第五章 第28話 学校訪問 二日目 その8

 子どもたちがワイワイと図書コーナーで騒いでいるのと、ほぼ同時刻。

 グラウンドに設置された天幕ジャールドの内の一つにて――


 ――二人の男が難しい顔を突き合わせていた。


 うしろにひかえる従者エルファ二人も、何かを考え込んでいるような顔つきである。


「ディーよ。どうじゃったよ、この二日間」


ニーベルス様ノスト・ニーベルスこそ、如何いかがでしたか? 禁足地テーロス・プロビラスの……異人アルニエーロたちが住む場所は」


「……何じゃそのニーベルス様とか言う、他人行儀な呼び方は。普段通りじいさまと呼ばんか。お前がそのようにわしを呼ぶのは、大抵ろくでもないことを考えてる時じゃろが」


 ディーと呼ばれた男――ディアブラント・アドラス・リューグラム弾爵だんしゃくは軽く肩をすくめて言う。


ひどいことをおっしゃる」


 しれっとした表情イレームのディアブラントを、ニーベルス様ことニーベルス・ライフニド・リンデルワール凰爵こうしゃくが軽くにらんだ。


「そのようなまらぬ小芝居こしばいなど、わしの前でする意味はなかろう? 婿殿ノス・スーベラ。いいからお前の思うところをべるがよい」


ネポス婿むこ、ですよ。それではじいさま、お言葉に甘えて」


 一つ咳払せきばらいすると、ディアブラントは話し始めた。


「私としては、端的たんてきに申しまして無事、大筋おおすじにおいて答え合わせがったと言えます」


「ほう……ちなみにどのような疑問に対しての、じゃ?」


「分かっておられるくせに……彼らが何者かと言う事、そして今後彼らをどうぐうするべきかという事ですよ」


絵図えずけたと?」

「じいさま」


 溜息ためいきをつくディアブラント。


「私は試験プロヴィスでも受けているんですかね」

「そんなつもりはないがのう」


「それならじいさま、晩の会食ミルゲーゼの際に見せられたあの数々の信じがたい動く絵・・・実物じつぶつのように精緻せいちきわめたイルディアについて、一体どのような感想ペルソスいだかれたのか、お聞かせ願いましょう」


「ふむ。あれか」


 ニーベルスはその豊かな顎髭あごひげをくりくりとじりながら、


「あれは、そうじゃな……我々の文明メルディエータとは全く異なるもの。エレディールはおろか、モーラにもメリディオにも、あのような高度な文明は存在しないし、かつて存在したこともないはずじゃな」


「恐らく、社会トブラム根幹こんかんしている技術ロジカ体系フィルコーラスそのものが異なっているのだと、私は愚考ぐこうしますね」


「と言うと?」


「彼らの文明からは、魔法ギーム香り・・が全くしません。事実、彼らは魔法を全く知らなかったようですし、ほとんどが行使できないと聞いています」


「わしが思うに、その『ほとんど・・・・』というのが曲物くせものじゃよ」

全く同感ですリミニオサマナス


「――ディアブラント様」


 天幕の入り口で何やら呼ばれて話していたラーシュリウスが、突然会話に割り込んできた。


「お話しちゅう大変申し訳ありませんが、動いたようです」

「どっちだ?」

「ユーリスタフです」

「そうか」


 短く答えると、ディアブラントはニーベルスに向き直った。


「じいさま」

「分かっておる。ローシュよ」

「は」


 ニーベルスの後ろに立っていた男が答える。


「カメリオに行かせよ」

「は。ただちに」


 そう答えるやいなや、彼は風のように天幕の外に出て行った。


「困ったものじゃのう」


面目めんぼく次第しだいもございません。しかし、まだしばらくは泳がせておくつもりです」


「今はまだそれでよかろうが、まあよい。それよりお前のもう一つの答え合わせの結果についても聞かせてもらわんとな」


「分かりました。それで――」


 ――二人の貴族ドーラの会話は、それから小半時こはんときほど続いた。

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