第五章 第25話 学校訪問 二日目 その5

 ザハドからのお客さんたちを迎えての二日目。


 空手、ピアノリサイタルと午前中のイベントは、とりあえず無事に終了した。


 山吹やまぶき先生のリサイタルが終わったこのあとは、昼食までフリータイムだ。


 お客さんたちも多少勝手は分かってきただろうから、一斉いっせいに案内するのはここら辺にして、それぞれ好きに過ごしてもらおうというわけだ。


 昼食も室内だけじゃなくて、グラウンドも使ったバーベキューのようなスタイルでもてなす予定。


 と言っても、外のかまどや石窯いしがまだけじゃとても手が回らないから、臨時の焚火たきびで串焼きにしたり、職員室のIH調理器とかもフル回転させたりして対応するのだ。


 だから正確な意味でのBBQバルバコアじゃないけど、まあそこはどうでもいいな。


 ――お客さんたちは自由時間でも、俺たちはもちろんそうはいかない。


 昼食の支度したくも、いよいよ佳境かきょうに入った感じだ。


 音楽室からは、ピアノの音色が聞こえてくる。

 リィナたちがもっと弾いて欲しいとねだっているらしい。

 今の時間は、向こう側の通訳としての仕事から解放されているんだろうか。


 カルエリック――シーラの父親だが、エリックと呼ぶ――は、今そこで椎奈しいな先生に突きや蹴りを教わっている。


 裏の駐車場では、バイクの体験乗車のために瓜生うりゅう先生がスタンバってる。


 流石さすがにお客さんたちに運転させるわけにはいかないから、ただのタンデム二ケツね。

 東の森の入り口までとか、その辺の草っぱらとかを走るんだと。


 俺は通訳だが、何故なぜか今はぽっかりと暇になっているので、職員室前のグラウンドに出てぷらぷらしている。


 もちろん、呼ばれたらすぐに駆けつけられるように、目につきやすい場所で。


 念のため、コミュニケーション用のスケッチブックとマジックペンを各所においてあるので、そうそう困ることはないだろう。


 エレディール語?についても、事前にある程度のレクチャーはしてあるしな。


    ◇


 そうしてフリータイムが終わり、ワイルドな昼食を皆で楽しんで食休みが終わった頃、それは始まった。


 ――学校勢対ザハド勢の親善しんぜんドッヂボール大会だ。


 学校勢であるこちらがわは、かがみ先生、瓜生うりゅう先生、俺、椎奈しいな先生、壬生みぶ先生の五人。


 ザハド勢は、リューグラムさんと護衛一人、リンデルワールさんの護衛二人、エリィナさんの五人。


 ちなみにあちらさん、五名中三人が女性だ。

 ……いやまあ女性だからってあなどる気はないけど、これは――どういう意味だろうか?


 ルールについては、チュートリアルとして俺たちが模擬もぎ的にやってみせたから、大丈夫そう。


 あーふんふん、分かりましたみたいな感じだったから。


 ――それで今、肩慣らしのためにキャッチボールのようなことをやってるんだけど……正直言って俺はビビってる。


 何と言うか……ガチ度が違う感じがする。


 いやだってよく知らないけど、あれだろ? 護衛の人なんだから、きっと槍とか投げててもおかしくないわけだし、その感覚でボールをぶち込まれたら一体どうなってしまうのか……こわすぎて想像もしたくない。


 親善って意味、どうやって伝えたらいいんだ?


 ――そうこう言ううちに始まってしまった。


 まず、最初の外野がいやを決める。


 こっちは椎奈先生になった。

 あっちは……リンデルワールさんの護衛の人になったようだ。

 確か――リディアレーナとか言う女の人だったか。

 はからずも、双方とも女性が元外野もとがいやということになった。


 次にボールを取るか陣地を選ぶかを決めるのだが、陣地などどちらでも大差ないので、実質的にはボール先取せんしゅ権の取り合いだ。


 もちろんここは、ザハド式ジャンケンである「ヴァルコラ」で決める。

 そう言うふうに説明もしてある。


イシウスヴァルカ!」


 ……ボール権、ゲット!


 一応こちらのキャプテンは鏡先生だけど、あんまり自信はないらしく、ひたすら逃げとけにてっすると彼は公言してるので、一発目の投げは……壬生先生に頼もう。


 まあ、いきなり当てにいくのは悪手あくしゅだよな。


 壬生先生もそれは分かっているようで、最初は山なりに投げて外野に送った。

 敵さんはしっかり備えて移動しているので、椎奈先生からも山なりで返ってくる。

 受け取った瓜生先生も、まだ相手を崩せていないから、再度外野へ送る。


 すると、ボールをキャッチするやいなや、椎奈先生が最初の勝負に出た。


 流石さすが体育主任というべきか、たまほうるフォームがさまになっている。


 ギュンッ、と音のしそうなボールが、何といきなりリューグラムさんを狙った。

 それを華麗かれいけるリューグラムきょう


 そのボールを拾って、瓜生先生が一番近くにいたエリィナさんに容赦ようしゃなく叩きつけた!――が、何とエリィナさんはそれを軽々キャッチ!


 そして、フォロースルーの姿勢のままなか呆然ぼうぜんとしている瓜生先生のひざに、ピッチングマシンからはなたれたようなボールが炸裂さくれつ


 ピッ!


 審判の如月きさらぎ先生の笛がするどく鳴る。

 周りの応援席からどよめきが上がる。

 いきなり瓜生先生がられた。


 ……いやいやマジか。


 決してエリィナさんをめていたわけじゃないけど、護衛の人たちにばっかり意識がいってて、完全にノーマークだった。


 ――とんだ伏兵ダークホースじゃんか。


 瓜生先生を外野へ追いやったボールは、敵フィールドに転がっていき、それをリューグラムさんの護衛の人が拾った。

 ディタロスラーヴァという、これまた女性だ。


 俺たちを鋭い目で見回し、高めのボールで外野にパス。

 元外野のリディアレーナさんは、キャッチするなり短く内野にパス。


 ――それから、しばらくのあいだパスラリーが続く。


 そのかん、俺たちは何も出来ずに移動するのみ。


 そして、何度目かのラリーの後、突如とつじょディタロスラーヴァさんのするどいシュートが壬生先生を襲った。


 壬生先生はかろうじてけるが、真後ろにいた俺にヒット。


 アウチ!


 ……いや、俺は別に壬生先生をたてにしていたわけじゃないよ?


 偶然交差クロスしたところに、球がすっ飛んで来ただけ……だよな?

 狙ってやったんじゃないと信じたい。


 ――――――

 ――――

 ――で結局、試合はザハド勢の圧勝で終わった。


 椎奈先生が最後までしぶとくねばったが、たった一人で戦況せんきょうくつがえすにはちょっとばかり相手が悪すぎたようだ。


 こっちは何とか一人、リンデルワールさんのもう一人の護衛の人――カメリオという男性――に当てて完封かんぷう負けだけはまぬがれたけど、内容的には完敗だったな。


 敗因は……身体能力の差なのか?

 考えてみれば、向こうはアスリートみたいなもんだからなあ。


 まあでも、向こうには気持ちよくなってもらえて、接待せったい的にはよかったのでは?

 ……負けしみじゃないぜ?


 ――その後は、あっちとこっちの子どもたちメインのゲーム。


 と言っても、向こうの子どもはリィナとシーラだけなので、リィナ組対シーラ組みたいに分かれておこなった。


 こっちはまあほのぼのしててよかった。

 一番最初にぶち当てられた芽衣が「もー!」とぷりぷりしてて笑った。


 ――そして最後は、参加できる数だけ参加した総力戦。


 あまりに混沌こんとんとしててバトルロイヤルのような様相ようそうになったが、逆にザハド勢に接待されてゲームとしては一番楽しかった。


 ――ドッヂボールが終わった後は、バドミントンの道具を引っ張り出してきてラリーを楽しんだり、キャッチボールをしたり、その辺に集まってくっちゃべったりして、のんびりとした時間を過ごした。


 スポーツはあれだ、言葉がらないから楽でいい。


 ――ここまでを評価するに、お客さんの様子からかんがみて、十分じゅうぶんに楽しんでもらえていたと言っていいのではないだろうか。


 午前と午後で、せいどうと言うメリハリのいた構成になっていたのもよかったと思う。


 何しろここって学校だから、正直こんな感じでしかおもてなし出来ないんだけど、俺たちの文化を知ってもらうためってことで、勘弁してもらおう。


 ――こうして気持ちの良い汗をかいた後は……とうとうお楽しみの時間だ。

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