第七章 第05話 黒瀬真白の懸念
――グレゴリオ暦20XX年 四月五日 木曜日
――八乙女、療養三日目
―1―
◇
注意深く持って、
瑠奈の大好物でもある。
彼女は現在外交班に所属しているので、食事に関わる仕事は彼女の本来の
しかし、以前は食料物資班だったこと、星祭り開催期間中も毎日彼女が運んでいたこともあって、引き続き瑠奈がその係のようになっている。
彼女一人の時もあれば、黒瀬たちによる簡単なバイタルチェックに付き
今日は休日である
しかし、朝霧の分だけは朝昼晩と、三食決まった時刻に提供されていた。
それはもちろん、朝霧の体調を
ここ数日は少し回復したようで、彼が校長室で簡単な仕事をしている姿が見られることもあった。
それでも基本的に、朝霧の定位置は保健室のベッドである。
食欲はあまりないようだが、それでも横になりながら昼食の到着を待っているであろう彼の元へ、瑠奈は食事を運んでいた。
大人にとっては
そして、ようやく保健室の扉に到着しようという時に、室内から声が響いてきた。
校長先生以外に、誰かいる、と瑠奈は思った。
とは言え、別に初めてのことでも珍しいことでもない。
いつものようにお盆を
「お願いですから話してくれませんかね」
「何をでしょうか」
「とぼけてらっしゃるのでしょうが、一応こちらにも
「何のでしょうか」
「なかなかの
「そう
「私は知ってるんですよ、校長先生。あなたが以前ザハドの宿屋に
「……」
「そこであなたが、何かしらの重要な情報を得たとも聞いていますな」
「では、鏡さんはどなたかからか、そのような
「私のことはよいのですよ、
「……あなた自身が?」
「まあそういうことです。これ以上しらばっくれる意味などないことが、ご理解いただけたでしょう」
「……」
「さあ、もうくだらん問答は時間の無駄です。話してください。そこであなたが聞いたことを」
「……仮に私が誰かと何か話したとして、その内容をあなたに伝えなければならない義務に心当たりがありませんね」
「強情な
「どうしたの? 瑠奈ちゃん」
――瑠奈の
彼女は室内の音声に集中するあまり、近づく足音に全く気付いていなかったのだ。
恐る恐る横を向くと、瑠奈の目の前には
「もしかして、中に誰かいるの?」
それこそ心臓が口から飛び出る程驚いた瑠奈だが、相手が黒瀬と知ると安心してこくこくと
黒瀬は
「ノックすれば大丈夫よ。ほら」
と言って、中の様子に構わず扉を軽く叩き、そのまま開けた。
そこにはベッドの上で身を起こしている
二人の表情は、
「失礼します。校長先生、お昼ご飯ですよ。のびちゃうといけないのでお話し中でも入らせていただきました」
ずかずかと入っていく黒瀬の後ろを、瑠奈はお盆を改めて持ち、黒瀬の陰に隠れながら
こんなに
「おお、もうそんな時間でしたか。これは気付かなくて失礼。では校長先生、お話はまた
「え、ええ。分かりました」
鏡はそう言って、ゆったりと部屋を出て行った。
保健室の空気が目に見えて
「お加減はどうですか? 校長先生」
「ええ、それほど悪くはないですよ」
「でも、いいと言うほどでもなさそうですね……」
「まあ……そうかも知れません」
黒瀬は鏡のことには一切触れようとせずに、会話を続ける
「校長先生の体調不良の原因は、前も言ったと思いますが、病気や怪我じゃありませんよね。何か心を
「ご心配おかけして、本当にすみません。まあ黒瀬さんには隠せないと思いますので話してしまいますが、ご
「それが食欲をそこまで
「ええ……まあ」
「私では解決のお力になれませんか?」
黒瀬の申し出に、朝霧は軽く
「お心
「そうですか……まあお世話の手間なんて大したことないんですから、気にしないでくださいね」
明るくそう言うと、黒瀬は瑠奈に話しかけた。
「瑠奈ちゃん、お盆をいつものところに置いてあげてね。校長先生、瑠奈ちゃんがお盆を運んでくれたんですけど、入り口で
「そうでしたか。瑠奈さんすみません。いつもありがとう」
瑠奈はこく、と小さく
「それじゃあ私たちは失礼しますので、ごゆっくり召し上がってください。何かありましたら、遠慮なく呼んでくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」
保健室を出ると、黒瀬は瑠奈に「ちょっとこっちに来て」と手を
軽く周囲を見回して、誰もいないことを確かめると黒瀬が口を開いた。
「瑠奈ちゃん、校長先生と鏡先生のお話、聞こえた?」
黒瀬の真剣な表情に、瑠奈は
「どんなお話していたか、分かった?」
少し考えるようにしてから、
黒瀬は瑠奈の頭を優しく
「もしかしたら、校長先生にご飯を届けるの、しばらく
瑠奈はきっぱりと首を横に振る。
「それは……これからも運びたいってこと?」
こくり、と力強い
「そう……」
どうしたものか――黒瀬はまだ
それは、班が
以前は割と
何か問題が起きているわけではないはず――それなのに、何故か
「わかった。でももし、何か困ったこととか、どうしたらいいのか分からないことなんかがあったら、
こくり。
瑠奈はにっこりと笑うと、そのままどこかへ
黒瀬の
どういうわけだろう。
彼女はその男に早く帰ってきて欲しいと、いつの
(八乙女さん……)
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