第六章 第09話 精神感応
対話を続けるうちに、芽衣を傷つけた原因に思い至る
彼女の瞳に涙が
☆
――それから五分ほど、澪羽は静かに泣き続けた。
ふんわりと何やらいい香りが
そして、
「私……どうしたら……」
「うーん……とりあえずほっといたら?」
「そんな……!」
「だって、ほっとけって言ってるんでしょ?」
「そうですけど……」
あからさまに不満そうだ。
まあ早く仲直りしたいって気持ちは分からなくもない。
「別に駆け引きを
「……」
「多分芽衣にも、頭を冷やすっていうか、考える時間が必要なんじゃないか?」
「でも私、
再び
「それなら、月並みだけど手紙を書いたらどう?」
「……手紙、ですか? でも……何を書けば……」
「今澪羽が思ってること、そのまんまでいいじゃんか。謝りたいんだろ?」
「はい……」
「で、あいつがいない
「……」
出来れば直接
手紙ならありふれた手段とは言え、澪羽も気持ちを整理しながら書けるし、緊張して言いたいことが言えなかったなんて
芽衣にしても、謝罪を無理やり聞かされるんじゃなくて、読む気になった時に読めるだろうしさ。
「……分かりました。手紙、書いてみます」
「それがいいと思う。返事を待ってる間がちょっと
「はい……そうですね」
待つ身を想像したのか、澪羽の肩がぶるっと
「先生……ありがとうございました」
「ん? いいさ、気にすんなよ。大体俺、生徒指導主任だしな」
「ふふっ……それに、さっきちょっと嬉しかったんです」
「さっきって……何が?」
タオルで目をごしごし
「私のこと、静かに咲く花みたいって言いました」
「ああ……言ったな。気分を
「んーん」
首を横に振る澪羽。
「何だか私にぴったり、って思ったんです。花に例えてくれたことも、嬉しかった」
「そ、そうか。そりゃまあ……よかった」
「……」
「……」
んー、何だこの沈黙は。
どうしてか言葉が出てこない。
すると、澪羽が立ち上がって一礼した。
「それじゃあ私、部屋に戻りますね」
「あ、ああ。そうだな……ってちょっと待った!」
「え?」
ドアに向かおうとする澪羽を
「きりのいい感じで終わりそうなところをすまん。もう一つ聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと……ですか?」
「悪いけど、もう一回座ってもらっていいか?」
「……はい」
不思議そうな顔で、澪羽はもう一度ソファに腰を沈めた。
危うく大事なことを確かめそびれるところだった。
「さっきの話の中で、
「
「そう、それだ」
今まで確証もないし、気のせいかとも思ったせいで誰にも話せなかったけど、俺にはこの件についていくつか思い当たる
――と言うことで、確認した。
で、
彼女の話によれば、こういうことだ。
・精神感応は、話したい相手に「ノック」をすることで始まる。
・ノックを受け入れた時だけ、互いに
・「会話」を終了する時は、
・精神感応は、恐らく
・リィナたちと「会話」した時と、瑠奈との時では伝わる情報量が全く違う。
・エレディールでは、他人がいる場所で精神感応で会話することをタブー視している。
……正直、頭痛の原因が一つ増えたように思える。
上手に使えば、この上なく便利な力であることはまず明白。
特に、エレディールの人たちと意思疎通をする上で、大きな助けとなることは確かだ。
辞典作りにも。
ただ、どうやら言語習得そのものは
リィナたちと「会話」した時と、瑠奈と話した時の情報量の違いは、恐らくだけど言語理解の差ゆえだろう。
相手の言語をより理解している方が、精神感応で伝えられる情報量が多いものと考えられる。
さっきも実際に、澪羽と精神感応で「会話」を試してみた。
なるほど、確かに相手の伝えたいことが、絵のような文字のような不思議なイメージで流れ込んでくるのが分かった。
相手の思考や感情を無理に
結果としては、俺も澪羽も出来なかった……と言うことは、これは要するに電話で話すようなものってことだ。
つまり、いつの間にか考えてることを読み取られる心配はないもの、と言うことになるが。
――問題は、それをどう信じてもらうかってところだ。
魔法を使えない人たちに。
俺たちがいくら読み取れませんと言っても、それを
かと言って、精神感応についてひた隠しにすると言うのも、有り得ない。
唯一出来ることは――誠実に伝えることだけだろうな。
……マジで頭が痛い。
それに、俺は不安を
本当に、人の心を探ることは出来ないのか、と。
俺自身、さっきの澪羽とのことは
ないのだけれど、「回線が
一回目は、東の森で奇妙な人工物を見た時。
二回目は、東の森で倒れた後、保健室で目覚める直前に声を聞いた時。
三回目は、東の森でリィナたちと話している時。
四回目は、ザハドの広場で、急に気分が悪くなった時。
三回目のケース以外は、どれも一方的に「
特に一回目と四回目。
一回目に至っては、俺は
もしかしたら精神感応とは別物なのかも知れないが、ノックのような相手の同意がなくても何らかの影響を及ぼすことが出来る技術があると考えるべきだ。
――こんこんこん。
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