第五章 第18話 来校

 リィナです。


 ……進む道のさきほうが、大分だいぶ明るくなってきた。


 最近、りょーすきたちと勉強メレートを頑張ってた猟師ロヴィク小屋ユバンは、とっくに過ぎた。

 もうしばらく歩けば、シルヴェスの出口が見えてくるはず。


 私に新しいエスキム景色ヴールを見せてくれる、特大のヴラットがもうすぐ開こうとしてる――


 ――とうとうこの日がやって来たんだ!


 お父さんダァダお母さんマァマ学舎スコラート友達アプリアには心配されたけど、ものすごくうらやましがられもした。


 だって……禁足地テーロス・プロビラスだよ?


 何十年、もしかしたら何百年もの間、誰も立ち入ったことのない場所――――


 ――今更いまさらだけど、そんなところに私なんかが立ち入っていいのかな?


 禁足地になってる、おっかないフィーブル理由カラーナも教えて頂いたけど、何故なぜか問題ないって聞いた。


「あ」

 私のとなりを歩くシーラが声を上げた。


「見えてきたね」

ホントプラウダ? ……んー」


 前を歩く人たちが、正直言って邪魔エステント……なんて言ったら失礼だね。

 今までだったら、姿を見ることすら滅多めったにないようなかたたちなんだから。


 ――私たちの先頭を、シーラのお父さんエリックさんが歩いてる。


 その後ろをリューグラム様ノスト・リューグラムといつものお付きのオリヴァロ様ノスト・オリヴァロ――リューグラム様はラーシュって呼んでた――が。


 続いてリューグラム様の護衛レスコールのお二人が私とシーナの目の前を歩いてて……そして何故なぜか、私の後ろをあのエリィナさんが歩いてる。


 ――一体いったいどういうことなんだろう……?


 いつも御者コチェロをしてる、えーっと――マルグレーテさんは一緒じゃないみたい。


 貴族ドーラっぽいとは思ってたけど、リューグラム様やリンデルワール様ノスト・リンデルワールのお知り合いだったなんて……もしかして「エリィナさん」なんてれ馴れしく呼んでたら、まずいのかな。


 で、そのリンデルワール様は護衛の四人と一緒に、最後尾さいこうびを歩いてる。


 護衛の人たちは、それぞれ小さな荷車キャリコスを引いているんだけど……いざって時大丈夫なのかな。


 でももう森も抜けそうだし、いいのか。


 ――ホントだ、見えてきた。

 

 前に一度だけ見た、あの大きなパルマフェールボスカが二つ。。

 その横に立っているのは……りょーすきと、んーと……きょーこだ。


 ――どんどん、近づいてくる!


 そして森が切れて……私の目の前にはいつか見た草原メーデと、真っ青メタシュルーミィセレスタが広がっていた。


 りょーすきが歩いてきた。


 そして丁寧ていねいに腰を折って、きれいなエレディール共通語でこう言った。


皆様タ・オーラようこそいらっしゃいましたオナヴェーニャ・サヴァート


    ◇


「ラーシュよ」

「は」


 ディアブラントはふるえる声で、隣りに座る彼の従者エルファに話しかけた。


「このうなフェール馬車カーロは、一体どのような仕組みラクストレイトで動いているのだろうな」


「わたくしにも、皆目かいもく見当がつきませぬ」


リーオがいないから馬車ではないのだろうが……はる東方とうほうにある、かのエリュアスコールになら似たようなものがあるのだろうか」


「確かにアムジールきょうのところでしたら可能性エヴレコスはあるかも知れませんが……りょーすき殿たちに同様の魔法技術ギオロジカがあるとは、少々考えにくいところですね」


「今頃じいさまは、どのような感想ペルソスを持ってらっしゃることだろうか……」


 ため息ハスパーをつきながら、ディアブラントは前を走るもう一台の「鉄の馬車」を見やる。


 どうやら学校側は十三名を一度に運ぶだけの「車」を手配出来なかったようで、一台にリンデルワールら五人、もう一台にリューグラムたち四人が乗り、先んじて目的地を目指していた。


 残りの四人については、先頭車がリンデルワールたちを降車こうしゃさせてから、再度迎えに行くことになっている。


「これからの三日間は、心して過ごさねばならないな」


 ヴィエルシュルーム二分にぶんされた車窓しゃそう景色ヴールマータを向けながら、ディアブラントはつぶやいた。


「と、申しますと?」


かじ取りの方向を見定める必要が有る、ということさ。これから見聞けんぶんする事実は、他の貴族ドーラたちにも確実に広まる。間違いなくな」


「それは……そうでしょうね」


「そのは彼らをめぐって、対立構造が生まれるだろう。何より王家ル・ロアがどう反応するか。その中でがリューグラム家は……いや、まだよく分からないうちにあれこれ憶測おくそくたくましくするのも……ここはひとつ、虚心坦懐きょしんたんかいになって彼らの文化メルディルスを味わわせてもらうべきだろうな」


「はい」


 二人の感想を背に、何を思うのか。


 エレディール共通語は全くと言っていいほど分からないたちばな響子きょうこ教頭だが、二人の真剣な様子から何かを察しているかも知れない。


 しかし、前方のみを凝視ぎょうししてステアリングを握る彼女の表情から読み取れるものは、今はない。

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