第一章 第06話 迅と花恋と慶太郎
――静岡
S市S区にある国立大学法人。
明治時代に
晴れた日の夕方、教育
その代わり、坂と階段が多めなのは致し方ないところだ。
――大学に向かおうと思ったらまず、
木々が
そして、いつの間にか大学の構内に入っていることに気が付くのだ。
――そのまま歩き続けると左手に自動販売機の列と、石垣のような基礎の上に建つ
それがこの大学の第一食堂である。
……その中のテーブルの一つを、二人の男子学生と一人の女子学生が
時刻は午後二時半。
「……今日でちょうど一週間かあ……」
そう言いながらカツカレーを食べているのは、
上野原玲と同じ――正式名称は長いので
――彼の
中東
見た目はいわゆるコテ巻き風パーマという奴だろうか。
もちろん、彼はコテなど使っておらず、ただ伸ばしているだけであるが。
おまけに身長が百九十センチ近いので、外国人に間違えられることもしばしば。
「小田巻君、
と、彼の正面で指摘するのは
茶色みがかった髪は、軽くウェーブしながら
丸くくりっとした瞳と、少し立ち気味な耳が印象的な女性。
チキン
玲や迅は国語科だが、彼女は家庭科の四年生だ。
「迅、昨日もカレー食べてなかった?」
迅の隣りで、そう言って
彼も教育学部ではあるが、教科の学科ではなく教育実践学科というところに所属している四年生だ。
さっぱりとしたツーブロックに、軽いニュアンスパーマがかかっている。
童顔の彼は迅とは
それなのに、迅たちより一つ年上だったりする。
身長はぎりぎり百七十センチほど。
ちなみに花恋も慶太郎と同じくらいの
「毎日食べてるじゃない、この男は」
「まあな、もぐもぐ……南雲さん、そのチキン俺のカツと交換してよ」
「やだよ、
「はあ?
「やだったらやだ」
「カレーも乗っけてやるからさ」
「余計にやだよ! 味が変に混ざっちゃう」
「はーあ」
レンゲを使わず、両手で丼を持ってスープを飲み干した慶太郎が、大きな
「いつもだったら、ここで上野原さんが『まあまあまあ』とか言って
「う」
「……」
迅と花恋の手がぴたと止まった――――
――
彼ら三人は、ここ数日間ずっと同じようなやり取りを繰り返していた。
四人席の、一つだけ
そこは普段なら
「どこ行っちゃったんだろな、上野原さん」
「うん……」
迅の
慶太郎はスマホを取り出し、何やら操作を始めた。
「……だめだね。やっぱりずっと未読のままだ」
「私だって、あれから毎日何度も何度もメッセージ送ってるけど……既読になってくれないもん」
――異変に最初に気付いたのは、花恋だった。
花恋と玲はほぼ毎晩、コミュニケーションアプリ「
時間にして五分程度。
内容は
花恋自身、時々「めんどくさ」と思ったりもした。
ところが一週間前のあの晩、花恋からいつものようにアプリで呼びかけたものの、いつまで経っても送ったメッセージが既読にならなかったのだ。
トイレとかお風呂とか、もしかして疲れて寝てしまった可能性もある、と彼女は考えた。
何しろ、玲だけはまだ教育実習が終わっていないのだ。
受け入れ側の学校の都合で、他のみんなとは時期がずれたらしい。
特に最近は、第一声が「疲れた~」ということが続いていたから、帰って即
彼女はスマホをベッドの上に放り出すと、リビングに行って家族とテレビを観た。
その頃には、
同じ県の中で起こったらしい、不思議な事件に興味を
「……!」
それが玲が実習に
そして、彼女は気が狂ったかのように迅や慶太郎に連絡を取り、あれやこれやとしているうちに今日に至ったという訳だった。
「上野原さんの名前、テレビでも出てたね」
「私思ったんだけど、こういう時って勝手に名前出しちゃってもいいの?」
「公開捜査ってやつじゃね?」
花恋の疑問に、最後の一口を食べ終わった迅が答えた。
彼の言葉に慶太郎が首を
「公開捜査って、容疑者の顔とか名前を
「よく分からないけど、事件性や緊急性があると警察でも情報提供を呼び掛けるみたいだぜ? 俺もウェブであいつの情報見たし」
「うそ! マジで?」
「おう、名前だけじゃなくて顔写真とか年齢とか血液型まで書いてあった。あいつ、B型だったんだな」
「うえ~……何か玲かわいそう……」
「でもさー、情報を公開したところで見つかる気がしないんだよね……僕的には」
「うーん……」
実際のところ、日頃から仲良くしているとは言っても、ただの大学生である彼らに出来るようなことは何もない。
――実は、玲行方不明の
そんなことをしても何の意味もなく、
「こないだ行った時にも思ったけどさ、あの校舎の消え方、マジでヤバいって」
「地面に突然生えた草っぱらが異様だったよね」
「見物人もすごかった……私たちが言えることじゃないけど」
玲の実家に押しかけたりはしなかったが、それでもどうしても自分たちの目で確かめないと気が済まなかった三人は、事件から三日後の午後、電車に乗って今岡小学校まで行ったのだ。
――今岡小の
それが事件以来、訪れる人が急増しているのだ。
お蔭で周辺の閑静な住宅地では大騒ぎになっている。
現場から数分のコンビニエンスストアは大混雑。
少し離れたところには、
N市としても対応にてんてこ舞いなわけだが、その影響で市内中心地に食事を求めて客が殺到し、ついでに観光なんかもしていくわけだから、
「私に出来ることはFINEで呼び掛けることぐらいだから……とりあえず続けてみ――」
「こんにちはー」
その時、三人に声を掛ける者がいた。
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