第七章 第30話 小刀の話
サブリナも一緒だ。
――あれから、まず山吹は今夜泊まるための部屋を取った。
そして食堂で夕飯を食べた。
昼食を取らずに歩き通しだった彼女は、腹がぺこぺこに
山吹に声を掛けた謎の人物は、店が
サブリナ――リィナは
仮眠を取っていた山吹を起こし、二人で
謎の人物は椅子に座り、二人はベッドに腰かけている。
山吹は目の前の
――見たことがある。
確か……学校訪問に来た
流れるような美しい金髪に、
「さて、どこから話そうか……」
しかしその人物の口から流れてきたのはエレディール共通語ではなく、ネイティブと間違えそうなほど
リィナが先に口を開いた。
「エリィナさん」
「何だい?」
「私も一緒に聞いても、いいんですか?」
「ああ。君も知りたいんだろう? いつか機会があったら、と以前言ったからな」
このやり取りは、エレディール共通語だ。
山吹には訳が分からなかった。
何者なの、この人。
リィナとは顔見知りみたいだけど。
「そちらの
名前を呼ばれて、飛び上がりそうになる山吹。
しかも「さん」という
どうしてこの人はここまで日本語に精通しているのか。
「は、はい。
「エリィナさんって、アウレリィナさんなんですね。ただのエリィナさんだとばかり」
「君に名乗ったことはなかったかな?」
「ありましたっけ……? すみません、忘れちゃいました」
この子が日本人なら「てへ」とか言いそうね、と山吹は思った。
エリィナは必要がありそうな場面では、日本語とエレディール共通語の両方で話してくれるのだ。
この上ない
「それでは本題に入ろう。まずは
☆
「そんな……」
しかも、あのオズワルコスさんの関係者に?
リィナもショックで肩が
無理もない。
「ほぼ間違いない。そしてそのような依頼を出したのは、日本人の
鏡さんが……?
追放で済ませて平気だったのは、どのみちこうやって殺すつもりだったから……?
でも、一体どうして?
「どうしてカガミはそんな
「八乙女
「
「ああ」
リィナの質問に答えるエリィナの表情に、
「そこに関しては、私も少なからず責任を感じている」
「責任って……? それは、どう言うことなんですか?」
「その秘密とは、そもそも私が
「ええっ! 校長先生にですか!?」
「ああ」
「私は、あなた方日本人の指導者である朝霧に、この世界に転移してきた秘密を話した。きっとあなた方が知りたいことであっただろうから」
「……」
「朝霧に与えた情報をどう使うかは、彼に
「! 鏡さんが、転移に関わっていた……?」
「そうだ。
「それで校長先生は、あんなに悩んで……」
「そうだ。これについては申し訳なく思う。まさか彼があのような目に
エリィナが小さく頭を
山吹はそれを押しとどめた。
「エリィナさんのせいではありません。あなたは親切で教えてくださった。あなたの
「そう言ってもらえると、少しは気が楽になる」
小さく
「つまり、鏡さん――もう呼び捨てでいいですね――鏡が自身の秘密を知った校長先生と八乙女さんを殺して口封じしようとした、ということですね」
「
「ですけど、どうしてオズワルコスさんが八乙女さんを?」
「その狙いはまだはっきりとしていないが、鏡とオズワルコスは現在、協力関係にあるようなのだ」
言われてみれば……。
山吹はここ最近、開拓班が妙に外に出ることが多かったことに思い当たった。
外交班を通さずにあれこれ交渉を進めていたことにも。
「確かにその話には心当たりがあります……」
「エリィナさん、本当にオズワルコス先生がそんなことを?」
リィナが泣きそうな表情でエリィナに問い掛ける。
「残念だが本当のことだ、リィナ。君には衝撃が大きすぎる話かも知れないがね。今回は表立って動いたわけではないにしろ、
エリィナは、いったん言葉を区切ってから続けた。
「奴は――『
「レアリウス……?」
「聞き覚えがないのなら、そのまま知らなくていい」
「そうですか……」
「さて」
エリィナが足を組み直して言った。
「これで大体のことは話せただろう。問題は今後のことだが……山吹、あなたはこれからどうするつもりだ?」
「追います。八乙女さんたちを」
山吹は即答した。
「二人はオーゼリアというところに向かったんですよね? 私もそこに行きます」
「行ってどうする」
「私には……八乙女さんに会って、どうしても言わなきゃならないことがあるんです。それをしないうちは、死んでも死にきれないんです」
「なるほど……」
「あの!」
リィナが声を上げる。
「どうした?」
「あの……私も、一緒に行ってはダメでしょうか……?」
「ええっ!?」
「私も、はずみとオーゼリアに行きたいんです!」
――教師をやっていると、子どもからこういう
教師に限らず、子を持つ親なら誰しもが経験のあることだろう。
この場合、日本のケースに例えるなら中高生が言う「〇〇に海外留学したい!」みたいなところだろうか。
「私、ずっと思ってたんです。町の外が見たいって。この町も好きだけど、お客さんの話を聞いているとエレディールにはいろんなところがあって、それを見ないままここで一生を終えるなんて、絶対に嫌だって」
「ま、まあ気持ちはよく分かるけど……」
「だから、前にはエリィナさんの
「確かに、そんなこともあったな」
「でも、エリィナさんには悪いけど、やってよかったって今でも思ってます。お蔭でりょーすけやはずみたちと知り合えたし、
「まあ、なかなかに
「それに」
リィナは少し目を伏せた。
「りょーすけと初めて会った時から、ずっと感じてることがあるんです」
「え? ちょっと、何を?」
「この人が、私を知らないところへ連れて行ってくれるって。新しい
「……」
「
そう言ってリィナは山吹に向かって、
山吹は何と言っていいか分からず、思わずエリィナの顔を見る。
「私を見てもしょうがないぞ」
「分かってますよ。分かってますけど、どうしたらいいんですか?」
「そも、あなたは彼女を連れていく気があるのか?」
「そんなこと突然言われても……何があるか分からないし、面倒見られるか分からないし……大体、エレディールのこと、あまり知らないから不安しかないですよ……」
「それなら! 私ははずみよりはここのことは知ってるよ! だから少しは役に立てるだろうし、足手
「うーん……」
エリィナがぽんと手を叩いた。
「いずれにせよ、まずは
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