第七章 第03話 山吹葉澄の謝罪
――グレゴリオ暦20XX年 四月四日 水曜日
――八乙女、療養二日目
―3―
◇
「校長先生、申し訳ありませんでした」
私の前に立つと
「頭を上げてください、山吹さん。まずはそちらに腰かけて」
と声を掛けても、山吹さんは頭を下げたまま微動だにしない。
まあ彼女の心情を思えば、無理からぬことかも知れない。
しかしそれはそれとして、これでは話が進まない。
「お気持ちは
何度か
「先ほど壬生さんにも言いましたが、私はリーダーであっても一方的にあなた方を
とは言え、校長室で校長と教諭が
「それにですね、今回の
「そんなことないんです!」
一瞬、がばりと顔を上げ、
「私が――私が悪いんです……私が」
ほとんど
相当に責任を感じている様子だ。
「先に言っておきますね。私はあなたや
「はい……」
「もちろん相談があるというのならお話を聞くつもりはありますが、何か指示したり、禁じたりするようなことはあり得ません。そんな権利もないんですから」
「……」
「私が確かめたいのは一つだけです。壬生さんによれば、八乙女さんがあなたに何か
「違います!」
「むしろ、
「そうでしたか……」
それから彼女はぽつぽつと、一連の出来事について話してくれた。
どうやら事の
・五日目の自由行動の時当てつけるように子どもたちの保護者役を買って出たこと。
・それに同行してくれなかったことへ理不尽に
・途中で
・運よく出会えたくせに素直な態度を取ることが出来ず、逆に追い散らすような
・自分が追い払ったくせに、言われた通り去ってしまった八乙女さんを見て
・いつのまにか壬生さんが来ていて、問われるがままに事情をかいつまんで話したこと。
・話している内に涙が
・
・止める間もなく壬生さんが八乙女さんに殴りかかっていったこと。
・無抵抗の八乙女さんに馬乗りになって、ひたすら殴り続ける壬生さんに恐怖したこと。
・
と言うように、山吹さんの
しかしそれと同時に、何とも言えない
真剣に悩んでる彼女には悪いが、
それに、ほんの少しだが山吹さんの顔が明るくなった気がする。
相手が私のような者でも、
「なるほど、分かりました」
「……」
「確かに、山吹さんにも責任はありますね」
「! ――はい……」
「でも、ほんのちょっとですよ」
「……ほんの、ちょっと?」
「そうです。あとは男二人のせいですから。まず殴った壬生さんが圧倒的に悪い。あとはあなたをほったらかした八乙女さんが悪い」
「でもそれは……私がそうしてくれって」
「そこを
「? どういうことでしょうか……」
山吹さんが首を
ここからはあくまで私の
「私が八乙女さんを上司として見た場合、彼は非常に優秀なカウンセラーだと思うんです」
「カウンセラー、ですか」
「ええ。彼は子どもたちに寄り
「言われてみれば……そうかも知れません」
何か事例を思い出しているのだろうか。
山吹さんの視線が
「八乙女さんは子どもたちだけでなく、対人関係でもバランスを
「はあ……」
「そこから考えると、今回の八乙女さんの、その、あなたを置いて立ち去ったという行動にちょっと違和感を
「……」
「彼なら、山吹さんの横に並んで、ぽつぽつと言葉を
「はい……」
「それなのに、彼は敢えてあなたを置き去りにした。これをあなたはどう
「私には……分かりません。面倒になって投げ出したとも思えますし……」
「まあ、そういう気持ちもなかったとは言えないかも知れませんね」
「うう……」
おっと。
ここで泣かせるわけにはいかない。
「でもね、私はこう思うんですよ。あなたをもし同僚と見ているのなら、彼は
「……?」
「彼は
「……それって」
「あくまで私の考えですし、一歩進めると言ってもどのような
胸に手を当てたまま、山吹さんは沈黙した。
何か考え込んでいる様子。
それにしても……この年になって恋愛相談の
「校長先生」
「はい」
「あの、ありがとうございました。私、自分が今後どうすべきか、分かったような気がします」
「それはよかった。いい結果に結びつくといいですね」
「はい。それじゃ、これで失礼します」
「お時間取らせてすみませんでした」
「いえ、お話しできてよかったです」
ぺこりと一礼して、彼女は部屋を出て行った。
八乙女さんがここに戻るのは、いつ頃になるのだろうか。
(間に合えばいいのだが……)
ん?
一体何に間に合うといいと言うのだ?
私は自分の
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