第六章 第24話 星祭り 第二日目 ―4―

   星祭りアステロマ 第二日目ウスガディーナ ―4―


    ◇


 リィナから、純一さんのことについては大体聞き終えた。

 とりあえず、彼と話してみると言うありきたりな結論に落ち着いてしまったが、まあよし。


 それより、リィナが何気なく言った言葉に俺は耳を疑った。


 奥さんが……何だって?


    ☆


 一人とは、限らない?


 もしかして、ここエレディール重婚じゅうこんありなのか?


(リィナ)

(なに?)

(エレディールってさ、結婚モニアム相手は一人じゃないの?)

(えぇ?)

(いや……だからさ、奥さんが一人とは限らないってのは、二人とか三人いてもいいってことなのかって)

(うん、そうだよ)


 マジか。


 一夫多妻いっぷたさい制か、一妻多夫いっさいたふ制か。


 まさか多夫多妻たふたさい制じゃないだろうな。


(それって逆に、一人の女の人が複数の男の人と結婚してもいいってこと?)

(そうだと思うよ)


 一妻多夫いっさいたふ制もありなのか……。


(りょーすけのところは、ちがうの?)

(うん。俺の国だと結婚できる相手は一人だけなんだよ。そう決められてるんだ)

(へえ。でも、ここもふつうはそうだよ)

(そうって、相手が一人ってこと?)

(うん。わたしもよくわからないけど、きんしされていないだけでふつうはひとりだね。うちもそうだし、シーラのところも)

(なるほど)


 まあ複数の配偶者はいぐうしゃかかえるとなれば、それなりの財力や甲斐性かいしょうも必要だろうからな。


 一般的には事実上の一夫一妻いっぷいっさい制ってことなんだろう。


(とにかくペルさんとグリッドさんには、俺から話をするって伝えておいて欲しい。心配するような事態じたいにはならないように頑張ってみるからって)

(わかった)

(あと、困ったことがあったら遠慮えんりょなく言って欲しいとも伝えて。俺たちはリューグラムきょうの客かも知れないけど、それとこれとは話が別だからさ)

(うん。ありがとうマロース、りょーすけ)


 ぐぅ~~。


(!)

(おっと、すまん。昨日も今日も昼飯だけだからさ、腹減っちゃって……)

(そうだよね、でもあしたはもっとたいへんだよ?)

(え? どういうこと?)


 おいおい、まさか……。


(……いちにちじゅう、ごはんなしなの)

(うっそだろ、おい……)

(うそじゃないよ。おまけにいえのそとにでたらいけないの)

(ええっ?)

(あかりもさいていげんだけつけて、あさからずっとおいのりフラジートをするの)

(お祈りって、何を?)

かみさまイナスはやくおもどりくださいヴェーニャディエートルシルテーム、って)

(……どういうことか、ちょっと説明してもらおうか?)


 ――あくまで俺の意訳いやくだけど、リィナの説明によると大まかにこういうことらしい。

 

 むかしむかし、要するに神様の内輪揉うちわもめと言うか、一部の神様が主神しゅしん格の神様に対して叛乱はんらんを起こしたと。


 それが一日目。


 で、主神様たちは一応勝ったは勝ったけど大怪我をって、傷を治すためにどっかに行ってしまったんだって。


 それが今日、二日目。


 パンはともかく、あの赤いスープって何かの隠喩メタファーだったとか……?


 それで明日は、主神様がいなくなっちゃってこの世が闇におおわれてしまって、早く戻ってきてくださいとひたすらお祈りをする日なんだそうな。


 寝食しんしょくを忘れてと言うか、メシ食ってるひまがあったら祈れって感じか。


 ……何か、星祭りって言葉から受けるイメージと大分違うんだよなあ。


 クリスマス時期のイルミネーションみたいなのを想像してたんだけどさ。


 まあでも、断食だんじきじみたことをするのは、どっかの一神教いっしんきょうでもあったよな。

 あれは、日没後は食べていいみたいだったけど。


 もちろんこっちでも、病気の人とか妊婦にんぷさんとかは免除されているらしい。

 代官屋敷にいる教頭先生たちも、多分普通に食事を取ってるはずだ。


 最低限の照明なんて防犯上ちょっとまずそうなんだけど、領内の治安維持をつかさどってる警備隊ってのが巡回しているらしいし、こういう時に荒稼ぎしようみたいな不届き者はそもそもほとんどいないということだ。


 思いのほか、治安がいいと言うことか。


 ファンタジー小説なんかだと、大抵たいていの町や都市は城壁じょうへきで囲まれている、いわゆる城塞じょうさい都市が多いけど、ザハドや隣町のイストークは違う。


 日本の市町しまちみたいにさかいがないのだ。


 俺はこの二つの町しか知らないから何とも言えないけど、他の場所もそうだと言うのなら、エレディールは城壁なんて必要のない世界なのかも知れないな。


(じゃあ、四日目とか五日目はどういう風になってるんだ?)

(それは……ないしょイロス!)

(えー、また?)

(そのほうがおもしろいでしょ?)


 面白くないです。


 少なくとも今のところ、面白かったのは昨日の水掛けくらい。

 あとは正直、腹は減るし退屈たいくつだしでお世辞せじにも楽しいとは言えない。


 きっとこの状態を三日か四日間えて、最終日にどかーんって感じなんだろうけど……大丈夫だよな?


 そうじゃなかったら、希望が全くないじゃんか。


(なあ、この期間ってこっそり何か食べたりするようなやつはいないの?)

(ん-と……いるとおもうよ)

(いるのか、やっぱり)

(いえのなかことまではわからないしね。うちみたいなおみせは、さすがにおもてだってしょくじはだせないけど)

(そうだよな)


 俺としては、曲がりなりにも昨日と今日をえたんだから、ルールに従ってクソ真面目に過ごそうとは思う。


 最終日に何もなかったら本気で泣きそうだけど、きっとあることをいのろう。


 いや、神様のお帰りを祈るんだっけ?


 それにしても、堕天だてん系の神話か……。


 ぼう一神いっしん教の物語があまりに有名なせいか、既視きし感がぬぐえない。

 ある程度史実しじつが元になっているのか、それとも完全な創作フィクションなのか。


 個人的にはわりと興味のきない話だけど。


 とりあえずは、後で純一さんの部屋を尋ねてみよう。


 明日一日いちにち、外に出ちゃいけないってことになると、恐らくセリカさんは来ない。


 教えておいた方がいいだろ。

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