第六章 第32話 星祭り 最終日 ―3―

   星祭りアステロマ 最終日クォラディーナ ―3―


 星祭りの第四日目のことを、俺は思い出していた。


 山吹やまぶき先生がぷりぷりしている理由。


 それは恐らくだけど、上野原うえのはらさんを代官屋敷へ送って行くために山風亭を出ようとした正にその瞬間、上野原さんがすっと俺の右腕を取ったことにあるんじゃないだろうか……。


 店を出る直前だったから、きっと見られてはいるはず。


 ――そもそも、そのことで俺が足をすくませたり、背中に圧を感じて振り返られなくなる必要なんてないと思うんだよな。


 だってそうだろ?


 俺としちゃ、悪いこととかやましいこととか、全くしてはいないだからさ。


 何か自意識過剰みたいなのは自分でもホントなんだけど、多分間違ってないだろうから困る。


    ◇


 とまあ、こんなことがあったのだ。


 前にも言ったように、俺は鈍感どんかん系ではない。

 難聴なんちょう系でもない。


 そもそも鈍感なのことを売りにするような教師は、アホだと思う。

 だから――山吹先生がつんつんしている理由は、何となく分かる。


 しかしなあ……分かるからって、じゃあどうすりゃいいんだ?


 腕を組まれてしまってスイマセンでしたとでも言えばいいのか?

 マヌケ過ぎるだろ。


 という訳で、彼女について今、俺が出来ることはなし!

 申し訳ないが、ほっとこうと思う。

 しゃーなしだわ。


 それにもう一人――純一じゅんいちさん――のこともある。


 リィナから相談があった星祭り二日目、その夜に彼の部屋をおとずれた。


 あれこれ考えすぎてなかば面倒になっていた俺は、山風亭の主人たちから相談を受けたことをそのまま伝えた。


 その場では心配かけてすいませんと言ってくれたので、俺はほっとして部屋を出たのだ。


 で、それ以降、何となくよそよそしい。

 挨拶は一応返してくれるし、無視されるとかそういうのもない。

 ただ、ちょっとけられているって感じだ。


 恐らくだけど、純一さん自身、どうしたらいいのか分からないでいるのかも知れない。


 俺もいちいち追いすがって「純一さん、どうしたんですか!?」「純一さん、元気出しましょう!」とからんことを言う必要もないと思ってる。


 と言うことで、こっちもしばらく放置だな。


 あとは、変にこじれないことを祈るばかりだ。

 神様ミラド様、よろしく頼んます。


「りょーすけ! きく! わたし」

「ん? おおう、すまんすまん」

「もう!」


(なにぼーっとしてるの?)

(いや、分かってるだろ? この二人のことを考えてたんだって)

(じゅんいちと、はずみ?)

(そう)

(ふーん……まあいいけど。じゃあさっきのこと、たのんだよ?)

(へ?)

(きいてなかったの!?)

(いやいや、あれ……うん、ごめん。聞いてなかった)

(まったくもう……きょうのよていをみんなにつたえてっていったの。わたしがせつめいするの、ちょっとむずかしそうだから)

(そうか、分かった)


 何か最近、話を聞いてなくて怒られるみたいなこと、多くない?

 俺、こんなキャラだったかな?


 ……まあいい。


 仕事しよ。


 俺はみんなをぐるりと見回して言った。


「それじゃあ、リィナから聞いた今日の予定を俺から説明します。昨日まで割とスカスカだった分、今日はかなり盛り沢山だくさんみたいだから、よろしくお願いします」

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