第一章 第14話 異郷の朝
翌朝。
エルヴァリウス・ベーヴェルスは、静かに目を
「ん……」
彼は、自分が
そこは、
「んっ!」
その時、リウスは突然、猛烈な尿意に見舞われた。
思わず起き上がろうとするが――――
「
(いや、このままじゃ……まずい!)
ここがどこかは分からないが、どこであれ
彼はゆっくり立ち上がると、辺りを見回した。
(
隣りに敷かれている白いものに
とりあえずほっとするエルヴァリウス――リウス。
(状況は……よく分からないけど、誰かがぼくたちを助けてくれたってことなのかな――うっ!)
再び彼の下半身から、強烈な
彼は
彼の知る
(これが扉かな……でも、どうやって開けたらいいんだ?)
腰ほどの高さのところに、手のひら大の
いつもしていたように触れてみるが、何も起こらない。
押したり
(蹴り飛ばすとか、きっとまずいよあ……しょうがない!)
リウスは
☆
午前七時。
さくらは
今朝のメニューは、ベーコンとブロッコリーのオープンオムレツとカブ入り豆乳ポタージュ、こんがりトーストにした。
アルカサンドラ――サンドラとリウスのお腹の調子を考えて、
理世はまだ寝ているようだ。
休みの日になるといつもより早起きなはずなのだが、
夫である
窓の外は、あいにくの雨模様だ。
どうやら昨日の夜から、降り続いているらしい。
(つくづく、理世があの二人に気が付いてよかった……)
昨晩の二人の様子を考えると、いくら夏場とは言え、あのまま草っぱらに倒れたまま雨に
さくらは、昨日のてんやわんやの忙しさを思い出した。
「……ん?」
(もしかして、起きたのかしら)
さくらはタオルで手を
そうっと
「きゃあっ!!」
思わず尻もちをつくさくら。
――――目の前には、
そのままの姿勢で石像のように固まる二人。
☆
「まあ、昨日のうちに教えておかなかったわたしのミスね」
「まさか、トイレの使い方が分からないとはなあ……」
「お兄ちゃんが前に言ってたよ。日本のトイレはすごいんだって」
午前七時半の
キッチンから見て右側に、
左側にはアルカサンドラ・ベーヴェルスとエルヴァリウス・ベーヴェルス。。
正面のいわゆる「お誕生日席」に、理世。
ベーヴェルス
何と言うか……恐縮しきっている感じだ。
――ちなみに、リウスのトイレはちゃんと間に合った。
尻もちをつくほど驚いたさくらだが、リウスが
さくらの叫び声に驚いて二階からすっ飛んで来た陸に、リウスへのトイレ指導を
苦労の
「とにかく、先に朝ごはんを食べてしまおう。冷めないうちに」
そう言って、陸がアルカサンドラたちに食卓の上のものを
二人がなかなか手を出さないでいるのを見て、陸は身振り手振りで意思を伝えた。
「いっただきまーす!」
手を合わせてからパクつき始めた理世の姿で、ようやくベーヴェルス
「お母さん! このスープ美味しい!」
「そう? 豆乳のポタージュよ」
「さくらー、僕のトースト、いつもの
「――まあ週に一度ならいいかしら……何回?」
「三回!」
「お母さーん、あたしも!」
「あなたはダメよ。こんな健康に悪いものは」
「えー!」
「お父さんに
陸がオーダーした
名前だけなら普通にありそうなものだが、これはちょっと違う。
・まず、
・そしてオーブントースターにイン。
・しばらくしてバターがふつふつとしてきたら取り出す。
・少し置くとバターがパン
・再度オーブントースターに入れる。
・バターがじゅくじゅくとしてきたら取り出す。
・少し置くとまたバターがすうっと引いていくので、その上から
・またしてもオーブントースターに投入し、バターがぶじゅぶじゅとなってきたところで取り出す。
・食べる。
というものなのだ。
陸が「三回!」と言ったのは、バターを塗り重ねる回数のことであり、彼の気分によって多くも少なくもなる。
何度も焼くので、パンそのものは
しかし彼に言わせれば、表面に
このような悪魔的食べ物を、当然さくらが理世に許すわけがない。
今日も娘は、父親に一口ねだるだけで
「この人たちまで欲しがったりしないといいんだけど……」
しかし、さくらの願いも
トースターからばちばちと、バターが音を立てて
さくらとしては、一度や二度食べさせたところで健康被害などないとは思うのだが、今の二人の体調を考えると、おいそれと許可するわけにもいかない。
代わりに、用意しておいた
すると陸も理世までもが欲しがり、さくらが多めに用意した朝食は全てきれいさっぱりと、五人の胃袋に収まったのだ。
――結局、話をしようと覚悟していた陸だが、朝食を食べ終わった
事情は全く分からない状態でも、二人が寝起きなのにもかかわらず、疲れ切っている様子が見て取れたからである。
――その
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