第七章 第09話 鏡龍之介の先導
――グレゴリオ暦20XX年 四月七日 土曜日
――八乙女、療養五日目
―1―
◇
「お忙しいところ、ありがとうございます」
久しぶりの情報委員会。
一体、いつぶりだろう。
新しい班構成になってから、初めてじゃないかな。
私は班長じゃないから知らなかっただけかも知れないけれど。
班長じゃない私が出席してるのは……私のせいで班長の
私――
あの人の代わりが
「本日、久しぶりの情報委員会になりますが、私の方で報告したいことがありまして、それで集まってもらったわけです」
今、話しているのは
出席者は、私と鏡さんと、あとは
校長先生は、いない。
体調がちょっとよくなってきたと思ってたら、昨日辺りからまた寝込んでしまっている。
一体どうしたのだろうか。
黒瀬さんによれば、怪我は
何かの心労じゃないかって彼女は言うけど……どんな悩みならあそこまで
校長先生が体調を
と言うことは――もしかしたらだけど、私たちにも関係あることかも知れない。
知りたいような、知りたくないような……。
まあとにかくそんなわけで、普段の議長たる校長先生がいないから、鏡先生が司会みたいになっている。
教頭先生じゃない理由は、何だろう。
と言っても、今は鏡先生も教頭先生も班長なので、同格。
年齢的にも、どちらが主導したところでおかしいことは何もない。
「私からの報告の後で、各班の状況も
えーと……何か外交班で報告するようなこと、あったかな。
辞典作りの進み具合とか、エレディール共通語の習得状況とか、ぐらいか。
でも――一番大事なのは、八乙女さんが何度も言っていた通り、私たちが元の世界に戻るための方法を知ること。
ここの言葉を習得するのも、エレディールの社会を知るのも、全てはその目的の為。
そう言う意味での
有力者と友好的な関係を、ひとまず
「ではまず、開拓班としての報告です。以前教頭先生の方からお話のあった、東の森入り口付近に建築予定の水車小屋ですが」
水車小屋――ああ、班についての話し合いをした時に聞いたっけ。
恥ずかしながら、水車で何が出来るのかよく分からないけど、みんなの承認を得てるってことはきっと必要なものなのよね。
「計画通り、
……え?
「水車小屋で処理した木材を使用して、この学校周辺に長屋のようなものを建てる計画も、先方を
ちょっと待って?
どういうこと?
「さらに――」
「あ、あのっ!」
話を
「ええと、何か? 山吹さん」
「はい、あのっ……」
落ち着け。
落ち着け、私。
「今、鏡さんは先方と協議中、交渉中って
「ええ、言いました」
「えーとですね、まず水車小屋建築については私も聞いています。ですが、学校の周辺に長屋をという話は、
「あー……」
「そして、こちらの方がより重要です。鏡さん――と言うか、開拓班の
いや、私は絶対におかしなことを言っていない。
百歩
でも「
「困りましたな、これは」
鏡さんが、何か全然困ってない感じで言う。
「まず長屋建築の件についてですが、開拓班のメンバーはもちろん、ここにいる施設管理維持班の班長である教頭先生もご
「そうなんですか? 教頭先生」
私の問いに、教頭先生が
「ええ。開拓班とは今後、仕事の領分をはっきりさせる必要もあって、打ち合わせをしました」
「なるほど、分かりました。黒瀬さんと花園さんはご存知なんですか?」
と、私は他の班長に話を振る。
「いいえ、保健衛生班は聞いていません」
「食料物資班も聞いてないわねえ」
「私の感覚では、長屋建築って相当大きな案件だと思うんです。三分の二の人たちが知らないままで計画を進めるなんて、正直違和感を禁じ得ません」
私の発言に、鏡さんが
「いやあ確かに山吹さんの
あっさりと頭を下げる鏡さんに、ちょっとだけ
「あ、いえ……私もちょっときつい言い方になってしまいました。すみません。でも」
「これだけはどうしても、ちゃんとお聞きしないといけないんですが……開拓班は、ザハドの
「……」
「私の記憶ですと、水車小屋の建築協力を確約してくださったのはリューグラム
「もちろん、長屋に関してもリューグラム氏ご本人じゃあないが、その関係筋と
「その折衝の情報が、私たち外交班に流れてこないのは、一体どういう?」
私の言葉に、鏡さんが首を
「おかしいですな。どうも山吹さんまで伝わっとらんようですが、外交班なら
「えっ!?」
純一さん!?
聞いてない。
「班長の八乙女さんがおらんようでしたので。まあ確かに、声を掛けるのでしたら先に副班長のあなたにするべきでしたな」
「そ、そうでしたか……」
どういうこと?
確かに純一さんとは、ほとんど別で活動してたけど……。
開拓班に同行してたなんて……。
「山吹さんの言うこともよく分かります。ザハド
「は、はい?」
「ザハドに行って、改めて交渉を進めて欲しいんですよ。まだまだ詰めなければならないことはあるし、確かに久我さん以外の外交班のメンバーにも心得ておいてもらう方がいい。お一人じゃ分からんこともあるでしょうから、開拓班からも一人同行させましょう」
――開拓班から、同行?
まさか……。
「
「はあ……」
「それに」
鏡さんの眼が、何とも言えない光を帯びた気がする。
「ついでと言っては何でしょうが、班長さんを見舞う
「! ……お、お
「では決まりですな。連絡は私に任せておいてください。大人数は必要ないでしょうから、お二人で行って頂くことになりますが」
「わ、分かりました」
八乙女さんのことを出されて、私の頭の中は真っ白になってしまった。
そのせいで、会議がその後どう進んだのかよく覚えていない。
何かいいように話を進められてしまった感も。
そして、鏡さんが独自の連絡ルートを持っていることへの
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