第一章 第20話 ワーゲ○バスに乗って
「それじゃ
「うん、分かってるよ、パパ」
「気を付けて行くのよ」
「大丈夫だからね、ママ。それじゃ、行ってきまーす」
運転席の
ドゥルルルルとエンジンが小さく伸びをするように低く
彼女が乗っているのは、「大衆車」とか「国民車」という名のドイツメーカー製の、いわゆる「タイプ2」と呼ばれている旧車だ。
ワー○ンバスとも呼ばれる。
ボディカラーは赤と茶色のツートンカラー。
車体前面には「V」と「W」が組み合わされたエンブレムが、でかでかと存在感を
もちろん花恋のものではなく、これは彼女の父親所有の車。
父親は外車マニアであり、この車にも結構な金額をかけてカスタマイズを
車は乗ってナンボ、と言う考えの持ち主らしい。
――走り去る車の左側から、花恋の手がにゅっと伸び、ひらひらと振られる。
母親が手を振り返しながら、ぼそりと
「大丈夫かしら……」
「
「そうねえ……」
花恋の両親は、
もちろん、
普通に考えるのなら、男二人の中に年頃の
しかし幸い、迅たちは
「それにしても……
「ああ……」
今、世界中で騒がれているN市の小学校消失事件。
その関係者に、
娘の
そんな花恋の気持ちが少しでも晴れるならと、男二人女一人の一泊旅行にも両親は気持ちよく送り出したのだ。
「楽しんでこいよ……」
とっくに見えなくなった娘の姿に向かって、父親は
◇
「
「うるっさいわねーもう」
「僕、ちょっと涼しすぎるくらいなんだけど……」
午前八時半。
ちなみに愛称は「ビング」。
車体の色からアメリカンチェリーを連想した花恋が、勝手に呼んでいる。
「慶太郎~、席交代してくれ~」
「助手席だと
「だってお前が、エアコンの冷たい空気を
この車のエアコンは助手席の真ん前についているので、確かに
「あんまりうるさいと降ろすよ! ただでさえ
「
針路左に、お
花恋は朝食を済ませているが、迅と慶太郎はまだだ。
「腹減ったな……ハンバーガー食いてえ」
「
「まあ他にもいろいろあるけど、いつも通り
「んー、そうだよなー」
マクダの
しばらく北上して、
「それで小田巻君、最初の目的地はどこなわけ? あんたの担当でしょ?」
「へ?」
「へ、じゃなくて。初日は小田巻君、泊まるとこ選ぶのは私、二日目の予定は
「あれ、そうだっけ?」
迅のすっとぼけた声に、ステアリングを握る花恋の手に力がこもる。
「
「へ?」
「へ?」
「な、何?」
二人同時にとぼけられて、花恋は
「そらつかう……って、何? 南雲さん」
「もしかして風魔法か? それか、光魔法とかか?」
「……あれ、もしかしてこれも
「まあ僕は何となく意味は分かったけどさ」
「久しぶりだよなあ、方言で盛り上がるの」
「……別に盛り上がってないけど」
ぶすっとした顔で花恋が言う。
ちなみに彼女のこういう態度を「ぶそくれる」と言う。
「あんただって『だにだに』言うじゃない!」
「最近、あんまり言わないぜ? そうだに、とか」
「
「言ってた言ってた。『一緒に行くら?』とか、最初意味分からんかったわ」
「でもさ、自分たちのことを『うちっち』って言うの、僕ちょっと可愛いと思った」
「同じ県内なのに通じねえとか、すげえよなあ」
「ちょっと、小田巻君。方言でごまかしても無駄だからね」
その時、ちょうど前方右に海が見えてきた。
ここから
「冗談だって。ちゃんと
「まあそんなことだろうとは思ったけど」
「で? どこなの? 迅」
「ホントはさ、ちょこちょこ
「出た、アニオタ」
「ちょっとやめてよね、私たちを巻き込むの」
「お前ら失礼だぞ! 聖地は聖地じゃなくたっていい場所はたくさんあるんだからな!」
そう。
迅は結構なアニメ好きなのである。
この辺も彼の「ギャップ」の一つなのだが、それほどディープなタイプではなく、
オタクと呼ばれてしまうのは、真のオタクに申し訳ないと彼は思っている。
「とりあえずあれだ、最初の目的地は『M
「……やっぱりね」
「……まあ、いいか。もう
実は、
それぞれで家族などと行った回数を考えれば、花恋と慶太郎のリアクションもさもありなんというものである。
「あんた好きだもんね、イルカとかアザラシとか」
「僕、
「ばっ……おま、全然違うじゃねえか!」
「私も分かんないし」
遠くに富士山を望みながら、東名高速道路が国道一号とJRと交差する
――漁港を右に見ながら少し走ったところで、三人のお馴染み朝食ポイントが見えてきた。
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