第六章 第13話 聖斗の苦悩
「くそっ、くそっ……何でだよ、何で出来ねえんだ……」
本日何十回目かの
時刻は午後九時過ぎ。
夕飯の片付けもとっくに終わり、ほとんどの者がめいめい好きな場所で
聖斗は三階の六年二組の教室にいた。
LEDランタンは持っているが、
聖斗が
彼は、いわゆる「剣と魔法」の世界観が大好きだった。
小説やマンガは
オリジナルの魔法やモンスターを
大好きな自分の趣味に
友達付き合いも決して
休み時間は多くの仲間とドッヂボールやケイドロ――警察と泥棒、首都圏ではドロケイ呼びらしい――を楽しみ、時にはバカ話に花を咲かせ、女子とも
実際のところは、彼の好きな小説のキャラクターに
そうした積み重ねが、ほぼ満場一致での児童会会長という一つの結果につながっている。
現実の児童会は、マンガに出てくる生徒会のような
しかし、役員として選ばれるのには
だからこそ、そこに込められた思いは
そんな彼が――地球かどうかはまだ
しかも、彼の親友たる
異常とも見える熱意を
「
更に。
今日の夕方、東の森から帰ってきて、一人になってから何度もフラッシュバックする、あの場面。
(芽衣
(こんなに頑張ってる俺じゃなくて、ほいほい魔法が使えるあいつを)
芽衣は朝陽を褒めたあと、聖斗のことも偉いと言ってはいた。
しかし聖斗には、その物言いはただ、ついでの付け足しにしか聞こえなかった。
「何でだよ……何であいつばっか……」
別に褒めてもらいたくて練習していたわけじゃなかった。
それでも……
自分勝手な言い草かも知れないけど……
「……聖斗?」
「……っ!!」
突然声を掛けられて、文字通り聖斗は一瞬だが、体育座りの
「聖斗? 僕だよ。入るよ?」
手に持ったランタンと共に、朝陽が静かに教室に入ってきた。
朝陽はゆっくりと聖斗に近づくと床にランタンを置き、彼の隣に同じように座った。
「やっぱりここにいたんだね」
聖斗が一人で練習する時、
(何で来たんだ、朝陽……)
聖斗は自分が今、朝陽に
そのままぶつけるべきものではないことも、きちんと
しかし――
(今、お前に来られたら……)
「星祭り、楽しみだよね」
「……ぁぁ」
ここが
今の自分の顔を、
「さっきさ、保健の先生のとこに行ってきたんだ」
「……」
「ほら、あの先生、
少しでも聖斗の参考になれば、と願った末の朝陽の行動だった。
その思いが、聖斗に伝わったかどうか。
「でも、やっぱり八乙女先生が言ってたことを、ただ繰り返してただけなんだって。ってことはさ、聖斗にも可能性があるってことじゃん」
(ぐっ……)
聖斗は自分の胸の辺りに、得体の知れない何かが
聖斗はこれ以上はまずいと感じて、この場を去ろうと腰を浮かせた。
(頼むから……もうしゃべらないでく――)
「芽衣さんもさー、分かってないよね。頑張ってるのは僕じゃなくて、聖斗なのに」
音のない音と共に、ああ……と聖斗は思った。
友情か、
理性の最後の
「ところで聖斗はまだ練習、続けるの? それなら僕も協力す――」
「
「え……?」
(え? ……今僕、黙れって言われた……?)
朝陽は自分の耳を疑った。
「黙れっつったんだよ。誰がそんなこと頼んだよ?」
「え、いや……だって、ほら」
「ひとつ言っとくわ」
聖斗はゆらりと立ち上がった。
その無機質な顔を見て、朝陽は
「
「ど、どういう……」
「あの女にも、そう伝えておけよ」
「え、ええ?」
言い捨てると、聖斗は明かりの消えているランタンを手に取った。
そしてそのまま振り返ることなく、暗い廊下に消えていった。
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