第一章 第19話 赤穂桜雅
何とそこは、檜山家以外に「
門の前で
その
ちなみにスクーターは、近所のパーキングにとめてきた。
◇
「マジでここが檜山さんのご、
「そうみたいだね。ほら」
目の前の光景のあまりの迫力に、思わず尊敬の
そして慶太郎が
そこには見事な
「……もしかして、お嬢様なのかな? あの子」
「どうなんだろ。まあその辺も調べていくうちに分かるんじゃないかな」
――時刻は午前十時。
今日の讃羅良については、午後まで大学で試験が
慶太郎はスマホで時刻を確認すると言った。
「さてと、じゃあそろそろ動きますか」
「動くのはいいけど、どうするの? 片っ
「それだと非効率すぎるし、迷惑だと思うよ」
「じゃあ……ここに直接
「ばっ……」
「それが出来れば苦労しないっての。大丈夫、ちゃんと対策してあるから」
「冗談だよ……そんなに慌てなくても。で、対策って?」
「……この辺りの
「ほえ~やるじゃない、東郷君」
「まあね」
慶太郎は非常に気合いが入っていた。
何しろ、花恋と二人きりでの行動なのだ。
彼としては別にこの場で何をどうこうしようとは思っていないが、出来る男アピールの必要性は感じていた。
「もうすぐ約束の時刻だから、急ごう」
「うん」
――ギィィ。
「ん?」
何かが
歩き出した二人が振り返ると、さっきまでぴたりと閉まっていた
思わず足を止めて、見入る花恋と慶太郎。
すると――――中から出てきたのは、
……と思っていたら、彼らの
小学生の中でも一番
「こんにちは。
「えっ……えっと」
思っていたのより十倍くらい
それでもさすがの慶太郎は
「いえ、立派なお宅だなーって、思わず
そう言ってぺこりと頭を下げる。
小学生相手でも、きちんと敬語を使う慶太郎。
「そうでしたか。ゆっくりと見ていってくださいね。
「はーい」
「じゃーねー、お兄さん、お姉さん」
三人の子どもはそのまま門を出て、花恋たちの目的地とは反対の方向へ歩いて行った。
後ろから先ほどの男女二人が、軽く
反射的に頭を下げる花恋と慶太郎。
そのままぼんやりと五人の背中を見送る。
「……ここのお坊ちゃんかな」
ぼそっと花恋が
「そうかも。あとの二人はご学友ってとこか?」
「後ろの大人の人たちって、もしかして護衛とか?」
「この敷地の規模だと、そうであっても僕は驚かない」
「はえ~。服とか別に普通なのに、何なの? あの
「そうだね……」
花恋たちは知る
そして
――つまり赤瀬川家は、赤穂家の敷地全体の警護を
「おっといけない、遅れちゃう。急ごう、南雲さん」
「そ、そうね」
◇
「
「何か、すごいたくさん話を聞かせてもらえてよかったね」
「うん……僕的にはもうこれ以上、他を回らなくてもいいような気がする」
「一度戻って、整理した方がいいかも」
堂本さんとは、慶太郎が
彼は非常に
印象的だったのは、敷地内らしき場所で三台の真っ赤な車をバックにピースをする堂本さんの姿だった。
そこには、当主と
「あの車、イタ車だよ。赤十字みたいなのと大蛇のマークのやつ」
「南雲さん、
「うちのパパがねー」
「肝心の
「そうだね――あれ?」
二人の進行方向にある曲がり角から、白黒ツートンカラーの車がすっと現れた。
ルーフには赤い
花恋と慶太郎は顔を見合わせた。
(え……何もしてないよね、私たち)
(そのはずだけど……)
小声で話す二人の期待も
中から二人の警察官が
「あー、君たち。ちょっといいかい?」
「は、はい」
「いやね、先ほど通報があってね。二人組の怪しい男女がうろうろしてるってね」
「え?」
◇
「――――それじゃあ気をつけて帰ってね」
「はい……お手数おかけしました」
げっそりとした顔で交番を出る
――結局あの
事情聴取と言うほど緊迫した雰囲気でこそなかったが、あれこれと根掘り葉掘り聞きほじられた。
慶太郎が、自分たちはこの地域の歴史について聞き取り調査をしていただけで、何も
電話で確認した警官に堂本氏が上手いこと話してくれたのか、それ以降は元々
さらに身分を証明する物として免許証と、ちゃんとした情報を
「
「そうね」
「それにしても……何か納得いかないんだよなあ」
「……」
「うろうろって言うけど、僕たちがいたのは赤穂さんちの門の前と、堂本さんの家だけなのに」
「……何かさ、質問口調が真剣じゃないっていうか、とりあえず交番に連れてきましたって感じがするの」
「ええ?」
「私思うんだけど、あの場から私たちを引き離すことが目的だったみたいな……」
「そんなまさか」
「
「そんなわけ……ある、のか?」
いくら富豪とは言え、
小説やドラマの中ならさして珍しくもない
「何か私、お腹減っちゃった」
「もうとっくに十二時は過ぎてるからね、どっかでご飯食べよう」
「そうね」
――このままなら、二人きりで食事が出来るじゃないか……と。
客観的に見れば、花恋自身が「お腹が減った」と言っているんだから、そのまま二人で食事をしたところで何もおかしなところはない。
むしろ、迅を待っていたら
(それなら……いや、駄目だ。別行動とは言っても、あいつだって調べ物を一生懸命やってくれてるんだし)
「それじゃあ、迅の奴も呼ぼう。図書館にいるはずだからさ」
「えー、お腹減ったー、すぐに食べたいー」
(えっ……そう来るのか……)
「じゃ、じゃあ僕たちだけ先に行って食べてよう。……迅にも連絡して、遅れてもいいから来てもらえば」
「うん、そうしよ?」
(はあ~~~~~~――――…………‥‥‥‥ヘタレだな、僕は)
◇
「わははは、じゃあおまわりにとっ捕まったわけだ」
「ちょっと、人聞きの悪い言い方やめて」
結局
煮込みハンバーグが美味しいと有名な店だ。
いつもは行列が出来るほどの人気店だが、どういうわけか花恋と慶太郎は待たずに入ることが出来た。
「すまんすまん、でもあれだな。思ったよりやべー奴らってことか?」
「どうだろ。本当のところは分からないけど、僕は否定しきれない気がする」
「これじゃあ、聞き込みももう出来そうもないよね……」
はあ、と溜息を
「俺の方もさ、
と言って、迅は肩を
「ちょっと行き詰まっちゃったわねー……」
「そうだねえ」
「じゃあさ」
「お待たせしました、
迅が何か言おうとした時、彼の注文した品が到着した。
「おっ、きたきた!」
「それで、何がじゃあなの? 小田巻君」
「もぐもぐ……えーっとさ、調査も少し
「気分転換?」
「どっか行こうぜ、夏休みだしさ!」
「……」
「……」
「どうよ?」
「……いいかも」
「……いいかも、知れない」
「海とかどうよ?」
「海はパス。女一人じゃやだもん」
「泳がなくてもいいからさ、西伊豆行かない? 日帰りでもいいし、N市かM市辺りで一泊してもいいしさ」
「どうせ運転は私なんだから、日帰りはやだ」
「もぐもぐ……なら一泊すればいいじゃんかよ」
「じゃあ決まりだね」
「じゃあ計画たてよ? まず日にちは――」
◇
「あっ、
「お?
「姉さんが言ってた通り、来たよ」
「へー……何人?」
「二人」
「ほほう……二人か。どんな人だった?」
「男の人と、女の人だよ」
「男の人はどんな感じだった?」
「どんな……うーん」
「髪の毛は長かった?」
「ん-ん、短かったかな」
「そっか、ありがとね」
「うん」
すたすたと去っていく桜雅の背中を見ながら、讃羅良は
「――
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