第一章 第07話 檜山讃羅良
静岡
とは言え彼らが集まったところで、行方不明になった玲のために出来ることは特になく、事件以来彼らは食事を兼ねてこうして集まり、
そこに新たな人物が登場し、三人に声を掛けてきた。
◇
「こんにちはー」
現れたのはミルクティーベージュ色のショートカット。
身長は……百六十五センチくらいだろうか。
非常な
くっきりとした目と小さな鼻の、
突然声を掛けられて固まっている三人の返事も待たず、彼女は一つだけ
手には飲み物も食べ物も持っていない。
「あ、えーと……」
「ひ、
――そう。
慶太郎が言うように、彼女の名前は
静岡葵大学理学部の三年生だ。
「……」
「えーっと、
「あ、ああ、こんちは」
「
「いや……今は土日だけ、かな」
「えと――
「誰が雨雲よ!」
「……相変わらずだね、檜山さんは」
困り顔で
「だって、不思議じゃないですか。
「
慶太郎がうっかり反応してしまう。
「俺、前に女優さんか何かの
「
「……
おかしな話の流れになりそうなところを、
「そう言えば
「おいおい……いつの話だよ。二、三年前だろそんなの」
「え、私その話知らないです。教えてくださいよー」
それなのに、
わくわく顔の
「まずね、迅と上野原さんは仲間なんだってさ」
「仲間……何のですか?」
「三文字の苗字
「んーと……小田巻+迅と、上野原+玲――確かに」
「ふーん……その理屈だと、二
全然よくない感じで、花恋が
「あ、ホントだ。東郷先輩、仲間ですって」
「いや、勘弁してください……」
「お前ら、何で上野原さんの名前が
「小田巻君は何でそんなこと知ってんのよ」
「おう、本人に聞いたんだけどな、あいつの親父さんの名前がめっちゃ長いらしくてさ、せめて自分の子どもは書くのに苦労しないようにってことらしいぜ」
讃羅良が目をぱちくりする。
「へー、そんな付け方もあるんですね……」
「ちなみに親父さんの名前って、何て言うんだよ?」
慶太郎の質問に、迅は腕を組んだ。
「えーと……上野原
「……確かにちょっと長めね。漢字でもひらがなでも」
「だろ? 俺だって、もし小田巻迅太郎とかだったら、毛筆の時間なんか結構めんどかったと思う」
「……そう言えば、玲ちゃんのお姉さんも一文字でした!」
思い出したようにぽんと手を叩く讃羅良。
「それ、俺も知ってるぜ。確か、上野原……
「そうですけど、玲ちゃんのお姉さんを呼び捨てにしないでください!」
「あ、はい……」
「あのさあ」
花恋が
「
「まさかあ」
にっこり笑う讃羅良。
「先輩たちは、ここで何してたんですか?」
「質問に質問で返すのやめて」
「それってよく言われるけどさ」
「何で質問で返したらダメなんだ?」
「
「ひえっ……」
(迅のやつ、そういうとこだぞ?)
慶太郎は、猛獣のような顔つきになっている花恋を見ながら、本日二度目の
(南雲さんのことを、てんで女扱いしないんだもんなあ)
――健康な大学生の男女四人がそれなりの期間、仲良く付き合いを続けていれば、いろいろ
そしてそれらの想いが、全て見事なまでに一方通行になっていることに慶太郎だけが気付いていた。
まるで四匹の子犬が、互いの
――玲の口だけはどこを向いているのか不明なので、正確には輪ではないが。
(今の上野原さんの気持ちは分からないけど、少なくとも迅には向いていない。残念ながらね)
慶太郎は花恋の気持ちを
「僕たちは見ての通り、昼ご飯を食べてたんだよ」
「そうよ! あなたのせいで冷めちゃったじゃない!」
慶太郎は、うっかり熱いものにでも触ってしまったかのような顔で、小さく肩を
(うへえ……こっちにも地雷があったか)
「それはそれは、誠に申し訳ございませんでしたっ」
花恋の隣でぺこりと頭を下げる讃羅良。
彼女の後頭部に突き刺すような視線を向けながら、花恋は言葉を
「っ……いいからとにかく、何しに来たのか言いなさいよ」
「えっとですね……」
讃羅良は顔を上げて、三人の顔を見回した。
「先輩たちは、いつも玲ちゃんと仲良くしてくれてますよね」
「……そうだけど、玲はあなたより先輩でしょ?」
「はい、そうですけど?」
「だったら、どうしてちゃん付けなのよ。慶太郎みたいに浪人したわけじゃないでしょ?」
「ひどくね?」
流れ
思わず、今朝見た自分の本日の運勢が最悪だったことを思い出す。
「あれ、南雲さんは知らなかったっけ?」
「何をよ?」
迅が意外そうな表情で言った。
「上野原さんと檜山さんは、中学の頃からの付き合いらしいぜ?」
「はあ? だって二人とも住んでるとこが全然違うじゃない」
「上野原さん、N市から
「……ああ、そう言えば」
花恋が思い出したように言った。
「あの子、女子校出身だっけね。中高
「そうなんですよ!」
我が意を得たりとばかりに、讃羅良が
「昔から玲ちゃんはかわ――」
「分かった分かった。ちゃん呼びはとりあえずいいわ。で、私たちがあの子と仲良くしてるから何なのよ?」
「――先輩たちはここで、玲ちゃんの話をしてたんですよね?」
「またあなたは質問に――」
「まあまあ南雲さん、話が進まないからさ」
またしても血圧が
「檜山さんの言う通り、確かに僕たちは上野原さんのことを話してたよ。もうここ何日もこんな感じでね」
「玲ちゃんのことを心配してくれてるんですよね」
「もちろん、そうだよ」
「そんな優しい皆さんに、教えておいてあげようと思いまして」
讃羅良はテーブルの中央に顔を寄せた。
「玲ちゃん、多分ですけど――――生きてますよ」
「……」
「……」
「えっ……」
思いがけない讃羅良の発言に、言葉を詰まらせる三人。
讃羅良は立ち上がると、彼らを尻目に「それじゃ、失礼しまーす」と言い、その場をさっさと立ち去ってしまった。
――
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