第一章 第12話 天方さくら
その原因となった
そして、部屋の窓からぼんやりと外を見ていた彼女は
目を
理世は母親であるさくらを呼び、二人で大急ぎでその場に駆け付けたのだった。
◇
「り、理世……それ、一体何?」
「お母さん! これ、人だよ……女の人みたい」
「ええっ!?」
さくらは周りをきょろきょろと見回した。
人影は…………
道路に面した民家の窓にも、誰かがこちらを見ている様子は見受けられない。
(ええい、しょうがない!)
さくらは意を決して、黄色と黒のバリケードテープをくぐった。
何か強烈な罪悪感にちくちく心を刺激されながらも、理世のもとに小走りで
――――黒い何かの
ぼさぼさの長いレッドブラウンの髪、同じ色の長い
その横に、草に囲まれて土が
よくよく見ると……穴が
「ちょっとあなた! 大丈夫?」
思わず駆け寄って、さくらは声を掛けた。
「う……」
彼女は倒れたまま、さくらに向かって手を伸ばした。
「ト……トロア……イム、ルテーム……」
「えっ?」
その女性は
「ちょっと! あなた!」
「お母さん、この人、何て言ったの?」
「え?」
(トロア? ルテーム? ジュテームじゃなくて? うーん……)
「よく分かんないけど、何となくフランス語っぽいわね」
「うん、見た目も外国の人みたい」
「えーと、エスクサヴァ(大丈夫ですか)?」
「……」
女性から反応はない。
「通じてないのかしら……」
「わわっ!」
突然、理世が叫び声をあげ、尻もちをついた。
「どうしたの――ひぃっ!」
見ると、すぐ
「なになにっ!?」
危うくさくらまで腰を抜かしそうになる。
そして腕がもう一本増えたかと思うと――――――ずずずっと誰かの頭のようなものがゆっくりと現れ始めた。
倒れている女性と同じ色の髪。
「もう一人いたのね……」
「!……」
「あっ!」
音もなく穴の
気が付くとさくらは、穴の底に消えそうになった腕を、両腕でがっしりと
「ううっ……重い……」
自分も泥だらけになってしまっているのだが、そんなことを意に介する余裕など
「理世、手伝って!」
「う、うん!」
「よいしょっ!!」
「うーーーっ!」
地上に現れたもう片方の腕を理世は
決して力持ちとは言えないはずの天方
◇
「疲れた~」
リビングのソファにばふりと、さくらと
既に二人ともパジャマに着替えている。
時刻はもう午後十一時に近い。
小三の女子にとっては、かなりの夜更かしだ。
父親はまだ帰って来ていない。
「ご苦労さま。あとはお母さんに任せて、もう寝たら?」
「や。お父さんが帰るまで起きてる」
「そう? 明日が休みで、よかったわね」
「うん」
起きてるとは言いつつも、すでにうつらうつらしている理世を横目に、さくらは考えた。
(問題は、ここからね)
洗面所では洗濯機がごんごんと回っている。
キッチンのシンクには、新たな汚れものが積まれている。
泥だらけだった玄関や廊下は、理世がお風呂に入る前にきれいに
――そうなのだ。
家の中はようやく落ち着いてきたが、さっきまで二人はてんてこ舞いだったのだ。
まず、謎の二人を何とか引き上げてから、さくらは最初の悩みを悩みに悩んだ。
……この
普通に考えるのなら、110番通報だろう。
必要なら救急車も呼ぶべきだろうが、警察が来ればその辺の判断も期待できる。
あとは専門家に任せればいい。
まあちょっと服は汚れてしまったが、洗濯物が少し増えるだけだ。
人助けらしきことも出来て、ちょっとだけ気分よく、いつもの日常に戻ることが出来る。
――しかし。
目の前で泥に
もし
法律的にはその方が正しいのかも知れないし、効率的なのかも知れない。
……それでもさくらは、この二人を見捨てる――そうすることは見捨てると
何より……この二人を放置するような姿を、娘に見せたくなかったのだ。
「お母さーん」
「ん? なに?」
「あの人たちの様子、もっかい見てきていい?」
「いいけど、起こしちゃダメよ」
「うん」
目をくしくしと
そして、
※※※
――あの
恐らく誰にも見られてはない。
取りあえず意識はあり、
家の中に入れてまず、さくらたちは二人の服を脱がせ、身体を
先に風呂に、とも考えたが、体力を
その時に分かったのは、女性がさくらと同年代くらいの
ほどなく出来上がると二人を理世に連れてこさせ、ダイニングの椅子に座らせた。
目の前に置かれたおじやとコップの水を見て、二人がごくりと
さくらが身振り手振りで
熱いから気を付けて、というさくらの言葉はやはり通じなかったのか、がっついた男性の
そんな娘の久しぶりの笑顔を
※※※
――そうして身体を多少なりともさっぱりとさせ、食事をとって落ち着いた二人は、
中にもぐり込むと、二人はものの数秒で寝息を立て始めた。
「よっぽど疲れていたのね……」
洗い物をしながら、さくらは
その時、玄関の扉が
「ただいまー、やあ降られちゃったよー」
夫の声が響いてきた。
(さてと、何とか説得しなくちゃね)
――さくらは、心の中でこぶしを
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