第六章 第35話 星祭り 最終日 ―6―

   星祭りアステロマ 最終日クォラディーナ ―6―


 最終日のための準備は終わり、あとは純粋に祭りを楽しむだけとなった、学校勢のうち山風さんぷう亭に宿泊している面々。


 それぞれが、それぞれの思惑おもわくでこれからの行動を決めた。


    ◇


 そういうわけで、あたし――御門みかど芽衣めい――は今、リィナたちと広場に来てる。


 来る途中もそうだけど、町のあっちこっちに屋台が出てるし、大道芸人の人たちがいろんなパフォーマンスをしてる。


 大道芸はいいね。


 言葉が分かんなくても、普通に楽しめる。

 ジャグリングみたいなのとか、パントマイムみたいなのとか。


 よく出来た彫像ちょうぞうみたいなのがあって、近づいたらいきなり動かれてびっくりしたし。

 リィナと愉快ゆかいな仲間たちもきゃいきゃいしてる。


 いつものシーラに、おっとりした女の子がもう一人……ルーチェ。

 ディルとフェルっていう、なんか生意気な感じの男の子二人。


 リィナも含めて、みんな変な恰好かっこうをしてる。


 昔のギリシャ――ローマ、だっけ?

 身体にシーツを巻いてるみたいな服。


 いつもだったらあたしたちも結構目立ちがちな服装だけど、今日はそうでもないかも。

 あたしは制服だし――聖斗せいとは、Tシャツにショーパンだから。


 ――あたしが聖斗と絶交ぜっこうして、もう結構つ。


 こいつはあたしのこと「御門さん」とか厭味いやみったらしく呼ぶもんだから、お返しに「天方君」て言ってやろうと思ってたけど、なんか無駄にめんどくさくなってめた。


 そもそも、話す機会がない。


 いや、いいんだけどね。

 別にもう、どーでもいい。

 お好きにどーぞって思ってる。


「めい、たべる? マトラ」


 リィナが話しかけてきた。

 マトラって何だっけ。


 ……ああ、屋台のことかな。


 ゆびさしてるし。


ノインいいえ、リィナ。リマネーレ待つよ、えーと、ゲーゼ

ダット了解、わかった」


 正直お腹ぺこぺこだけど、せっかくここまで頑張ったんだから、無料ただになる夜まで待たなきゃ損だよね。


 シーラやルーチェもうんうん言ってる。


 聖斗はちょっと離れたとこで、ディルたちと何やら熱心に話してる。


 あいつは魔法ギームの練習を一切いっさいめちゃったらしい。

 で、その分のつもりなのか、ここの言葉の勉強を異常に頑張ってる。


 きっと上達するいい機会だと思ってんのかも。

 しきりに「ヴォッド?」って聞こえるからね。


 要するに、聖斗とのことは吹っ切れつつあるってこと。


 こうなったそもそもの原因がいまだに分かんないままってのが引っ掛かるけど、それももうだんだんどうでもよくなってきてるし。


 それでも……何だかこのお祭りを、心の底から楽しめてない自分がいる。


 山吹せんせーも、楽しそうに見て回ってるように見えるけど、どうだろうね。

 まああたしの場合、聖斗とのことも無関係じゃないけど、それよりも――


「めい」

「ん? 何?」

「あさひ、と、みはーね、と、るぅな。いる、ない?」

「!」


 ……この子はもう。

 何てタイミングでぶっこんでくんのよ……。


「あ、えーとね、その、朝陽あさひは、えーと、セラウィス・ユーレジア代官屋敷

「ああ、リヴィデーラなるほど

「瑠奈はね、えーと、学校。イザススコラート私たちの学校

「ヤァ。みはーね、どこ?」

「み、澪羽みはねは、その……」

「?」

「えっと、あのね、み、澪羽は……」


 リィナがあたしの眼をじっとのぞき込んできた。

 

「……タナジャーグ?」

「ジャ、ジャーグ? ジャーグって何?」

「ジャーグは」


 そう言って、リィナはあたしをぽかぽかたた真似まねをした。

 もしかしてケンカのことかな。


「ジャーグ、これ。めい、ジャーグ、する、した? みはーね」

「うん……」


 あたしはすっと、正直に答えた。


リナジャーグケンカしたよシエラ澪羽みはねと。ジャーグは、ケンカね」

「ジャーグ、けんか・・・。わかった」


 納得したようにリィナはうなずいたけど、今度はあたしをにらんできた。


「めい」

「な、何?」

「なぜ、あなたたち、けんか、する、か?」

「ええ?」


 あたし、もしかして怒られてんの?

 五つも年下の子に。


「めい、けんか、せーと、した、したね?」

「!」

「りょーすけも、けんか、した。はずみ」

「……」

「なぜ、けんか、みんな、する?」


 リィナが悲しそうに目をせた。


 てか、八乙女せんせーと山吹せんせーのこととか、あたしと聖斗とのことまで気付いてんのに、ちょっと驚いた。


 最近はこの子ともよく話すようになったし、リィナの気持ちも分からなくもないから、ちょっとだけ胸が痛い感じになったけど……。


 でも――あたしにだって事情がある。


 それに今はそれを事細ことこまかく説明する時間も、その気もない。

 あと言語能力も。


「いろいろあるのよ。いろいろ」

 せいぜいこう返すのが精一杯だった。


 あたしの言ったことが分かったのかどうか。

 リィナはそれ以上追求してこようとはしなかった。

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