第七章 第28話 逃避行の始まり
天窓を突き破って、
新たな人物が同じ天窓から降り立ち、襲撃者を
彼女は名乗った。
マルグレーテ・マリナレス、と。
◇
目の前に立つ
よく見ると
俺の知ってる髪型で言うと、ポニーテールだな。
――ほんの少しだけど、
床に
そして、のんびり話している
彼女はあっさりと回線を
危機一髪のところを助けてくれたことと言い、もしかしたら俺たちの事情に通じているのかも知れない。
(助けてくれてありがとうございます、マリナレスさん)
(そのことはいい。それより急いでもらいたいのです)
(下の方から何やら
(お
(
(そうです)
俺は、拘束されている男を指さして伝えた。
(この人、完全に俺たちを殺そうとしていましたよね)
(ええ)
(命まで狙われるような
(オズワルコスの手の者です)
(……え?)
オズワルコス……?
俺の知ってるオズワルコスさんって、一人しかいないんだが。
(オズワルコスって、
(そのオズワルコスです)
(一体、何だって彼が俺たちを?)
階段を乱暴に
(
(わ、分かりました)
とにかくここは言う通りにした方がよさそうだ。
荷物と言っても大したものはない。
俺は外に出していたタオルとか筆記用具なんかを手早くリュックにしまい、
瑠奈はいつの間にか、準備
(準備できました!)
(それでは少しだけ、ここで待っていてください)
(ここで、ですか?)
俺は、ガラスが割れた天窓を見上げて言った。
(
(え、注意って言われても……)
(では、行ってきます)
そう言うと、マリナレスさんは俺の言葉に答えず、ドアを開けて出て行った。
しばらくすると、どたばたと何やら激しい音がしたが、それもすぐ
ちなみに
(
マリナレスさんだ。
俺は瑠奈の手を引いて、ゆっくりとドアを開ける。
左右を確認するが、廊下の向こうに立っている彼女以外人の姿は見えず、ドアは全てぴったりと閉ざされている。
あ、いや……正確には、マリナレスさんの近くに人がまたしても
同じ
(こっちです)
彼女が
そして一階に到着すると――テーブルが二つほど倒れて、床に食べ物や飲み物が散乱していた。
それらをリィナが一生懸命片付けている。
少し離れたところに、例のフードローブを着た人物が二人、これまた縛られて転がっている。
その横で、ペルが腕組みをして
お客さんたちの多くは、その様子を遠巻きに
「りょーすけ!」
「りょーすき!」
下りてきた俺たちを見つけて、リィナとペルが同時に叫ぶ。
「
「すまん、俺にも分からないんだ」
当然の疑問だろうが、俺も状況を
店の中も荒らされて、さぞご
そのペルにマリナレスさんが近付いて、何やら話している。
よく聞こえなかったが、「
(
(分かりました)
俺はリィナとペルにぺこりと頭を
何と、目の前に
マリナレスさんも出てきた。
(
(は、はい)
(まずはこの
(ピ、ピケですか?)
(夜の
(わ、分かりました)
(ピケに着いたら、お疲れでしょうがなるべく早く、
(船!?)
マリナレスさんが
(グラーシュ
(えーと、船でオーゼリアを目指す、と)
マリナレスさんが
それは、
(こちらを)
そう言って彼女はその短剣を俺に差し出してきた。
俺は驚いた。
(ええっ!?)
(お持ちください)
(でも……俺、
(こちらを持って、オーゼリアの「ヴァルクス」という家を
(ヴァ、ヴァルクス……)
(この短剣があれば通してもらえるはずです。そして)
彼女は、俺の眼をじっと
(そこであなたが知りたいと願うことの
(……マリナレスさん、あなたは――いや、あなたたちは何者なんですか? なぜ俺たちにこれほどまでによくしてくれるんですか?)
(今はそれにきちんと答える
(しかし……)
マリナレスさんは短剣を俺に押し付けながら言った。
(いずれ分かることですから。それよりピケに
(えっ? まさかリューグラムさんが関係してるんですか?)
(
(は、はい。分かりました)
(では、馬車に)
扉が閉まるが
マリナレスさんはしばらくこちらを見ていたが、じきに山風亭へと入っていった。
☆
馬車が走り出してしばらくして、ようやく
「一体何なんだろうな……」
「せんせー」
「ん?」
「あの人は、だいじょーぶ」
「あの人って、マリナレスさんのこと?」
瑠奈がこくりと
「うーん、まあ確かに助けてくれたしなあ……。悪人って感じもしなかったから、本当に味方だと思いたいところだね」
それにしても……。
たった二十四時間程度の
自分の身のことながら、信じられない程
しかも、あんまりよくないことばかりな気がする。
お
――疲れたし、眠い。
夕べはあんまり寝られなかったし、どうやら今日も馬車で夜を越さなければならないようだ。
瑠奈もいつの間にやら、小さな寝息を立てている。
窓の外は、ひたすら
馬車の
そして――俺たちの進む先も似たようなものなのかも知れない。
そんな中、
今はそれを信じて、足を踏み出すしかないのだろう。
――俺は目を
職員室が転移してきてからの毎日が、
いろんなことが、あった。
正直……悪くない日々だった。
そうして俺は、いつしかゆっくりと眠りに落ちるのだった。
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