第六章 第22話 星祭り 第二日目 ―2―

   星祭りアステロマ 第二日目ウスガディーナ ―2―


    ◇


 星祭り、今日は二日目。

 今は……何時ごろだろうか。


 スマホはベッドサイドテーブルに置いてあるけど、スリープ状態なので何もうつっていない。

 窓の外は、既に暗い。


 つい壁に時計を探してしまう。

 学校だと、まだ普通に壁時計が動いてるからね。

 電池の備蓄もあるから、かねを目安に動く生活には当分慣れそうにない。


 ちなみにだけど、こちらの世界にも板ガラスは存在するようだ。


 今はシンプルなカーテンに隠されているが、目の前の窓にまっているのも、そう。

 ただし日本でごく当たり前にあったものと比べると、恐らく質でおとる。


 今は夜だから分からないけれど、透過とうかして見える景色が少しゆがんでいるし、その歪み方も一様いちようじゃない。


 ここみたいな市井しせいの建物に普通に使われているところを見ると、ある程度普及するほどには産業として成立しているんだろう。


 きっと、製法が違うんだと思う。

 フロート法なんかじゃなくて、型枠かたわくに流し込むような原始的な方法とかなんじゃないかな。


 元の世界と同じように見えて、こまかなところで差異さいがある。

 ガラスだけじゃなくて、いろんな場面で感じることだ。


(りょーすけ)


 その原因は、俺の推測するところでは「電気」と「魔法ギーム」だ。


 こっちでは電気はエネルギーとして認識されていないけど、魔法がある。

 日本には魔法はないけど、電気があらゆる分野に浸透しんとうしていて、利用されている。


 俺の感じる差異は、電気と魔法で出来ることの違いからきているように思える。


(りょーすけ?)


 ただし、俺はまだ魔法ギームで出来ることを、多分ほんの少ししか知らない。


 一体どれほどのポテンシャルを秘めているのか……自分が使える以上、俺は知りたいと思っている。


 誰から、もしくはどこで教わればいいのか――


(りょーすけってば!)

(お、おう、すまん)


 ……何か、最近こういうやりとりが多くないか? 俺。


 ここは山風さんぷう亭。


 星祭りのあいだ滞在たいざいする予定の俺の部屋。

 となりには、山風亭ここの娘、リィナ。


 この部屋に椅子いすはないので、俺たちはベッドに腰かけている。


 もしかしたら、第三者視点的にヤバい構図こうずなのかも知れないけど、当然のことながらうしろめたいことなど何もない。


 むしろすぐそんな風にかんぐるほうがゲスだと言いたい。

 ただ……もし本当に今、第三者が俺たちを見ているとしたら、多少は怪訝けげんに思うだろう。


 何故なぜなら、俺たちはベッドに隣り合って座り、お互いに首を少し相手の方へ向けたまま、さっきからずっと無言でいるように見えるだろうからだ。


(えーと、で、何だっけ?)

(もう! じゅにちのことだってば!)

(じゅんいち、な。言いにくいかも知れないけど)


 それはもちろん、精神感応テレパシーで話しているからだ。

 エレディール共通語では「ギオリアラ」と言うんだそうだ。


 それと、この国の言葉は「ノアロ・ヴェルディス共通語」と呼んでいるらしい。

 だから俺たちが呼ぶなら、「エレディール共通語・・・」とするのが正しいだろう。


 学校のメンバーの中には、エレディール語って言っている人もいるけど……まあこだわってるのは俺ぐらいだろうから、いちいち訂正はしないけどさ。


(わかった。じゅんいち・・・・・、ね。わかったから、なんとかしてもらえる?)

(うーん……何とかって言っても、どうすればいいのかなあ……)


 かなり流暢りゅうちょうに、しかも気安い感じで会話をしているように見えるだろうけど、実際に音声がひびいてくるわけじゃない。


 そう聞こえているように感じる・・・のだ。

 上手くたとえられないのが何とももどかしい。


(そこはりょーすけがうまくかんがえてよ)

(難しいこと言うなあ)

(ダーロスでしょ?)

(ダーロスって、何?)

(りょーすけはダーロス。わたしはジダル)

(……大人おとなってことか?)

(そっちだとおとな・・・、っていうのね)

(そう。ならジダルは子ども、だ)

(わたしはこども・・・……うん、わかった)


 何だか、完全に対等な感じでしゃべってるな……。

 まあ年だけ見れば、俺が担任してる子たちと同い年なんだから、ありっちゃありか。

 特別あらたまった場じゃなければ、教え子たちは敬語なんか使わない。


 ……ん?


 よく考えたら、今日は俺たちのこよみで三月三十一日だ。

 明日から新しい年度が始まる――ってことは、あの子たちは六年生になるのか。


(校舎があんな風になっちまったけど、みんな無事に進級・卒業できたのかな……)

(え、なに? どういうこと?)

(あっと……すまん)


 うっかり考えてることを載せちまった・・・・・・……。


 これって鍛錬たんれんで無意識でも上手く区別できるようになるんだろうか。


(いや……大人とか子どもなんて言ってたら、こっちに来る前のことを思い出しちゃったよ)

(くるまえって……にほんってところのはなし?)

(そう。だけどまあ、そのことはいいよ。で、純一さんのことか)

(うん。でもにほんのこともきょうみあるから、おしえて?)

(今度な)


 実際、今はそれどころじゃない。

 純一さんの話だ。


 事の発端ほったんは、今日のお昼ご飯が終わったあとのことらしい。

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