第六章 第34話 星祭り 最終日 ―5―

   星祭りアステロマ 最終日クォラディーナ ―5―


 星祭り最終日の準備として、俺たちはリィナの指示のもと、まずは小麦粉でこねこねと団子と作った。


 出来た団子で特製の魔石ギムピードつつみ、それらを所定の場所に設置した。


 さて、次は――


    ◇


 タスクそのは、三時鐘さんじしょう(午前十時)で始まる仮装かそう行列だ。


 この頃から広場や町のあちこちに屋台が出始め、大道芸だいどうげいのようなものもそこかしこでおこなわれるらしい。

 団子だんごかざりと言い、ようやく祭りらしくなってきたって感じがする。


 仮装行列は、星祭りにちなむ神様たちや、古代の王、英雄とされている人たちにふんして好き勝手に歩き回ったり、隊列をんでり歩いたりするものだそう。


 まあ俺たちは流石に仮装の準備まではしてないので、見て楽しむ側に回るわけだが……どうしたものか。


 まず、俺たち山風さんぷうぐみ五人の間に流れる、この微妙な空気だ。


 俺を含む大人三人についてはまあ一時的なものだと思うけど、芽衣めい天方あまかた君は一緒に行動したがらないだろう。


 ただ、リィナの友達がここに集まってくれるらしいから、上手いことそっちに混ざりこんでくれれば多少は安心なんだよな。


 ……仕方ない、切り出すか。


「えーっと、一応このあとのことを確認しておきます。かねじゃなくてスマホの時刻で言いますね。午前十時からは仮装行列です。屋台も出てますが、有料です。午後三時頃になると、さっき飾った小麦団子が光り始めるそうです」


「へー、綺麗そうだね」


 芽衣が感心したように言う。


「さっき飾った時点で、うっすらと光ってるらしいよ。魔素ギムが流れた証拠だって」

「ほほー、ちょっと見てみますかね」


 と、純一さん。


 現段階だと、白い小麦団子はあちこちで目立ってるけど、光っているかどうかはちょっと分からない。


「で、更に午後六時頃には、光ったまま空に浮上していきます。それと同時にほのお行進こうしんというのが始まるらしいですよ」

「炎の行進って、何ですか?」


 珍しく天方君が質問してきた。


「リィナの説明によると、各戸かくこに配られた松明たいまつかかげながら行進するみたいだね。仮装したままらしいけど、静かでおごそかな雰囲気だって」

「分かりました」


 俺は説明を続ける。


「行進は、一時間ほどで元の場所に戻ってくるようなルートだそうです。で、午後七時半になると鐘が二十一回鳴らされます。鐘が鳴っている間は、誰もがひざまずいて神様に祈りをささげます」


「あたしたちもやるの?」


「まあ強制されることはないかも知れないけど、そのあいだぼっってるのも何だから、やってもいいんじゃない? 俺はやるつもりだよ」


「ふーん。でも神様に祈るって、何を?」


(リィナ)

(わ! びっくりした……なに?)

(鐘が二十一回鳴ってる時って、神様に何を祈るの?)

(え……ああ、たしか、いちばんえらいかみさまが、またきてくださいますように、だったとおもう)

(一番偉い神様? だれ?)

(なまえはわかんないけど……)

(ミラド様じゃないの?)

(ちがうとおもう)

(そうなんだ、分かった。ありがとう)


「今リィナに確かめたら、何か一番偉い神様にもう一回お出ましください、ってお願いする感じらしい」

「何それ」

「俺にもよく分からない。でも、こう言っちゃあれだけど、祈りの内容は何でもいいんじゃないかな」


 いいよな?

 ばちが当たったりしないよな?


「で、その鐘が鳴り終わった瞬間から、フリータイムの始まりです」

「フリータイム?」


 純一さんが聞きとがめる。


「何がフリーに?」

「えっとですね、屋台と飲食店で出される飲食物全てが無料フリーになるそうですよ。領主様のいきはからいってことで」

「マジで?」

「はえー」


 なかなかに豪気ごうきな領主様だな、リューグラムきょうは。

 ザハドの町民が何人いるか知らないけど、百人や二百人じゃないだろうに。


「最後に午後九時頃。ここでも何かあるみたいですけど、リィナは教えてくれませんでした。見てのお楽しみだそうです」


「ほう」


「そのあとは、子どもも大人も皆さん夜通よどおし飲んで食べてさわいで過ごすらしいですね。普段は午後十時以降はかねは鳴らさないんですが、今日だけは朝まで鳴らすそうです。十時鐘じゅうじしょうとか十一時鐘じゅういちじしょうとか、普段聞けない鐘が聞けるという」


「オールってこと?」

「まあ、そうだね」


 ザハドで星祭りでオールとか、芽衣の発想が何か可笑おかしい。

 そしてここまで山吹先生が一言もしゃべってない。

 怖い。


「明日は町中がお休み状態になるそうです。俺たちが学校に帰るのは午後の予定ですから、それまでどう過ごすかは各自にまかせます。ただ、芽衣と天方君は、夜更よふかししたいのなら誰か大人と一緒で。そうじゃないなら午後十時には宿に戻ること。窮屈きゅうくつなことを言って悪いけど、これはゆずれないから」


「分かりました」

「別に窮屈じゃないよ。当たり前だよ」


 この辺の感覚がちゃんとしてるのは、二人とも偉い。

 リィナたちも、九時鐘くじしょう(午後十時)を目処めどに解散するらしい。


「ってことで、このあとの行動は基本的に自由です。一応どうするか、ここで申告しんこくしていってください」


「悪いけど、僕は一人で楽しませてもらいます」

 と、純一さん。


「あたしはリィナたちと一緒に遊ぶよ」

 これは芽衣。


「僕も……リィナたちと行きます」


 天方君の言葉に芽衣のまゆがぴくりと動いた。

 が、特に何も言わず。

 俺たち大人三人の誰かにくっついてられるより、子ども同士の方がいいんだろう。


「私は――」

 山吹先生はほんの一瞬だけ俺を見て、


「――私は子どもたちに付いていきます。保護者として」


 芽衣が「いいの?」とでも言いたげな顔で俺を見る。


 天方君の表情に特に変化はない。


 まあ……山吹先生ならこう言うだろうとは思ってた。

 例え、今みたいに空気が悪くなっていなくても。


「分かりました。何かあったら山風さんぷう亭か、代官屋敷に行ってください。俺は適当にぶらついていますが、コンタクトが取りやすいように、基本的に山風亭ここと広場を行ったり来たりしてます」


 全員がうなずく。


「では、解散!」

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