第七章 第02話 壬生魁人の主張

   星暦アスタリア12511年 始まりの月トゥセルナ 第一旬カウ・サーヴ 第一日目イシガディーナ


   ――グレゴリオ暦20XX年 四月四日 水曜日

   ――八乙女、療養二日目


   ―2―


    ◇


「申し訳ありませんでした、校長先生」


 壬生みぶさんが深々ふかぶかと頭を下げる。


「頭を上げてください、壬生さん。難詰なんきつするためにお呼びしたんじゃないんですから」

「はい」

「そんなに硬くならないでください。ほら、座ってください」

「はい」


 椅子いすすすめられると、彼はゆっくりと腰かけた。

 ピンと姿勢が伸びている。


「事のあらましは大体うかがっています。私はあなたをさばく立場にありません。仲間としておたずねします。今後壬生さんがどうされていくつもりなのかを聞かせてください」


 少し考える様子を見せた後、壬生さんは口を開いた。


「今回のことで、いろんな方にご迷惑をおかけしてしまいました。それについては本当に申し訳なく思っています。今後のこととおっしゃいますが、これまで通りみんなで協力して日々の生活を送っていくと言う気持ちに変わりはありません」


「なるほど」


「その上で申し上げておくべきことがあります。私が先ほど述べた「みんな」の中に、八乙女やおとめ涼介りょうすけふくまれていません」


「それはまた……」


 思っていたよりも真正面から来たものだ。

 目の前の男の眼は、私をしっかりと見据みすえている。

 意志は固そうだ。


「あの男は、山吹さんに無体むたいを働きました。あまつさえ泣かせるようなことまで。私は許すつもりはありません」

「それは事実なのですか?」

「山吹さん本人から聞きました。あの男は、彼女が助けを求めていることを知っていて見捨てました。断じて容認できません」

「なるほど。あなたは無抵抗の八乙女さんを殴打おうだし続けたそうですが、それについては?」

「それは……」


 ぐっ、と言葉をまらせる。

 さて、どう出るか。


「それは……そのことについては、やり過ぎたとは思っています……」

「私が危惧きぐしていること、お分かりでしょうか?」

「危惧していること、ですか?」

「今後もし、我々の中で何らかの意見の相違そういがあったりした時、場合によってはあなたは激昂げっこうし、暴力をて相手に言うことを聞かせようとする可能性があるということですよ」

「まさか! そんなこと、私はするつもりは……」

「今回のことをまえても、そう言い切れますか?」

「うっ……」


 まあここで言い切れると言われたところで、実際のところはその時になってみなければ分からない。


 だからこそ、しっかりとくさびしておく必要があるのだ。


「あなたたち三人の関係性については、私が口をはさむところではありません。もちろん仲良くやってもらうにしたことはありませんが、人間ですから合う合わないも好き嫌いもあることでしょう」


「……はい」


「私が最優先するのは、二十三人の利益と安全です。そこには当然、あなたも八乙女さんも含まれています。必要があれば個人的な感情を一旦いったんたな上げして協力すること、決して暴力的な手段に頼らないこと、この二点を約束して頂きたい」


「……」


「どうですか? 壬生さん」


 十秒ほどたっぷりと間を置いた後、彼はしぼり出すような声で答えた。


「分かり、ました……」

「本当ですね?」

「はい……」


 ひとまずはこんなもんだろうか。


「それさえ聞ければ、これ以上私から言うことはありません。お忙しいところ、お時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした」


「いえ……こちらこそ、ありがとうございました」


 そう言って、悄然しょうぜんと部屋を出て行く。


 あの様子なら大丈夫だと、信じたい。

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