている。
「さ、食おうぜ食おうぜ」
最後に
店の裏をJRの貨物列車が高速で走り抜けていく。
☆
「よし、全員分そろったな。食おうぜ」
「うん、いただきまーす」
「いただきます」
昔に比べてずいぶんメニューは増えたらしいが、三人のお気に入りは何と言っても「桜えび天うどん」なのだ。
何しろここは
目の前に
特産の桜えびをたっぷり使った「桜えび天」が乗ったうどん。
「はー、うめえ。相変わらずうめーわ、ずるずる」
桜えび天の、まだつゆに
「でもね、うちのパパが言ってたんだけど、昔の桜えび天はもっと真っ赤だったらしいよ」
「何かここ数年はめっちゃ
「値段ももっと安かったって言っていた」
「ま、いいじゃねえか。俺はさ、桜えび天も好きだけど、ずるずる、何てったってこのつゆの味がたまらねえんだよ」
「おいしいよね、このおつゆ。結構甘めで濃い感じで、私も好き」
「こいつにこの黄身を混ぜると、これまた味がマイルドになってうめえんだ」
そう言って、迅は生卵の黄身を
黄色と茶色がとろとろと混ざっていく。
ちなみに卵を追加で乗せたのは、迅だけである。
「僕、
「あ、私もそう」
「そういう奴らは、温泉卵にすりゃあいいんだよ。もぐもぐ」
☆
「はー、うまかったー」
「さ、とっとと乗って」
「はいはい」
朝食を終えた三人は、お腹を
慣れた手つきで
そろそろとアクセルを開けながら、合流の準備をする。
「こういう時、どっちにウィンカーを出したらいいのか、いっつも迷うのよね」
ビングの目の前の国道一号線
「ん? どっちって?」
「感覚としては左に行くんだから、左ウィンカーでいいと思うんだけど、それだと右から来る車には見えないしさ」
「逆に右に出したら、右折するのかと誤解されちゃうしってこと?」
「そんな感じかな」
今、彼らの車は道路に対して垂直方向を向いている。
進行方向は、もちろん左だ。
「それってさ、俺も昔気になって調べたことあるぜ」
「へー、それでどっちが正解なの?」
「まあいろんな考えが出てたけど、俺が一番納得がいったのが『出さない』って答えだったな」
「え? 何で?」
慶太郎が首を
「確か……まだ道路上じゃないから、右折でも左折でもないんだとさ」
「ああ、なるほ――」
「ちょっと待って!」
花恋が助手席の慶太郎を
突然の出来事に、彼はぽかんとしてしまう。
「え?」
「いいから黙って!」
よく見ると、花恋の視線は慶太郎ではなく、彼のずっと先の方に焦点を合わせているようだ。
この車は左ハンドルなので、つまり彼女はこちらに向かってくる車を見ていることになる。
花恋は
視線がすーっと左に移動し、正面を向いた瞬間、クラッチを
「ごめんねっ!」
「うわっ!」
「おわわっ!」
花恋はじっと前方右車線を見つめながら加速していく。
「いてて……いきなりどうしたの? 南雲さ――あっ!」
「気が付いた? 東郷君」
「うん。あれは……あの車は――」
花恋たちの前方五十メートルほどのところを走る、二台の赤い車。
その特徴的な色と姿に慶太郎たちは見覚えがあった。
「あれって……こないだ
「そう……あのジュ○アとステ○ヴィオ、特にあの
「おいおい、どういうことだってばよ!」
「迅、あの前の方を走ってる赤い車、見える?」
「ん? ……ああ、走ってるな」
「あれはね、こないだ現地調査の時に写真で見せてもらった、
「えー、マジかよ」
「同じ車だからって、赤穂さんのとこのとは限らねえんじゃねえのか?」
「その可能性もなくはないけど、あんな車、そうそう走ってないと思うの」
「しかも二台が
「それに……」
左ハンドルのス○ルヴィオを運転していた人物。
「あのショートカット、髪色……
「マジかよ……で、どうすんだよ?」
「とりあえず、追う」
「……じゃ、じゃあ、みと○ーは?」
「
「かああ~~~っ」
迅は頭を抱えた。
「イルカ、見たかったのによう……」
「南雲さんは行かないとは言ってないよ、迅」
慶太郎がフォローを入れる。
「とりあえず、N市まではどうせ行くんだからさ」
「そ、そうか……」
花恋はつかず離れずの距離で赤い車を追跡する。
そして道路は大きく左にカーブし、海沿いを離れていく。
「そろそろF市に入ったね」
「そうね」
慶太郎の言う通り、左に曲がった道は今度は右にぐぐっと曲がり東進コースに戻る。
すると日本三大急流に数えられるF川を渡る橋に差し掛かった。
「三大急流って言うけどさ、あんまりそんな感じしねえよな」
「まあここは下流も下流だからね」
「
「キャンプとか出来んのかな……」
F川を渡り切ると、道路沿いにロードサイド店舗が目立ち始める。
大きなショッピングセンターを右に見て、更に進んだ辺りから道路は高架になる。
しばらくの間、東海道新幹線と並走。
新幹線が北に遠ざかっていくと、遠くに富士山を望む田園風景へと変わる。
「おいおい、そろそろN市だぜ」
「どこまで行くんだろうね……」
花恋は追跡を始めて以来、ほとんど口を
距離を適度に
――花恋が完全に探偵モードに入っているので、車内は若干緊迫した雰囲気になっている。
迅も軽口を叩くような空気じゃないことを察して、口数がどんどん減っていった。
進行方向左手に見える富士山が、手前の
その富士山が半分以上見えなくなり、道路の両側に住宅地が迫り始めた頃――
「あっ」
それまで無言だった花恋が声を上げた。
ずっと片側二車線の右側を走っていた赤い車たちが、ウィンカーを
そして、次の交差点で左折したのだ。
「曲がったね」
「うん……でもまずいね」
「丸見えだな、俺たち」
これまで他の車に
とは言え、ここで
「しょうがない、行っちゃうしかない!」
花恋の決心に男二人は
バレたら、その時はその時だ。
――しかし、幸か不幸か
門は
「おいおい……バカでけえお屋敷だなこりゃ」
「
「ねえ、ちょっとあの門の横!」
門の前で停車したまま、花恋が指さした先には、「
「すげえ……五個も表札がついてるじゃん」
「
「東郷君!」
「うん! 覚えてる。上野原さんと一緒に行方不明になった人たちの中に、確かにいた!」
「私も覚えてる。黒瀬と神代って
「マジかよ……」
そして、そこが
これをただの偶然と片付けてしまうほど、花恋たちはまだ大人しくはなかった。
◇
思わぬ追跡劇で、新たな手掛かりを得た三人。
彼らはとりあえず車を発進させた
そしてとりあえず当初の予定通り、一つ目の目的地である
――とりあえずはせっかくの一泊旅行をエンジョイすることに決め、一日目二日目とたっぷり楽しんでから、帰宅したのだった。
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